北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

現状は稼働一隻、ヘリコプター護衛艦の増強は真剣に検討するべき

2010-03-22 23:09:35 | 防衛・安全保障

◆ひえい神戸入港

 本日、練習艦隊神戸入港と歓迎式典が行われたのですけれども、練習艦かしま、は今回の近海練習航海には参加していないようです。

練習艦かしま、何らかのトラブルがあったのか、練習艦隊の徳丸司令官は護衛艦ひえい、にて歓迎式典に参加したようです。ひえい、は、はるな型護衛艦の二番艦で、二門の5インチ砲が背負い式に搭載されていて、強力な水上戦闘艦、という印象を与えてくれます。昨今、水上戦闘艦が平面を多用したステルス性重視の時代にあって、外見からよく視力を発揮できる、こうした護衛艦は貴重です。

しかし、思い起こせば、一つ大きなことを思い出します。現在、稼働状態にあるヘリコプター搭載護衛艦は、ひえい一隻、という実状です。しらね、は舞鶴基地で修理中、火災事故からの最後の復旧整備を行っているのですが、完了までにはもう少し時間を要するようです。そして、くらま、も昨年韓国船が関門海峡で進路を変えて追突してきました影響で艦首が破損、こちらも修理中です。最新鋭の護衛艦ひゅうが、は慣熟訓練が終了しつつある状態、まだ実任務は厳しいでしょう。

ヘリコプター搭載護衛艦は、対潜任務の中枢艦ですし、近年までは護衛隊群の直轄艦として実質的に旗艦として任務に当たっていました。そして、今日では他の汎用護衛艦も満載排水量ではかなり大型化しているのですけれども、それでもなお、航空機整備能力では進んだ部分が大きく、特に日本から離れた地域では、その重要性が顕著に現れてきます。このヘリコプター搭載護衛艦が、意図しないにしても、作戦稼働状態にあるのが、4隻中1隻、というのは少し意外に感じてしまいます。

近年、海上自衛隊の任務範囲が拡大していて、インド洋海上阻止行動給油支援は終了しましたが、海賊対処任務は継続中、そして海賊対処任務に補給艦を派遣できないか、という検討も行われていますし、今年から輸送艦を用いた、いわゆる友愛ボート運用が開始されるとのことで、やはり任務範囲は広域化の傾向にあるようです。こうしたなかで、航空機整備能力と搭載能力、運用能力が高く、海上自衛隊のパワープロジェクション能力では重要な位置を占めるヘリコプター搭載護衛艦というものは、やはり増勢の方向で検討されてもいいのではないでしょうか。

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提案:アフリカ外交重視としての友愛ボート、親善訪問と共同訓練の強化

2010-03-21 23:54:23 | 国際・政治

◆外交・国際交流との共振を目指して

 大西洋クロマグロ国際取引に関する昨今の国際論議は、日本の対外発信能力といいますか外交能力にはまだまだ限界があることを示しました。一方で、自民党時代に重視されていたアフリカ外交の事業評価は必ずしも高くない事が、今回の交渉における日中の影響力で如実に洗われているという印象です。今回はこの話題について。

Img_4729  就任当時、まだ支持率が高かった頃の鳩山総理は、海上自衛隊の輸送艦をNPOなどにも開放して、途上国の巡回医療や文化交流に当てる友愛ボート計画を打ち出しました。この計画はかなり進められていたようで、この計画を実際に行うための演習計画を優先させ、今世紀最大規模の直下型地震災害となったハイチ地震への自衛隊派遣に輸送艦を当てることが出来なくなってしまったのは記憶に新しいところです。

Img_5883  日本国内でも大規模地震への警戒は必要であることから、海上自衛隊は護衛艦隊の八八艦隊とは別に、輸送艦6隻、補給艦6隻から成る六六艦隊を目標に舞台整備を行ってはどうか、と記事を掲載しました。現時点で、おおすみ型輸送艦は3隻のみ、稼働状態にある輸送艦と補給訓練にあたる輸送艦、長期整備に入る輸送艦と、ローテーションを組んでみますと三隻というのはぎりぎりの数字になってしまいますからね。最低でも六隻は必要といえるでしょう。

Img_7432  さて、海上自衛隊による途上国への医療支援や文化交流ですが、本来、軍艦はその国を代表する使節としての性格を有していますから、的外れではないと思います。もっとも、病院船として使う場合ならば一カ所の停泊期間はどのくらい必要なのか、ほかの地域で大規模災害が起こった場合、治療中の入院患者は途中で降ろすのか、それとも一緒に次の被災地へ連れていくのか、という問題が生じますし、文化交流には、果たして300億円以上の建造費をかけたドック型揚陸艦構造を採用した輸送艦である必然性は果たしてどのくらい、という疑問点があるのですけれどもね。方向性だけは確かだろう、と。

Img_7131  こうした一方で、自衛艦の国際発信能力という観点から、この友愛ボートといいますか、水上艦による親善訪問を基調とした各国との友好関係拡大、もう少し長期的に、または外交政策と連携して行われてもいいのではないかと考えます。特に東南アジア地域ではなく、アフリカ地域のような、日本への理解が非常に薄い地域、日本との馴染みが相手国の国民に広がっていない地域との関係で、ODAに代表される国家間援助、自治体国際化協会とともに地方自治体が推進する自治体国際交流、といった既存の体系に重ねて、艦艇の親善訪問を積極的に行うということは重要ではないか、と考えます。

Img_0790  要するにもっとアフリカを寄港先として重視しよう、という意味なのですが。こう考える背景には、アフリカ諸国との日本の連携強化を現在までの関係に一歩進めて行う、という目的を実現する上で必要性があるからです。先日ドーハで行われましたワシントン条約締約国会議における大西洋クロマグロ国際商取引にさいしての、日本側がとった科学的根拠に依拠しない規制への反対という立場とともに、日本側の意見と利害が一致した中国が、支持のまとめに奔走したことにより、もともと友好関係といいますか影響下にあった旧宗主国の姿勢よりも、関係を拡大している中国の意見を尊重した姿勢に転じたという一点について、日本も長期的にODAを投じるとともに、アフリカの開発や貧困の撲滅、教育の普及に取り組んでいる訳ですから、よりいっそう、価値観の共有を目指すことは出来ないか、ということを考えさせられる機会となりました。

Img_7578  ODAで建設される潅漑施設、橋梁、貯水施設、港湾設備といったいわゆる箱もの、青年海外協力隊といった組織を中心に人の自己実現への支援、そして物資の援助などが行われているのですけれども、建物に刻まれた日本のODAにより建設された旨を紹介する刻印を刻むだけでは充分ではない、ということは想像に難くありません。もちろん、このほかには外務省委託での草の根NGO活動を筆頭に様々なものが行われているのですけれども、どうしても広報能力には限界があります。

Img_5837  自衛艦の国際発信能力といいますか、護衛艦が今いわれている友愛ボート以上に、日本の姿勢を示すことができる、国際間の友好関係に寄与することができるのではないでしょうか。例えばアフリカの友好国に、定期的に親善訪問として護衛艦が入港して、護衛艦の一般公開、ヘリコプター格納庫や飛行甲板での交歓会、指揮官の相手国への表敬訪問を行う、ということはそれなりに意義があることでしょう。チャーター機で政治家や政府高官が赴くことも意義があるのでしょうけれども、軍艦旗にあたる自衛艦旗を掲げて、一国の代表というかたちでの護衛艦など自衛艦の訪問というのは、意味が異なってくるでしょう。客船や巡視船、政府専用機ではなく、自衛艦だからこそ行える事です。

Img_6864  海軍に入り世界を見物、これは1930年代にアメリカ海軍が志願者募集のポスターに掲げた標語ですが、現代ではなかなか通じません。今日、海上自衛隊でも艦隊勤務というものは、自由時間や家族との時間などの点から忌避されがち、ということがあります。現在、ソマリア沖で海賊対処任務に当たっている艦艇、そして遠洋航海の艦艇などが、こういう任務に当たることができるのですけれども、練習艦隊は演練が第一目的ですから表敬訪問、友好関係の増進というものを考えるとほかの部隊を編成する必要もあるでしょうか。ローテーションの面では厳しいものがあるでしょう。一方で、インド洋対テロ海上阻止行動給油支援が終了し、ひと段落している現在だからこそ、遠方の海域での展開、というノウハウが構築されているのですし、友好関係の深化、という意義を考えれば、何とかならないのかな、と考えてみます。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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Weblog北大路機関:Windows Internet Explorerの不調に伴う暫定記事

2010-03-21 18:19:31 | インポート

◆機能支障に伴う動作点検

Img_0509  暫定記事とテスト用写真のUP。

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地下鉄サリン事件から本日で十五年 日本のテロ対策はどうなったか

2010-03-20 23:38:31 | 防衛・安全保障

◆自衛隊の対応は万全だった、とはいえるのですが

 F-35Bが垂直離着陸に成功したそうです。X35から随分時間が掛かりましたが、一歩前進ですね。これはかなり大きな話題なのですけれども、日本では地下鉄サリン事件から十五年、という事の方が大きな話題となっています。

Img_0282_1  地下鉄サリン事件。自衛隊指揮官という本が講談社から出版されたのは2002年、防衛大学校出身で毎日新聞記者の瀧野隆浩氏が取材をもとに著した一冊で、地下鉄サリン事件、日本海海上警備行動、MiG25亡命事件、沖縄領空侵犯警告射撃といった自衛隊の転機となった事件、その現場に居合わせた指揮官を、本人や周りの人からの取材で立場や信条、そして心情という面から扱った一冊です。ここに地下鉄サリン事件が最初に出てくるのですけれども、除染の指揮を採った化学科幹部の中村勝美3佐の話が出てきます。

Img_4352  当時大宮化学学校で教官の任にあたっていた中村3佐が警察の機動隊への省庁間協力での化学戦教育と防護服着用法、M8検知紙の使用法等を教育したことから始まり、翌日、突如発生した地下鉄サリン事件を電話で知り非常呼集、市ヶ谷駐屯地に派遣幕僚として6名が化学学校から前進、市ヶ谷駐屯地の第32普通科連隊、福山隆連隊長が派遣隊員に現場の指揮は専門家のアドバイスをよく聞き、その場の最高階級のものが執るように、との命令のもと出動、全ての現場に化学剤の知識と経験のある化学学校からの教官を充て、携帯除染器の11?に5%の除染用アルカリ溶液を充填して出動、検知・作業見積もり・除染・水洗・除染後の検知までを実施、そういった内容を記していました。

Img_7869  地下鉄サリン事件での犠牲者は死傷者6500名以上という、戦後といいますか、世界でも有数のテロ事件となりましたことは記憶とともに、世界のテロ対策関係にあたる方々によって研究されています。神経ガスを使っての無差別テロというものは空前、そして絶後のものですからね。その一方で、大宮化学学校を含め、万一の中の万一という状況があった時に、この国が生き残るため、という責任から準備されていた化学戦の準備というものが、実際に対応することのできた基盤にある、ということでしょうか。平和であっても備え、というものは不可欠なのですよね。

Img_6283  こうした中で、週刊文春の事件記者を経て作家となった麻生幾氏が、2000年に文芸春秋社から“極秘捜査-警察・自衛隊の対オウム事件ファイル”という一冊を出版しています。麻生氏は、小説“宣戦布告”などを著していますので、一種の小説と見ることも出来るのですけれども、阪神大震災を扱った“情報、官邸に達せず”等を読んでみますと、説得力といいますか、扱われているものがかなり真実味の気配を示してくれるものがあります。このあたり、何とも言えないのですが、ともあれ一冊を読んでみますと、オウム事件が有事に発展した場合への備えは相応に行われていたのかもしれない、と思わせるものがありました。

Img_6168  読み解けば装備への故意なのでしょうか稚拙な誤植もありましたけれども、オウムが所有していた業務用無人機がサリン散布に使われた場合への通信大隊の準備や、強制捜査に向かう警察が万一被害を受けた場合への部隊の対処準備などが描かれていました。元富士学校の大宮ひろ志氏による著書“そこが変だよ自衛隊”、光人社より出版された自衛隊の生活を面白おかしく紹介した一冊にも、一文だけですが、空挺団の対処準備、というものが紹介されていました。まだ事件から十五年、ということで実際はどうであったのかは、噂で伝え聞くとしか記せないのですけれども、準備は行われていたようですね。

Img_7146  第32普通科連隊の福山連隊長が当時の事を回顧する形で地下鉄サリン事件への対処について、軍事専門誌である月刊軍事研究に掲載されていましたけれども、冒頭に紹介しました“自衛隊指揮官”に記されていたMiG25亡命事件について、当時、法務幹部として函館駐屯地に前進した大小田八尋氏が学研から“ミグ25事件の真相”という一冊を執筆しています。地下鉄サリン事件に関しても、一連のオウム事件への準備は、MiG25亡命事件が数十年を経て当事者から語られたように、もう少し待てば、法の枠内で最善を尽くした、ということが出されるかもしれません。

Img_0542  他方で、地下鉄サリン事件について、純軍事的にみたならば、サリン散布以外に例えばクラッカーによる電子騒乱や流言飛語の流布など複合的に行っていたならば被害は拡大していた可能性があった、と指摘されています。こうした中で、オウムが次の同規模テロに移る前に除染を完了して、警察の捜査を支援できる体制を構築することができたのは、不幸中の幸いと言いますか、危機管理で問題があると言われがちな日本の危機管理能力が実は比較的高い水準にある、ということを示す事が出来ました。

Img_0126  ただし、やはり危機管理という観点からはもう少し、例えば東京都の青島知事が迅速に災害派遣要請を出すことが出来なかったのか、とか、省庁間協力という位置づけをもう少し流動的に行う事は出来なかったのか、情報共有の在り方を更に広範に実施できていれば、ということを感じる点が、阪神大震災の時ほどではないのですけれども、ある訳です。地下鉄サリン事件の後には、9.11同時多発テロの影響もあって、有事法制が出来たのですけれども、平時から有事に移行する枠組み、というものがもう少し、これはテレビの討論番組を含めて、為されてもいいのでは、と思います。

Img_0698  パキスタン国籍の者が車検証のない自動車を運転していたとして警察に逮捕され、武装勢力に日本から自動車を不正に輸出していたことが判明しています。9.11以降、日本では関連するテロ事件は起きていないのですけれども、テロが起きるはずがない、とされた米本土中枢、そしてイギリス、スペインでもテロが発生し、まさか、という盲点を突かれた形となっています。今後、将来、この国が再び試練にさらされた際に、指揮官として命を預かる立場にある人が、情報や機構が生む力と共存する負の要素で隔靴掻痒に陥らないためにも、議論と検討というものは、より広く行われるべきなのだろう、と思います次第です。最後になりましたが、地下鉄サリン事件で犠牲になられた方々の冥福を謹んでお祈りいたします。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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防衛省発表:中国海軍ミサイル駆逐艦瀋陽、フリゲイトとともに沖縄近海に出現

2010-03-19 23:21:03 | 防衛・安全保障

◆3月18日南西諸島沖で旅州型など五隻を確認

 統合幕僚監部が3月19日に発表した情報では、中国海軍の水上戦闘艦など五隻が南西諸島周辺海域で護衛艦、哨戒機により確認されたとのことです。

Img_6971  舞鶴基地の護衛艦あまぎり、が18日午前、沖縄本島西南西180km海域において南東に進んでいた旅州型ミサイル駆逐艦、江衛Ⅱ型フリゲイトの計2隻を発見したとのことです。あまぎり、は第二護衛隊の護衛艦ですが、18日午後、同じく沖縄本島西南西180kmの海域を南東に進む江衛Ⅱ型フリゲイト、江滬Ⅲ型フリゲイトを確認しました。沖縄本島西南西180kmの海域を二つの隊を組み、同じ方向に航行していたということになるのですが、18日午前中に那覇航空基地の第5航空群に所属するP-3C哨戒機が福清型補給艦と不明艦の2隻が宮古島南140kmの太平洋を南西に航行していたとのことです。

Img_2546  旅州型駆逐艦は、発表された写真の艦番号によれば一番艦の瀋陽で、満載排水量7000㌧、2006年に就役した比較的新しいミサイル駆逐艦です。旅州型ミサイル駆逐艦は、SA-N-20艦対空ミサイルを搭載した艦隊防空用の駆逐艦で、瀋陽、石家荘の二隻が就役している水上戦闘艦で、2004年と2005年に就役、外見が中国版イージスとしてマスコミが紹介した旅洋Ⅱ型の蘭州、海口に続いて建造されたミサイル駆逐艦です。蘭州は相応に高い建造費を要したとされています、旅州型からはレーダーを塔型マストの頂点に配置した形状となっているため、果たしてどういった能力を有しているか、世界の海軍関係者が注目している水上戦闘艦です。

Img_5108  江衛Ⅱ型の二隻は、綿陽、洛陽と思われ、双方ともに2005年に就役した新しいフリゲイトです。このクラスは、満載排水量2250㌧とコンパクトですがヘリコプターを搭載していて、1998年から10隻が建造されています。江滬Ⅲ型は、写真を見る限り1986年に就役した黄石のようで、満載排水量は1924㌧、エクゾセ対艦ミサイルと酷似したYJ-1対艦ミサイルを搭載していたため、フランスとの間で中国が技術提供を受けているのではないか、という憶測を含め就役当時、世界から注目された一隻です。福清型補給艦は満載排水量21750㌧、1970年代から建造された補給艦で、建造された四隻のうち、二隻は民間へタンカーとして輸出されています。同艦は17日に東シナ海を南下していたとのことです。随伴の不明艦は、航洋タグボートのようにみえます。詳しくは、統合幕僚監部HPの報道発表をご覧ください・・・http://www.mod.go.jp/jso/press2010/press_pdf/p20100319.pdf

Img_7414_2  中国海軍の日本近海での行動は、鹿児島の枕崎を西進すれば対岸に上海、那覇から西進すれば、そのまま対岸が福州になっているわけで、中国海軍が東シナ海の等距離中間線に沿って航行すれば日本に接近することとなります。このため、中国海軍が太平洋に向かって行動する場合、日本近海を航行することが多い訳なのですけれども、東シナ海は境界線を巡り、中間線か大陸棚基点かで係争状態となっている状況です。したがって、日本周辺にこうした状況が生じた際には、相応に確認し警戒する、という行動が必要となるわけですね。こうした節度が、国際紛争が武力紛争に発展することを未然に防ぐ事が出来る訳です。

HARUNA

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アメリカ海軍のCruiser Modernization計画 :イージス艦を近代化改修で40年以上運用

2010-03-18 23:26:20 | 防衛・安全保障

◆海上自衛隊こんごう型イージス艦の今後を考える

 海上自衛隊のイージス艦は、艦齢24年を迎えた後はどうするのか、ということを昨日の記事で少し触れましたけれども、本日はこのことについてもう少し掘り下げてみましょう。アメリカ海軍では、イージス艦を近代化改修し、40年以上運用する計画を行っています、今回はこの話題です。

Img_2844  こんごう型ミサイル護衛艦はイージスシステムを搭載しての艦隊防空能力向上を期して導入された護衛艦です。満載排水量9500トンの、こんごう型は、建造当時としては海上自衛隊では空前の大型艦で、導入計画が立てられた当時、シーレーン防衛にあたる護衛艦隊がソ連のバックファイア爆撃機から運用される対艦ミサイルの脅威について真剣にその対処法が求められているときでした。就役は冷戦後とはなりましたが、1993年に、こんごう就役、1995年きりしま就役、1996年みょうこう就役、1998年には、ちょうかい、が就役しイージス艦が四個ある護衛隊群のミサイル護衛艦から成る護衛隊に配備されました。

Img_2016  東西冷戦が終結しますと、海上自衛隊のイージス艦は、もしかしたらばその能力を最大限に発揮することはないのではないか、と考えられていました。もともとイージスシステムは米海軍が航空母艦を中心とする空母機動部隊の護衛用に開発を始めたもので、当初は米海軍の強力な空母航空団がもつ防空能力を突破することは、どの空軍や海軍航空隊であっても実現はしないだろう、と考えられていました。しかし、イスラエル海軍の駆逐艦エイラートが、戦闘航海体制にあったものの、エジプト海軍のミサイル艇から発射されたソ連製ミサイルにより撃沈される事件のあたりから、米海軍でも対艦ミサイルにたいする防空能力の充実を求める声が高まっていき、開発に至りました。海上自衛隊の場合、航空母艦を運用していませんから、航空自衛隊のエアカバーについて、その圏外で行動する際にはイージス艦の護衛が頼りとなることとなり、加えてアメリカ側からも日本は空母を保有するよりもイージス艦を保有して有事の際には米空母とともに行動をともにしてもらいたい、という要望があったともいわれています。ところが、イージス艦に正面から攻撃を試みることが出来るような脅威というものが大きく減退したのも事実です。

Img_1185  こうしたなか、状況が一変する出来事がありました、湾岸戦争を契機として戦域弾道ミサイルへの備え、という概念が誕生し、結果的に強力なレーダーと管制システムを搭載するイージス艦の重要性が注目されるようになりました。近年、日本の周辺では弾道ミサイルを運用する国が増加傾向にあり、この中の国では日本列島上空を弾道ミサイルが通過する経路での実験を行う国もでてくるようになりました。こうして弾道ミサイル防衛というものの重要性は日本でも強く認識されるようになり、1998年の弾道ミサイル実験は1976年に日本の防空体制の脆弱性を指摘することとなったMiG25函館亡命事件に続く、日本の防衛力についての再検討を強いる機会となり、今日に至るわけです。この弾道ミサイル防衛という位置づけを受けた会場自衛隊のイージス艦は、必要性が上昇するとともに、近年、隣国に昨年まで一貫して国防費を二桁台の%で増加させる国があり、イージス艦は本来の任務での運用も再び想定される時代となってきたわけです。

Img_7128  さて、イージス艦の必要性は以上なのですが、同時に老朽化が始まっていることも確かです。米海軍は最初のイージスシステム搭載艦として、タイコンデロガを就役させたのは1983年、1982年から建造が開始された、はつゆき型がいよいよ耐用年数を迎えつつあるように、タイコンデロガ級についても耐用年数という問題が生じています。一番艦タイコンデロガは、2004年に除籍され、イージス艦のリタイアが始まった、と当時はいわれていたのですが、実は米海軍では、連装発射器に発射とその都度装填してゆく方式と、連続してミサイルを発射することの出来るVLS方式のタイコンデロガ級があったのですが、基本的に除籍されたのは、VLSを搭載していない古いタイプのイージス艦でした。古いタイプのタイコンデロガ級は、建造された27隻のタイコンデロガ級の中では5隻、22隻のタイコンデロガ級に関しては近代化されることとなっているわけです。

Img_4284  2008年からVLSを搭載したミサイル巡洋艦バンカーヒルをはじめ順次近代化改修に就いているのですが、2010年にはいりバンカーヒルの近代化改修が完了した、と報じられています。これはCruiser Modernizationとよばれ、イージスシステムのバージョンアップが行われました。このほかに第二マストからSPS49対空レーダーが撤去、艦橋の射撃指揮装置が最新のSPQ9Bへ換装、VLSへは従来のスタンダード対空ミサイルに加えて、一発用のスペースに通常の四倍を搭載することが出来る発展型シースパローESSMを搭載できるよう改修されていて、127ミリ砲も射程が非常に大きいGPS誘導砲弾を発射できる62口径の長砲身型に置き換えられました。また、居住区画も大きく向上されていて、長期間での任務に対応できるように改良され、総合的にはかなりの面で向上しているとのことです。

Img_1051  もっとも重要なのは、イージス艦の心臓部であるイージスシステムの改修で、今回のバージョンアップでは、プログラムの更新が短時間で行えるようになったものとなり、戦闘指揮を行うCICも民生用コンピュータを大量に採用したものに切り替えられました。民生用コンピュータというと、衝撃に対して脆弱性を抱えているような印象もあるのですが、この点は緩衝材などの配置で充分対応できるものですし、なによりも日進月歩で新型が改良され最新型へと循環する民生コンピュータと比べて、軍用の専用型には新型が開発されての更新頻度では心許ないところがあります。このために民生型コンピュータが採用されたのですね。

Img_2053  現時点で、タイコンデロガ級は、六番艦バンカーヒルが改修を終えて艦隊に復帰しているほか、七番艦モービルベイが近代化改修を受けています。順次近代化改修を行い、米海軍では2017年までにすべてのタイコンデロガ級の近代化改修を完了させる、という計画を発表しています。こうした改修により、タイコンデロガ級は全艦2030年代まで、第一線において任務を行うことが出来るようにすることが目標とされているそうです。バンカーヒルは1986年に就役していますから艦齢44年、ということを考えていることになります、航空母艦並の長期間ですね。恐らく配水管の錆や船体の経年劣化についても何らかの措置が行われているのでしょう、はるな除籍も、早まらずに航空練習艦や艦隊旗艦、航空掃海母艦あたりにしてほしかった、と44年も米軍が巡洋艦を維持するのなら、と考えてしまいます。

Img_5768_1  さて、海上自衛隊のミサイル護衛艦こんごう型は、これまで通り艦齢24年、ということを考えるのでしたら2017年に耐用年数を迎えることとなるのですけれども、米海軍に範をとって、ということならば2037年まで、そこまで行かずとも、近代化改修を実施すればもう少し長い期間は充分に運用できることを示しています。フランス海軍などはミサイル駆逐艦について船体が老朽化して、除籍させたのだけれども搭載する高価なターターシステムだけは別の駆逐艦に移植した、という話もありました。しかし、そこまで行かなくとも、こんごう型は維持できる、というように今回の米海軍の近代化改修に関する話は示しているように思えてきます。

Img_4101  アメリカ海軍では、ポストイージスシステムの模索を行ってきたのですけれども、新しい艦隊防空システムの開発について、そこまで切迫した状況はない、として新型駆逐艦の建造計画を一時棚上げにする形で、アーレイバーク級ミサイル駆逐艦の増強を決定しています。まだまだアメリカ海軍のイージスシステム運用は継続されるとのことで、アメリカとともに近代化を行うのであれば海上自衛隊のイージス艦についても近代化や補修について、製造元からの支援が受けられなくなることもなさそうですし、こんごう型、あたご型ともに末永く使ってほしいですね、と思うとともに、充実した防空能力をもつ、タイコンデロガ級と同じように、充実した航空機運用能力をもつ、はるな型がヘリコプターを逐次新型に切り替えることで今日なお強力な対潜中枢艦として対応していることが示すようにもともと設計に余裕のある艦艇というものは、建造には多くの費用を要するのだけれども、将来にわたって第一線で長い期間にわたり運用することができるようになるわけで、設計の余裕というものは大切であることを教えてくれているようにも思います。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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明日で“ひゅうが”就役から一周年 護衛艦隊は全通飛行甲板時代へ

2010-03-17 23:30:13 | 防衛・安全保障

◆そして、はるな除籍から一年

 明日3月18日は、一年前にヘリコプター搭載護衛艦はるな、が自衛艦旗を返納して除籍された日にあたります。

Img_9020  そして、ヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが、が就役して一周年となる日でもあるわけですね。本日、海上自衛隊の新しい海洋観測艦しょうなん就役の日として報じられていますが、来週の25日には潜水艦うんりゅう、が自衛艦旗を受領、海上自衛隊の実用AIP潜水艦としては二隻目の就役となります。しかし、ひゅうが就役の驚き、正確には進水式を終えて横浜で建造中の様子を見たときと表現するべきでしょうか、その新鮮な衝撃とくらべれば、新しい立派な自衛艦の就役、という程度にしか見えなくなってきてしまいます。そのくらいに全通飛行甲板を備えた、ひゅうが型は驚きでした。

Img_9081  ひゅうが、の公試が行われているところを、運よく何度か陸上から見ることが出来まして、そのうちの一度は、ヘリコプター搭載護衛艦はるな、が環太平洋合同演習から帰国、横須賀に立ち寄った際に横浜を相模湾へ公試に向かっている、ひゅうが、と揃った写真を撮影することが出来ました。はるな・ひゅうが、新旧ヘリコプター搭載護衛艦が揃った写真は他では見たことがありませんので、少し嬉しくなるとともに、艦影の相違から、海上自衛隊護衛艦隊は、いよいよ全通飛行甲板の時代へと本格的に移行してゆくのか、と感じました。昨年には、二番艦いせ、が進水式を迎え、22DDHとして19500㌧、より大型の護衛艦も建造が承認されました。

Img_8631  海上自衛隊は、四個護衛隊群の編成を護衛艦隊の基幹部隊として位置付けていますから、22DDH、ながと型か、あかぎ型かは未知数ですけれども、日本の防衛安全保障政策が決定的な変更を行われない限り、更にもう一隻の建造が認められ、全通飛行甲板型のヘリコプター搭載護衛艦は、ひゅうが型2隻、そして22DDHの同型艦とともに、少なくとも四隻が建造され、配備されることとなります。しかし、大型護衛艦が充実する一方で、80年代から大量に建造された12隻の、はつゆき型、8隻の、あさぎり型がいよいよ耐用年数を迎え、後継艦の建造が急務になってきます。

Img_7929  19DDとして5000㌧型護衛艦の建造は始まっていて、今年夏にも進水式を迎えることとなるのですが、高性能の多機能レーダーを搭載し、満載排水量で7000㌧に達する大型護衛艦は建造費も高く、目下のところ4隻程度の建造が見込まれているのみで、はつゆき型を置き換えるには不十分です。また、はたかぜ型ミサイル護衛艦の耐用年数も近づいていますし、七年後の2017年には、FRAM改修を行わない限り、海上自衛隊初のイージス艦こんごう型が耐用年数を迎え始めることとなります。このあたりの対応についてもそろそろ具体像の模索を始める必要があるでしょう。

Img_7528  また、22DDHは、ひゅうが型と比較した場合、搭載する火器等の面でかなり個艦防衛に特化したもののみが装備されていますので、艦隊防空を担う固定翼機の導入や、それに伴う航空集団の改編、補給体系の近代化も、行う必要があるのか、それとも22DDHを補う強力な汎用護衛艦やミサイル護衛艦の整備を行うのか、ということも、本年末に予定されています防衛計画の大綱改訂、そして一年遅れの中期防衛力整備計画画定に向けて、考える必要があるでしょう。ひゅうが型就役から一周年を迎えるこうした日こそ、今後のこうした体系について、少し考えてみるにはいい機会なのでは、と思います次第。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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練習艦隊近海練習航海:第60期一般幹部候補生課程修了者を含む1260名が参加

2010-03-16 23:32:55 | 防衛・安全保障

◆かしま、ひえい、以下六隻が参加

 海上幕僚監部の発表では、3月20日から5月25日まで、第60期一般幹部候補課程修了者190名による近海練習航海を実施するとのことです。

Img_7587  今回は、ヘリコプター搭載護衛艦ひえい、が参加するとのことで、練習艦かしま、練習艦あさぎり、練習艦しまゆき、練習艦やまぎり、護衛艦さわゆき、計6隻の艦艇が参加すると発表されましたが近海練習航海は例年四隻程度で行われていますので、本年は、規模が大きななものとなっています。

Img_7180  来年三月には、最新鋭のヘリコプター搭載護衛艦いせ、にその座を渡し自衛艦旗を返納する、ひえい、が参加している、ということは一つの注目でしょう。練習艦、護衛艦の6隻が参加する、ということもあり参加人員は候補課程修了者190名を含む1250名、大規模です。

Img_7490  艦隊は、練習艦隊司令官の徳丸伸一海将補が指揮し、3月20日に候補生から初級幹部となった要員を乗せ、江田島を出航、瀬戸内海を進み22日から25日まで、まず神戸港に寄港します。その後紀伊水道から太平洋を経て29日から31日まで佐世保基地に入港、更に南下して4月2日から5日まで沖縄に寄港。

Img_7551  沖縄を出航すると南西諸島をまわり、太平洋を一路北上、13日から15日まで青函地区の要衝大湊基地に入港、続いて北海道は小樽に16日から18日まで寄港します。小樽を出航すると艦隊は日本海を南下、20日から22日まで舞鶴に入港します。舞鶴を出航すると日本海から豊後水道を抜け呉に4月24日から5月9日まで帰港。

Img_7280  呉を出航し、部隊は、12日から19日まで、世界有数の軍港であり自衛艦隊司令部が置かれている横須賀に入港、5月19日に首都東京は晴海に到着します。晴海埠頭において近海練習航海は終了し、次には遠洋練習航海として世界に向けて出航し、初級幹部は遠洋練習航海を経て、幹部自衛官として新しい任地、各部隊へと進んでいく訳です。

Img_7680  候補課程を修了した初級幹部は、こうした訓練を通じて洋上での必要な知識を身につけ、基礎事項を修得、幹部としての必要な素養を育成するとともに、海上自衛隊の基地や日本の主要な港に入港、日本と世界を結ぶ海洋や海上自衛隊の現状を理解したうえで、近海練習航海を修了したのちの遠洋練習航海へと結ぶとのことです。寄港地での一般公開に関する情報は、各地本HPに発表されると思われます。

HARUNA

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普天間移設案:空自那覇基地とともにホワイトビーチ沖の巨大海上基地へ移設案

2010-03-15 22:56:57 | 国際・政治

◆沖縄再編、キャンプシュワブ陸上案と並ぶ有力案

 三月十四日に琉球新報が報じたところによれば、普天間基地移設先の候補に挙がっているホワイトビーチ沖合の海上埋め立て構想について新しい動きがあったようです。そして、問題は山積している案なのですが、有力案のようなのですよね。

Img_9172  わたしも相当、この種の話題ではどんな案が提示されても驚かなくなったのですけれども、今回は驚きました。今回も、と訂正するべきでしょうか。普天間基地代替施設に併設して、海上埋め立て施設に航空自衛隊那覇基地を移設する、という案でした。なんでも、浅海の珊瑚礁で埋め立てが容易であるのに加えて、珊瑚礁がすでに死滅しているので、海上施設も地元の理解を得られるだろう、という考えなのだとか。羽田空港新滑走路のように海面から独立した方式で建設して潮流への影響を最小限に抑える工法を、と思ったのですがそれは当方の考え過ぎだったようですね。しかし、那覇基地まで移設、どこからでてきたのか。

Img_8901  今回の案は実現すれば米軍再編といいますか、国内的には沖縄再編といえるような規模、那覇空港が許容いっぱいにまで旅客機の発着がある、ということから航空自衛隊の第83航空隊を移設して、その分発着枠と利用できる面積を広げよう、ということなのでしょうか、ホワイトビーチ沖合に建設するという海上施設には、東側に海兵隊用滑走路、西側に航空自衛隊用の滑走路、という構造を採用するようです。こうした検討は以前にも行われていたようなのですが、まず現在発表されている案では、これまでよりも遥かに大型の海上施設となる点、そしてその費用を日本のどこの省庁が分担するかという点、そして費用対効果の面でどうなのか、という点で疑問符が付きます。

Img_0681  那覇基地の航空自衛隊航空隊を移設する、という案ですが、当然那覇基地の代替施設として運用するのですから、F15戦闘機以外に、KC767空中給油輸送機、E767早期警戒管制機、それに新輸送機XC2の運用を考えなくてはなりません。XC2は川崎重工提示したデータによれば最大の輸送量、つまりペイロードを搭載した場合の発着には2200メートル以上の滑走路が必要とされていて、たとえば美保基地ではこれを見越して滑走路の2500㍍への延伸工事を行っています。普天間代替施設というのならば、海兵隊は1500メートル滑走路を、求めていたのですが、これよりは確実に大きくなります。

Img_7271  隣に那覇基地の代替を建設することで隣の滑走路が1000メートル長くなってしまうわけです。埋め立て式の海上構造物が全長で1000メートル大きくなった場合、工費や環境負荷がどの程度大きくなるのか、ということは先学にしててもとに資料を持ちませんが、果たして地元の合意を得られるのか、という素朴な疑問があります。また付け加えれば、嘉手納基地の戦闘機も移設しよう、という案が過去に検討されていると報じられているのですけれども、その場合、嘉手納基地並の3500㍍級滑走路を求められる可能性もあります。1600㍍滑走路一本を海上に建設する予定が随分大きくなりましたね。

Img_8856  もう一つの問題は、建設費です。過去に北大路機関が提案した、米海兵隊施設を那覇空港に移転させ、那覇空港の代替施設を自民党時代の日米合意のあった名護市沖合に新沖縄空港として建設する案であれば、公共事業として国庫と自治体で建設費を折半、もしくは国の直轄事業として空港整備を行うことが出来たのですが、那覇基地の移設費用となれば防衛予算から捻出しなくてはなりません。現時点で防衛予算に余裕はないのですが、海上に滑走路を建設して、支援設備、管制設備を建設する、となりますとこれは陸上に飛行場を建設するよりも多くのコストを要することが予想されます。

Img_9489  航空自衛隊はF-X選定と調達、次期輸送機の調達など、思いつくだけでも多くの予算を要する展望なのですから予算の余裕はありません。基地建設の分、政府が防衛予算に潤沢な配慮を行うのならば別なのですが、現実的ではないでしょう。また、こうした関係で防衛予算が増える、ということは緊縮財政下では世論の反応も厳しいでしょうし、厳しい世論を背景に増強する予算を不足する輸送艦や補給艦にまわして災害に備えたり、稼働率を支えるための防衛産業基盤をまもる支出に使うのではなく、基地建設、となってしまうと、ちょっと失うものの方が大きいかもしれません。

Img_8236  もう一つの問題点は、航空自衛隊の戦闘機部隊を移駐したとしても、那覇空港の発着枠がそこまで余裕が生まれる、というものではない、ということです。たしかにF15戦闘機一個飛行隊が訓練と対領空侵犯措置のためのスクランブル発進を行っていたのを移転すれば、滑走路の使用では余裕は生まれるかもしれません。しかし、那覇基地二隣接して海上自衛隊の那覇航空基地にはP3Cの航空隊が展開していますし、陸上自衛隊の第101航空隊も展開しています。また、航空自衛隊の南西方面航空混成団司令部が地下に置かれていて、高射群司令部も置かれています。

Img_6207  戦闘機だけを移駐しても、そこまで大きな余裕には繋がらない、という問題があります。嘉手納基地の米空軍F15を新海上基地に移設して、空いた部分に那覇航空基地のP3Cを移駐させる、という案もあるようですが、そうも簡単に日米の基地や飛行隊を移転できるのならば、嘉手納統合案の際に出た問題と重なる点も出てきますし、なによりも那覇駐屯地や海空の機能の移設は困難です。予算度外視で、国が潤沢に配慮してすべてを沖合に、となりますと、それこそ大きくなりすぎてしまいますし、那覇駐屯地の第1混成団は海上に移駐させることは無理です。果たして多くの予算を投じて海上に新基地を建設する意義とは費用と比べ高いのか、一考の余地があります。

HARUNA

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22DDH(19500㌧型護衛艦)建造の陰で見落とされている防衛予算の問題点

2010-03-14 22:39:46 | 防衛・安全保障

◆全自衛隊の訓練を圧迫する油購入費18%減

 本日は平成22年度防衛予算について。22DDHが予算として認められた中で忘れられている一視点、燃料費の大幅削減についての話題です。油については、陸海空全てに共通する問題なのですが、この文章が22DDHについての一文から転用したものですので、悪しからずご了承ください。

Img_9088  平成22年度防衛予算で要求された19500トン型護衛艦(22DDH)は、事業仕分けの場においては高度に政治的な問題であるから事業仕分けの対象とすることは適当ではない、ということで政府に差し戻され、全通飛行甲板型の護衛艦は災害時に有効、という社民党の賛成もあって、無事に平成22年度防衛予算に盛り込まれることとなりました。

Img_1558  新しい22DDHは、基準排水量で19500トンといいますので、燃料や物資、装備品、真水などを積み込んだ満載排水量ではおそらく30000トン前後となるでしょう。艦内に他の護衛艦に供給する燃料を搭載する、といいますのし、現段階からは数値も動く可能性もあり、これらを加味すると、もう少し満載排水量は大型化する可能性もあります。海上自衛隊が導入する艦船としては史上空前の規模になるでしょう。

Img_6256  ただ、平成22年度防衛予算をみますと、概算要求の時点で油購入費が15%も縮減されていて、原油価格は一頃と比べれば非常に安定しているとはいえ、概算要求からいきなり15%も間引いて、艦艇稼働率を大きく引き下げようとしています。燃料の購入費が15%も縮減される、となりますといろいろな部分に波及するでしょう。

Img_6302  油購入費は一般物件費に含まれているのですが、平成21年度が1015億円、しかし平成22年度予算では841億円で、実際には18%減少、というところですか。一般物件費は4013億円で前年比189億円減少、修理費、教育訓練費、光熱費、医療費が一般物件費に含まれているのですがこのなかで174億円が油購入費の削減分です。

Img_1687  艦艇稼働率が低下すれば装備修繕費は少なくなるので、安上がり、と単純に考えたくなるのですがこれは支出する側の論理、消費する現場は燃料不足で訓練や広報活動に支障が出てくるでしょうし、受益者となる国民は、有事の際に損益を被る立場、果たして22年度予算はこれで良かったのか、と頭を傾げてしまいます。

Img_9682_1  訓練が減り、結果、事故が起きれば当事者が批判の矢面に立つのでして、装備をそろえておけば動かずともなんとかなる、という浅い考えなのか、と疑問符をつけたくなります。ただ、どこかの政党では、衆院選挙で多数生まれた新人議員を、次の選挙対策に専念させるべきとして地元に張り付け後援会などとともに国政から離れ駅前演説会などに使っています次第、数さえそろっていれば文句はないだろう、という理論は彼らなりに理にかなっているのかもしれません。

Img_8637  平成22年度防衛予算は防衛装備品調達費の後年度負担繰り延べ、要するに後払いの装備品調達費を別の年まで待ってくれ、ということをやっているわけで、なるほど史上空前の国債発行を行って子供手当の財源捻出を行った政権ならでは、と変に納得してしまうような気がしてきます。

Img_1445  納得しつつも、後年度負担に応えてくれるのは国内の防衛産業だけなのにもかかわらず、これをさらに広げて行おうとすれば外国から装備品を売ってもらえなくなるぞ、とも思います次第、さりとて国内防衛産業の維持策を打ち出しているのかと問われれば技術がなくなれば大変だね、と懇話会ではまるで他人事。平成22年度防衛予算は22DDHの予算こそ通りましたものの、かなりの問題を含んだ内容となっていました。

Img_0923_1  原油価格高騰の折には、護衛艦御極力訓練時には推進装置の片方を停止させて少しでも燃費を向上させようとしたり、訓練体系を見直すなどして必死のやりくりを行ってきたという事ですけれども、今回の燃油費切り込みは、それとは別次元の大きな問題を内包しているということに留意する必要が油購入費18%削減の背景にはあります。

Img_1364  それは、一旦削減した予算については、年度ごとで比較した場合、元の水準に戻すタイミングが難しくなる、という事です。18%マイナスした、前年比82%の油購入費を100%に戻すには、翌年に前年比22%の予算増を認める必要があり、実施す敵に元に戻すだけなのですが、22%と言う数字が独り歩きして、これが大幅増、ととられてしまうのではないか、という事です。

Img_14279  節約しなくては、という機運は理解できなくもないのですが、削減してしまうと大きな問題を長期間にわたり残してしまうものがあります。油購入費と直結する訓練の問題は、長く響きますし、それを補うような税収増につながる成長戦略や経済政策の展望は見えてきません。現政権は、長く安定した政権を望むのならば小手先の発想で長期的なマイナスを生むのではなく、長期的な展望、というものを求めたいですね。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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