物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

三角関数の加法定理と合成

2019-08-23 23:11:46 | 数学

私たちは三角関数の加法定理とか三角関数の合成とかを、それらを数値で学ぶことはたぶんしない。だが、これらを数値的に確かめることから、始めるという方法もある。

確かに手間がかかってかなわないが、それもかえって新鮮に受け止められることがあるかもしれない。

同様なことが、三角関数の微分公式にもありうる。たとえば、sin xのグラフを描き、そのある x の値での接線の傾きを図上で計測して、それがcos xのその x での値になっていることを、いくつかの x のところで確かめるという操作をする。この操作はsin xの微分がcos xになるということを数値で実感する(注)。

こういう授業は確かに手間がかかって面倒である。しかし、そのことがわかった時点でのわかり方には、その後にはちょっとした違いが生じるかもわからない。

これはもう80年近くも昔のことだが、私の父は朝鮮(いまの韓国)の海軍工廠で船の進水したときの動き始めからの時間と船の停止時の先端からの距離を測って、いわゆる進水曲線のグラフに描き、そのグラフの接線の傾きから、その地点に船の先端が来たときの、船の速さを計算して出した。

これはもちろん一人の人ができることではなく、数人の同僚との共同作業であった。

父の上司の技師も昔の中学校では微分は学んでいなかったから、そういうことで船の進水時の速さを推定(または計測)できるとは知らなかった。

職場での一番の下っ端で、あまり頭のよくない父も、そのことですこしはまわりから見直されたらしい。そのときの高揚した気分を何年も後になっても興奮して話をしてくれた。

ちなみに、私の父は旧制中学校の中退の学歴しかもっていない。だが、そういった微分とか積分を独学で学んだ技術者でもあった。

(2019.10.16付記)  遠山啓さんの書いた三角関数のシリーズ(「数学セミナー」連載)に三角関数の加法定理の私の知らなかった証明があった。以前にこの加法定理の導出についてはエッセイを書いたことがあったが、それらとも違う方法である。

前のエッセイ「加法定理の証明いろいろ」(『数学散歩』に収録)を改訂した、エッセイをいつか書いてみたい。

(注)アメリカのDon CohenのワークシートCalculus by and for Young People---Worksheetsに三角関数ではないが、このような数値的な試みがあったような気がするが、はっきりと覚えていない。

この本をもっとテキストのスタイルにした本は新井紀子訳で講談社のブルーバックスから出版されている。ドナルド・コーエン『アメリカ流7歳からの微分積分』である。

上の訳本を発行するのに尽力した滝本博裕之さんから、上に書いたワークシートをもらったのも、もう20年以上も前のことだったろうか。

滝本さんはこのワークシートを訳して出版してくれる出版社を探したらしいがそんな出版社はなかったらしい。

思わず吹き出して

2019-08-23 14:02:18 | 数学

思わず吹き出してしまった。

雑誌「数学セミナー」の9月号の巻頭言の「Coffee Break 」に原啓介さんが大学での自分の講義の思い出として語っていることである。

原さんは、情報理論の講義を文系の数学の講義としてしていたのだが、美人の女子学生が講義の途中でよく中座して教室からでていくことがほとんど毎回あったという。

その理由はわからなかったのだが、セメスターの最後に課したレポートの最後にこう書かれていたという。

追伸:時々、心を落ち着けるために退室しましたこと申し訳ありません。高校のとき、どうしても対数が理解できず、いまでもlogの記号を見ると悲しくなってしまうのです。(引用おわり)

いやはや、数学教師というものは悲しいものだ。情報理論にはエントロピーの定義に対数 log が出てくる。

私も M 大学で非常勤講師をしていたころ、物理の授業のはじめに数学の初歩を教えたときに、やはり指数の方はわからないという人はいないのに、対数の log の記号がでてくると10%くらいはわからないという学生が出てきた。

    x=a^{y}

     y=log _{a}x

の同等性を教えたその直後にである。

そういうこともあって、「数学・物理通信」8巻3号にエッセイ「対数と指数は同じ?」を書いたときにこのlogという記号を難しいという学生が少数だが、確実にいるということを脚注に書いた。

どうしていいのかわからない(注)。「定義にもどれ」というしかないのだが。

(注) x=a^{y}と y=log _{a}x の x, y, a に適当な数値を入れて x=a^{y} から y=log _{a}x への変形を10問くらい練習させたり、反対に y=log _{a}x から x=a^{y} への変形も10問くらいさせるのはどうだろうか。もし、それでも定着しないなら、またもっと別の対策を考えねばならない。

(2019.9.24付記)

またはx=a^{y}と y=log _{a}x は同じものの、別の表し方であることを強調するために、私の年来の主張のように x=a^{y} を「指数表示」と名づけたり、 y=log _{a}x を「対数表示」という用語をつかったりして、これは同じものだという意識を高めることである。

しかし、ここであわてて付け加えておかなければならないのは、これは対数関数と指数関数とが同じものであるということを言っているわけではない。

指数関数と対数関数は互いに逆関数であり、同じ関数ではない。すなわち、グラフ的に表すと、指数関数と対数関数は直線 y=x に対して互いに対称な関数である。

付言すれば、指数関数は指数表示で表すことが通常であり、対数関数は対数表示で表わすのが通常である。

だから、私は「指数表示」と「対数表示」という用語を用いたらどうかと提案している。これは量子力学で「位置表示」と「運動量表示」という用語を用いていることから、類推として思いついた。