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ペロシ下院議長台湾訪問-米中の譲れぬ一線と過去の"1996年-第三次台湾海峡危機"中国軍ミサイル演習

2022-08-06 20:18:45 | 国際・政治
■沖縄隣接の米中台緊張
 台湾海峡危機を対岸の火事と思うのは自由ですが細い水路の対岸にあるのがアコーディオン工場やモノマネ教室ではなくコンビナートや原発であったらどうでしょうか。

 ペロシ下院議長の台湾訪問は中国がその可能性を封じる為に様々な施策を行い、早速の軍事演習を行っていました。しかし、中国が軍事演習を行ったので台湾訪問を断念したとなれば、それは中国に“軍事力で脅せばアメリカは見逃す”という前例を作る事となる為、アメリカは引けないという構図がありました。しかし、中国の圧力は軍事性を帯びてゆく。

 嘉手納基地にKC-135空中給油機22機が集結した、非常に驚かされたのですが2日夕刻までにアメリカ空軍は沖縄県に異例の規模の空中給油機を集めました、そして2日2000時にKC-135空中給油機5機が離陸し、続くように嘉手納基地第18航空団所属のF-15C戦闘機8機が離陸します、これはクアラルンプールから台北に向かう下院議長の護衛と思われる。

 原子力空母ロナルドレーガンの台湾東方海域への展開、アメリカ海軍は2日、通常の訓練一環として原子力空母ロナルドレーガンとイージス艦などを随伴艦として4隻を台湾海峡東方に展開させていると発表しました。展開したのは原子力空母ロナルドレーガン、強襲揚陸艦トリポリ、ミサイル巡洋艦アンティータム、ミサイル駆逐艦ヒギンズとのこと。

 強襲揚陸艦トリポリはF-35B戦闘機を搭載しており、第五世代戦闘機であるステルス機の搭載により中国の航空母艦に対抗出来る水準となっています。他方、この頃中国は台湾海峡中間線よりも台湾側へ戦闘機等を展開させており、一歩双方が緊張緩和以外の方向に進むならば、第四次台湾海峡危機へと展開し得る状況でした。いや米軍は台湾東方ですが。

 第三次台湾海峡危機、今回のペロシ下院議長訪問に伴う一連の緊張は1995年から1996年にかけての第三次台湾海峡危機との類似性が指摘されます、もちろん当時とはかなり情勢は異なりますが、共通点は台湾の独自性を示す選択肢に対しては中国は軍事力の使用も躊躇しない軍事的示威行動を執る点、そしてアメリカが軍事恫喝に屈しない点の二番煎じ。

 李登輝総統のもとでの中華民国初の民主的な国家元首総統選挙、この施策に対し大陸中国は台湾海峡において軍事演習を開始、弾道ミサイルを台湾近海に連続して打ち込み選挙を行わないよう圧力を掛けました、弾道ミサイル演習は徐々に台湾島付近に着弾海域を近づけており、このまま国共内戦の再戦、台湾領域への人民解放軍侵攻が必至とおもわれた。

 クリントンアメリカ大統領は、しかしこの明白な民主主義への軍事恫喝へ即応する事となりました、原子力空母ニミッツ、空母インディペンデンスの空母戦闘群を台湾海峡に遊弋させ、仮に空母に攻撃を加えられれば全面戦争も辞さないという覚悟を示した構図です。これは諸説あり風説ともいわれますが、中国共産党軍事委員会は真剣に攻撃を考えたとも。

 中国海軍と空軍の総力を挙げれば空母二隻を撃沈する事は可能だが海軍全ての戦力と空軍の半分を失う、諸説ありますが当時の人民解放軍はアメリカ空母、一隻で中堅国の空軍を凌駕する航空戦力と大量の艦艇により防衛されている空母戦闘群を二つ相手にした場合の中国軍の損耗を冷静に評価した上で、それでもやれというならばと現実を示したとされる。

 弾道ミサイル演習は台湾南部の高雄から25カイリ、台湾北部の基隆から35カイリという近距離に着弾し、いよいよかと懸念はありました。特に台湾の離島は澎湖諸島や馬祖諸島に金門島など中国本土から0.8kmの近距離という離島もあり、緊張が続いたのですが、アメリカ海軍の空母戦闘群が不動の圧力を掛け続け、ついに演習は終了が宣言されたのです。

 影響として、中国は面子を傷つけられた、特に海軍予算は八路軍時代からの陸上戦力重視を続けた中国にとり優先度が低く、これが響いたかたちとなりました。その後中国はロシアからのミサイル駆逐艦調達開始や国産艦建造強化の指針を示し、その後の中国経済発展と共に2010年ごろには日本の海上自衛隊に並び2010年代には追い抜く事となりました。

 空母遼寧、中国海軍初の航空母艦導入もこの第三次台湾海峡危機を受け、ウクライナからソ連の未成空母ワリヤーグを調達したものであり、今日の中国海軍はロシア海軍を凌駕する規模となっていますが、その始まりは第三次台湾海峡危機において、アメリカ海軍空母へ手も足も、ほんとうにでなかった、その厳しい戦訓を反映したものだといえましょう。

 今回、アメリカ海軍は台湾海峡には展開していません、ただ、第三次台湾海峡危機ほど中国も台湾近海にミサイルを撃ち込むような措置は、少なくともペロシ下院議長到着から現時点までは行っていません。一方でアメリカ海軍の作戦能力と中国海軍の戦力は、1996年と2022年とでは以前ほど広い訳ではなく、今後も日本の直ぐ南は長く緊張が続きそうです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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