平成27年度防衛予算概算要求概要第四回は重要施策である水陸機動防衛力整備、特に新型艦について。
概算要求に明示された強襲揚陸艦/多目的輸送艦の概念図は全通飛行甲板を有し、航空機格納庫の下に揚陸艇などのドック区画が容易され、車両は航空機格納庫とドック区画とに隣接し車両甲板が配置されているほか、全通飛行甲板にも車両が配置できると表示されていました。
注目すべきは全通飛行甲板にもAAV-7と類似した水陸両用車が描かれているところで、これはエレベータ強度及び飛行甲板強度が装甲車両の自走に耐える程度の水準にある事を意味しています。この点は、現用の輸送艦おおすみ型よりも強化されているといえるでしょう。
その満載排水量については未知数で、外見からは、現行の輸送艦おすみ型よりはかなり大型になると、船体の各種構造や航空機との対比から考えられ、更にはヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが型よりも舷側エレベータの位置関係から大型となりそうで、建造中のヘリコプター搭載護衛艦いずも型に匹敵する全長となるかもしれません。
乾舷はドックを有する分高くなっているので、フランス海軍のミストラル級を拡大したような規模、米海軍のワスプ級強襲揚陸艦などと比較すれば小型になる、という印象です。兎にも角にも今後の研究を行い、その後に設計を行い要求する、もう少し先の話となるようです。
これはコンパクト護衛艦が建造される平成30年代での就役となるのでしょう、即ち実際の建造はまだ先、ということになるのでしょう。言い換えれば、それまでの間、既存艦艇の延命が必要となり、併せて何隻新型艦が建造されるかは、既存艦艇を延命するか代替するかにもかかわるといえるでしょう。
航空機について。強襲揚陸艦/多目的輸送艦の全通飛行甲板には、海上自衛隊のMCH-101掃海輸送ヘリコプターや陸上自衛隊のAH-64D戦闘ヘリコプターにCH-47J/JA輸送ヘリコプター、航空自衛隊のUH-60J救難ヘリコプターとMV-22可動翼機と思われる航空機が描かれていました。
母艦能力ですが、舷側エレベータ二基が艦橋後ろの船体後部に配置、機内に格納することが分かります。CH-47J/JAとMV-22がそれぞれ載せられています。これは現用の輸送艦おおすみ型と比べて非常に強化されることとなり、両用作戦はもちろん大規模災害時における中枢艦機能も大きくなることを意味します。
おおすみ型ではヘリコプターの搭載がUH-1程度、それ以上の機種はUH-60などでローターを取り外すか甲板係留という方式で、非常に制限されていたのに対し、新強襲揚陸艦/多目的輸送艦では艦内に格納し、整備など長期間の運用ができることを意味しているわけです。
建造費、新強襲揚陸艦/多目的輸送艦の建造費ですが、危惧されるほど大きくはならないと考えます。同程度の大型艦建造の経験は多々あるのですし、速力は護衛艦のように30ノット必要ではありません、22ノット、場合によっては19ノットでも対応でき、機関出力は速力が倍となれば必要な出力が二乗倍になりますので、抑えれば建造費を縮減できる。
さらに輸送艦おおすみ型のように性能を任務に特化した程度に、例えば隣国韓国がドクト級揚陸艦で実施したような無理な多機能レーダの搭載など、非効率なことを行わないのであれば建造費は抑える余地が多数あります。汎用護衛艦と同程度の建造費に抑える事は十分可能でしょう。
一方で重要なのは人員の拡充と勤務体制の安定と余裕です。特に護衛艦部隊等は過度な勤務体制のしわ寄せが人員へ生命に係る負担を加えています。輸送艦部隊は水陸機動部隊が創設されたならば訓練協同に忙殺されることとなるでしょうから、乗員負担軽減などがどの程度盛り込まれるのか、概算要求はそこまで記載されていません。
おおすみ型輸送艦について、今年度予算でも盛り込まれていますが、おおすみ型輸送艦3隻の改修が来年度予算でも要求されます。改修は、司令部機能強化、エレベータ耐荷重強化、注排水力強化、艦尾門扉開閉機構強化、が盛り込まれる。概算応急に示されていた点についてはこの程度です。
司令部機能強化は両用作戦御陸海空と上陸部隊の会場及び沿岸部での運用を包括指揮する上で非常に重要で、エレベータ耐荷重強化は装甲車両やローター折畳機構を有する航空機を車両甲板と飛行甲板との間で移動させる際の制約に対応するもの、と考えられるでしょう。
注排水力強化は現在搭載しているエアクッション揚陸艇に加えて水陸両用車の発進、重量の大きなAAV-7両用強襲車程度の重量車両発着に対応するための注水を行うもの、艦尾門扉開閉機構強化も水陸両用車の荷重に耐えられる強度を持たせる、という視点でおこなわれるもの。
改修は、部品取得なども行われ、この為に予算10億円が要求されています。ただ、エレベータは耐荷重の強化ならば油圧器具の換装と強化で対応できるのですが、エレベータそのものの寸法を換える事は船体の中央部に配置されているため容易なことではありません。
もともと性能的にはドック型揚陸艦を意識した輸送艦ですので、エレベータの拡充は特に要求されている10億円の予算ではとてもではないが対応できないでしょう。おおすみ型輸送艦は満載排水量14000t、あまり過度な要求を行いますと全体のバランスに不協和音が生じ対応できなくなりますので限界があるのですが、おおすみ型輸送艦の要求当時では考えられないほどの周辺地域の緊張が高まった、といえるのかもしれません。
水陸機動部隊の創設に必要な装備品の調達は以上の通りですが、このほか、脅威正面に当たる南西諸島の防衛力も許可に向けた予算措置が行われます。日本の離島全てに防備部隊を配置できないとは冒頭に述べましたが、脅威正面の周辺に防衛上の空白があるならば、周辺国に誤った印象を与えかねません。
具体的には航空部隊の配置や沿岸監視部隊の配置に新駐屯地取得の準備などと共に機動展開部隊の輸送手段に関する整備も行われます。こちらについては機動ではなく基盤防衛にあたるものですので、もう一つの重要施策として別稿にて紹介することとしましょう。
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