今日から数回は法(法律)について書いてみたい。
もちろん、法律の素人である、私が法の条文について書けるわけがないので、数回にかけて書くのは法をめぐる常識である。
大学の教養で法学を学んだときに知ったのは法律は拡大解釈されるということであった。法律など文書に書かれている条文通りであって、拡大解釈とかはあり得ないのではというのが、それまでの私の法に対する先入観であった。
だから、法律などは冷たいと思ったものだ。それに対応するものとして思いつくのは数学である。高校のころには数学というのは冷たいものだという気がしていた。これは好き嫌いとは別の感情である。もっとも冷たいから好きになれないというところもあったかもしれない。
ところで数学では拡大解釈というのがお得意である。誰でもわかるものにべき乗があろうか。
aa=a^{2}, aaa=a^{3}, aaaa=a^{4},・・・
であるから、a^{n}の n ははじめ正の整数でべき乗は定義されたが、そのうちにa/a=a^{0}=1であるから、n は0の場合にも拡張された。それから
1/a=a^{-1}, 1/a^{2}=a^{-2}, 1/a^{3}=a^{-3}, ・・・
と負の整数にも拡張された。このことはもちろん指数法則a^[m}a^{n}=a^{m+n}が成り立つ範囲をどんどん広げてゆきたいということであろう。
そして、すべての整数について指数法則が成り立つことをさらに拡大して指数の m, n が有理数でも成り立つようにしたり、有理数だけではなく無理数まで拡大する。そして、さらにはじめ正の整数のときに定義されたべき乗を表す指数は複素数でも成り立つと拡張する。
普通に憲法9条を解釈すれば、国防軍でももてないと思われるのだが、憲法も拡大解釈されて自衛隊はもてるようになっている。ここに法律の拡大解釈の一つのいい例がある。
もっとも法律は拡大解釈されるという私の常識に対して、ある弁護士さんから「刑法では法律を拡大解釈してはいけないことになっている」と釘をさされたことがあった。その後、別のところで元裁判官の方に「どうして刑法では拡大解釈を許さないのでしょう」と尋ねたら、それは「刑罰を重くする方に拡大解釈することを禁じるためだろう」ということであった。
確かに脱法ドラッグでも似たような化学構造の麻薬をすぐつくることができるのに取り締まるべき法律の方が追いつかないというイタチごっこがあるが、これは刑法は拡大解釈を禁じているということに理由があるらしい。もっともそんな解説はマスコミでもされているのを聞いたり、見たりしたことがないけれども。
数学にもどると、実軸上でのみ定義されたe^{x}という指数関数のxの変域を解析接続して実軸上のxから複素平面上の点zに拡張する。もちろん、この解析接続の場合にも関数によっては自ずからそれ以上に定義域を拡張できない限界があったりする。このことは法律の場合でも同様であり、昨年夏に大いに議論を生んだ安保法制などはその最たるものであることはまだ私たちの記憶に新しい。