北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

検証:ホルムズ海峡日本タンカー等2隻攻撃事件,リンペット機雷証拠映像とMQ-9無人攻撃機

2019-06-17 20:01:39 | 国際・政治
■コクカカレイジャス号攻撃
 ペルシャ湾とアラビア海を結ぶホルムズ海峡は中東からの原油供給に依存する日本の生命線の一つ、ここで13日に発生したタンカー2隻の襲撃事件を改めて検証してみました。

 6月13日にホルムズ海峡で発生した日本タンカー攻撃事件、魚雷攻撃という第一報に国籍不明魚雷艇出現ならば海上警備行動実施の必要性と考え、報道は磁気機雷と一転し機雷敷設ならば掃海艇派遣の必要性を考え、続いてリンペット機雷による破壊工作という情報、そしてリンペット機雷では破壊できないタンカー上部構造物への被害と情報が錯綜しています。

 安倍総理大臣イラン歴訪、日本の総理大臣として41年ぶりの訪問と共にイラン最高権力者であるハメネイ師との会談中に発生したホルムズ海峡でのタンカー連続襲撃事件、時間が経つと共にイラン関与説、イラン軍実行説、第三国説が混在していますが、対応を誤れば中東地域での大規模な戦争や緊張に繋がる可能性が大きい。先ず、情報を整理しましょう。

 コクカカレイジャス号とフロントアルタイル号に対するホルムズ海峡での攻撃、日本タンカーとして運行されていたコクカカレイジャス号とノルウェータンカーであるフロントアルタイル号、共に沈没は免れました。攻撃は魚雷攻撃という情報とリンペット機雷による破壊工作という情報、艦砲やロケット弾等の水線上への攻撃と情報が幾度も錯綜しました。

 フロントアルタイル号乗員は攻撃を受け、タンカー爆発の危険から乗組員は全員退避し、イラン海軍に救助されました。火災は大きく、イラン当局が消防艇を派遣し消火を実施、一時イラン国営放送により沈没との報道がありましたが、運航するノルウェー企業フロントライン社により沈没は免れていると発表、乗組員は魚雷攻撃を受けたと証言しています。

 フロントアルタイル号乗員は運行するフロントライン社の発表として、イラン海軍に救助されイラン南部ジャスク港へ回航され、15日までにペルシャ湾の対岸、UAEアラブ首長国連邦のドバイへ到着しました。アメリカ海軍発表として、フロントアルタイル号はホルムズ海洋付近のオマーン湾に漂流、曳航を試みたところ、イラン側に妨害されたとのこと。

 コクカカレイジャス号は二度にわたる砲撃で機関分を破損し、乗組員は全員脱出しアメリカ海軍の駆逐艦に救助されました。機関部の火災は鎮火し、航行に問題は無い為に積荷は別の船舶に移乗させ目的地へ輸送するとのこと。乗組員は砲弾等の飛翔体を目視で確認しており、また船体の破壊は喫水線よりも高く一見して魚雷や機雷の被害ではありません。

 コクカカレイジャス号について、アメリカ海軍発表として火災鎮火後にイラン革命防衛隊の舟艇がリンペット機雷と見られる物体を船体から回収している様子を無人偵察機が撮影、また、攻撃前にMQ-9無人偵察機がイラン側より地対空火器により妨害を受けていたと発表し、攻撃をイラン側の攻撃として非難、イギリス情報機関も同じ見解を示しています。

 タンカー攻撃、確実な情報として三つ。第一に死者は出ていない、第二にタンカーは二隻とも破損したが沈没は免れている、第三に事件現場はホルムズ海峡付近である、以上です。不確定な情報としては、リンペット機雷が用いられたのか魚雷が用いられたのか砲弾が用いられたのか、ということ。現時点で実行犯の画定には至っていませんが、慎重を要する。

 リンペット機雷、旧帝国海軍の重巡洋艦妙高と高雄もシンガポールでこれにやられました。破壊力は小さいのですが、スクリュー等推進装置や舵、冷却水取り入れ口を破壊されますと一時的に軍艦としての機能を喪失します。レイテ沖海戦に生き残った妙高と高雄はシンガポールのセレター軍港に停泊中、イギリス特殊部隊により攻撃、結果、中破しています。

 妙高と高雄へのイギリス軍攻撃は、人間魚雷というX型特殊潜航艇により強行され、日本側は終戦まで共産ゲリラによる暗夜の舟艇破壊工作を疑っていました。リンペット機雷はダイバーが携行できる大きさで、磁気吸着し時限装置か遠隔操作により作動します。小型船ならば沈みますがなにしろ人が運べる大きさ、大型艦は中破させるのが限界というもの。

 リンペット機雷は磁気吸着機雷と説明されます、ただ、一部報道で略して磁気機雷と説明しているものがありますが誤りです。磁気吸着機雷は磁石で船体に張り付き船体を破損させる小型の爆発物、磁気機雷は水中に敷設され船体の磁気等を感知して爆発し船舶を大破乃至沈没させる機雷、これを磁気機雷というのは水素爆発を水爆と略すようで誤解を招く。

 ペルシャ湾タンカー攻撃ではリンペット機雷が用いられた事件が四件続いており、今回もこちらが用いられた可能性があります。もっとも、イランはイエメン内戦への関与が指摘され、イスラエルへ革命防衛隊関連組織がロケット弾攻撃を行う等、周辺国との対立が激化しており、リンペット機雷によるタンカー攻撃首謀者が同一であるかを含め、調査中だ。

 推測です。MQ-9無人攻撃機を狙った携帯地対空ミサイルが大きく逸れて付近を航行するコクカカレイジャス号に命中したのではないか、飛翔体という目撃情報と一致しますし、携帯地対空ミサイルの多くは赤外線感知方式、船舶が最も熱を発するのは機関部からの排熱であり、機関部が火災を引き起こした被害状況とも一致します。破壊部検証が必要となる。

 MQ-9無人攻撃機はRQ-1無人偵察機の拡大改良型としてアメリカが開発したもので、全幅20mと大きい、実用上昇限度は15000mと巡航高度は7600mとなっています。そして携帯地対空ミサイルの有効射高は3000mから4000m程度、日中であればMQ-9は7600mの高度でも目視は不可能ではない、が、携帯地対空ミサイルではMQ-9まで届かないのです。

 リンペット機雷による攻撃が相次ぐ中、アメリカ軍は中東地域の同盟国や友好国と共に警戒監視を強化しています。そこで警戒中のMQ-9がタンカー付近に不審な船舶を発見したところ、不審船舶からの攻撃を受けたが命中せず回避に成功、しかし不審船舶からの攻撃は付近を航行していたコクカカレイジャス号に命中、機関部火災を引き起こした、のでは。

 調査により判明します。イラン側はアメリカの主張をアメリカの自作自演としており、MQ-9にはAGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルの運用能力があり、穿った見方ではイランの攻撃に見せかけヘルファイアで攻撃した可能性は残ります。携帯地対空ミサイルは11kg、ヘルファイアは48kg、そしてコクカカレイジャス号の破損部分に物証があります。

 破損部分にはミサイル部品と燃焼剤や炸薬の残滓が確実に残っています。イラン製携帯地対空にMISAGH2というものがあり、2005年からイラン軍と革命防衛隊で運用されていますし、AGM-114はアメリカ軍を始め各国、陸上自衛隊と海上自衛隊も運用しています。他にもミサイルは世界に数多ありますが、破損部分を検証する事で種類は判別出来ましょう。

 イランが日本の首相が歴訪し最高指導者との会談中に攻撃を行うものなのか、と思われるかもしれませんが、この実情は革命防衛隊がイランイスラム評議会直轄の軍隊であり、イラン政府が指揮命令系統を有しているイラン軍とは別の組織である、という事を理解するべきかもしれません、そして日本ならば、この指揮命令系統の重複が理解しやすい筈です。

 幕末の京都を思い出していただきますと、イラン軍と革命防衛隊の指揮系統の違いは類推できるのではないでしょうか、勤皇浪士と幕府軍の関係に、誤解を恐れなければ、ある程度共通性があるのです。幕府と友好関係を持っていたとしても勤皇浪士に襲撃され得る、この為に幕末に外国人は京都に近寄る事が出来ませんでした。こう理解すると分りやすい。

 安倍総理のイラン歴訪は、イランのザリーフ外相が5月16日に来日し、アメリカとイランの対立を前に緊張緩和を目的として要請されたものです。これをトランプ大統領の令和初の国賓来日に際しイランとの緊張緩和を要請され実現しました。イラン政府としては安倍総理のイラン訪問を歓迎した構図ですが、イランは政府の上にイスラム評議会があります。

 イラン政府の行政機構はこの通り複雑なのですが、イラン政府の安倍総理歓迎とは裏腹に、イスラム評議会は歓迎しているかは未知数であり、これはロウハニ大統領の歓迎とは対照的な発言がハメネイ師との会談において示された事からも読み取れるでしょう。中東は緊張が常態化しており、この緊張を冷静に見る為にも、事実が必要、その手段としてコクカカレイジャス号の破損部分を検証する必要があるでしょう。そして日本企業が運行しており、執行管轄権は日本にもあります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【日曜特集】第14旅団創設6周... | トップ | F-35A三沢沖墜落事故と飛行再... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (軍事オタク)
2019-06-18 10:49:40
ペルシャ湾の安全は日本の死活問題。

独力である程度安全を担保できるように、
空母保有・航空作戦能力・海兵隊化、無人攻撃機を含む無人機の大量導入、インテリジェンス・電磁作戦能力・通信・偵察・砂漠戦・特殊作戦能力・大量輸送能力・補給能力等を大幅に上げないといけない。
返信する
日本本土 (はるな)
2019-06-22 23:00:34
そこまでしますと日本本土の防衛ががら空きになりそうですね
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

国際・政治」カテゴリの最新記事