ベクトルの定義といえば、「大きさ」があって「方向(向きを含む)」がある量だというのが高校で物理を学んだ人の答えだろう。
私のような老人は大学ではいわゆる「線形代数」を学んでいない世代に属する。それで大学院でテンソルのことを学んでようやくベクトルとはその量の変換性で定義するということを知った。
ところが最近私の学習したところ、線形代数ではベクトルとはベクトル空間の元(げんと呼ぶ)だという。そしてベクトル空間はその二つの和とスカラー乗法(普通にはスカラー倍と言っている)が定義される空間をベクトル空間と言っている。すなわち、
u, vがあれば、u+vが定義できて、それが同じ空間に属し、
かつ、実数または複素数のcを
uにかけて、cuが定義され、それも同じ空間に属する。
こういう空間をベクトル空間という。そして、そのベクトル空間の元をベクトルという。
さらに、ベクトルの間にスカラー積(または内積)が定義できるベクトル空間を計量ベクトル空間(またはユークリッド・ベクトル空間)という。
さて、昔、大学院で学んだその変換性によってするという、ベクトルの定義はどの空間での定義だったのだろうか。計量ベクトル空間のベクトルだったのだろうと推察はするが、それをきちんと書いた書物はどこにあるのだろうか。
佐武一郎『線型代数学』(裳華房)を引っ張り出して読まなければならなくなった。私たちの時代にはもっともこの本のタイトルは『行列と行列式』という古めかしいタイトルであったのだが。