動物としてのカタツムリに思想があるかという話ではない。多分カタツムリには思想はないであろう。
ここで言いたいことはカタツムリの歩みのようにゆっくりとではあるが、少しづつでも進んで行くという思想というか、生活態度のことを指している。
大きな仕事でも毎日ほんの一歩でも進んで仕事を進めて行くと何日後には少しだが、進んでいる。そういう風に仕事をしたいという気持ちがある。
実は私がお願いして数学・物理通信に投稿してもらった原稿があるが、これをlatexに打ち変える気が起きなくて放ってあった。しかし、いつまでも放っておくことなどできない。
だが、そうかといってそれに集中する時間がなく、その気もなかなか起きない。それで、カタツムリ方式で仕事をかたづけようと考えた。
関連の文書を昨日の午後探したのだが、どこへどうしまってしまったのか行方がわからない。仕方なく、パソコンのファイルにある文書を再度印刷して、それをもとにしてlatexで式の入力を始めた。
もちろん、式の入力も面倒ではあるが、それはまだ大したことではない。大変なのはむしろ図をpicture環境で描くところにある。だが、それにしてもまずは式の入力である。1頁でも1行でもいいから、毎日入力をして行こうとしている。
こういう考えというか生活態度を私に教えてくれたのは亡くなった数学者のSさんであった。このSさんはオールド・スタイルの数学者であり、数学思想もまた容貌もあまりモダーンな方ではなかったが、生き方をこのSさんから教わった。
Sさんは毎日自分の知らない微分方程式があれば、それをノートに書き出しておいて、時間をつくっては解くということを自分に課しておられた。一問でもいいから、そうやって解く。そういう風にしているのだと私に教えてくれた。そうすれば、長年にわたれば、その結果はつみあがっていく。
彼の書いた佐々木重吉著「微分方程式概論」上、中、下(槇 書店)は労作であるが、彼の長年にわたって書かれたノートを素材として著された。もっともあまりモダーンではない。なんでも逐一、式で計算をしているという意味ではあまり現代数学的ではない。
だが、3次元のラプラス演算子をデカルト座標系から極座標系に正直に変換する計算をしてあったりして、貴重な書である。この計算をきちんとしてある書はあまり見かけない(注)。
ところが、あるとき級数展開で、ある微分方程式を解こうとしたときにSさんの本には徹底的に計算はしてあるのだが、その計算法のあまり見通しがよくないことに気がついた。Sさんよりも、もっとモダーンな数学者Kさんの同じ微分方程式の解法と比べてみるとKさんの解法では計算を逐一はしてはいないけれども、見通しがはるかによかった。
(注) この3次元のラプラス演算子のデカルト座標系から極座標系への変換について、小著『物理数学散歩』(国土社)の記述を見て、いつもこのブログにコメントを下さるNさんがもっと簡単な方法があると注意をしてくれた。それは2回に変換を分けてするという方法である。
もし一般のn次のラプラス演算子のデカルト座標系から極座標系への変換をするときにはこの数回に変換を分ける方がオーソドソックスな方法であろうというNさんのご指摘は重要である。
自分でこれを調べて、納得するということはまだしていないが、Nさんのご指摘の通りであろう。なんでも優れた人は一段と高い立場から考えられているものだと感心をした。