平成27年度防衛予算概算要求概要の重要施策、ここには南西諸島配備部隊の増強が明示されています。
南西諸島防衛は冷戦時代の北海道防衛と並ぶ重要任務となりつつある現状では、冷戦時代の北部方面隊が隷下四個師団にあって重装備の三個師団を地域配備部隊として展開させると共に一個の機甲師団を機動運用させる体制を構築していますが、南西諸島防衛においても機動運用部隊が創設される、ということ。
機動運用部隊に水陸機動団を充てると共に、沖縄県全域と鹿児島県島嶼部の防衛警備強化へ配備部隊の増勢を行うことで対応する方針を示しており、こちらが平成27年度防衛予算概算要求にも反映されました。今回紹介する重要施策は、この施策について。
あたらしく創設される部隊により南西諸島配備部隊を増勢し初動での対応能力と着上陸対処能力を強化し、状況拡大を阻止するもしくは着上陸兆候をいち早く把握し情報優位を構築し機動運用する水陸機動団と西部方面隊隷下部隊の支援部隊展開を有利に展開させる方針なのでしょう。
南西警備部隊の配置に34億円、与那国島駐屯第303沿岸監視隊の新編配置へ継続と宿舎整備費用に2億円、那覇基地の第83航空隊の第9航空団への拡大改編と築城基地第8航空団隷下の二個飛行隊のうち一個飛行隊の那覇基地移転による二個飛行隊編成化など。
平成27年度防衛予算概算要求に盛り込まれている数多の施策の中で南西諸島配備部隊強化に関する具体事例としては以上の通りの施策が執り行われる模様です。間接的には新早期警戒機や滞空型無人機取得なども含まれるといっていいかもしれません。
しかし、南西諸島はこれまで那覇の第1混成団基幹時代は普通科中隊が全体で二つしか無く、有事の際には増援展開しなければ防衛を維持できないと言われたほどの防衛上の空白地域と長く指摘されてきましたが、ここ数年間の施策により大幅に防衛力は高まっています。
南西警備部隊の配置は、平成27年度防衛予算概算要求概要において“島嶼防衛における初動対処態勢を整備するため、警備隊等の配置に関連する奄美大島の用地取得経費等を計上”、と記されています。これは先日報道があった奄美大島への新駐屯地配置に関するものです。
奄美大島駐屯部隊、中距離多目的誘導弾部隊や地対艦ミサイル部隊等が駐屯し沿岸監視部隊や支援部隊等の駐屯も併せて検討されていると報じられてきましたが、まずその用地取得を行い駐屯地増勢に着手する、ということ。奄美大島は鹿児島県島嶼部最大の離島で沖縄本島の北側に位置するところ、この北部の奄美市に駐屯地を、南部の瀬戸内町にも駐屯地を置く方針を示しました。
奄美大島は沖縄戦において沖縄32軍隷下に置かれ、奄美大島要塞を中心とした防備態勢と旅団と戦車中隊なども配置され、結果、米軍は沖縄本島と周辺島嶼部に上陸したものの、奄美大島への着上陸はおこないませんでしたが、この教訓が活かされることとなります。瀬戸内町には奄美大島要塞の砲台跡があり、現在でも公園として整備されているとのこと。
奄美大島へ二か所の新駐屯地新設、この費用としてまず34億円を支出、駐屯地の造成などについては来年度予算では行わず差来年度以降に開始されると読み取れます。従って、地対艦ミサイルや中距離多目的誘導弾の移駐費用、ミサイルの定数などについては防衛計画の大綱に明示がありこちらで増勢は行われないようです。
したがって他方面からの管理替えで対応し、新規取得は既存装備の旧式化や老朽化に伴う代替措置のほかには行われないので、製造を待って配備を、というような新たに要求する必要はありませんから、言い換えれば用地取得と駐屯地増勢が行われたならば比較的早い時期に管理替えを行い、駐屯は実現することとなります。
用地取得は自衛隊施設建設において難航する要素の筆頭ですが8月12日に防衛省の武田良太副大臣が鹿児島県奄美大島を訪問した際奄美市の朝山毅市長と瀬戸内町の房克臣町長と会合し、その協力を求めたところ両首長から理解を示した、と報じられていましたが、実現すれば鹿児島沖縄間防備抜本強化することとなるでしょう。
こういいますのも地対艦誘導弾の射程は180km、沖縄本島に地対艦誘導弾を配備した場合、沖縄本島と奄美大島への配備で南西諸島の大半の海域がその制圧範囲に入ります。地対艦誘導弾は一個連隊に6連装発射装置16両を配備していますので、同時に96発を投射可能、この斉射に耐えられる両用戦部隊はあまり考えられません。
この支援に射程60kmとも伝えられる中距離地対空誘導弾が併せて配備されますので、奄美大島の配備計画の戦略的意義の大きさが分かるでしょう。また、概算要求を見ますと、沖縄県についても防備強化が行われますが、こちらは次回に紹介することとしましょう。
北大路機関:はるな
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