Entartungとはドイツ語である。私の知っていたのは物理の専門用語としてである。
日本語で訳せば、縮退とか縮重とか訳される。これは量子力学の状態で、ある固有値(たとえば、エネルギー)に対して状態が2つ以上存在することをいう。
これはいま広辞苑で確かめたのでまちがいがない。今問題にするのはそういう内容ではない。Entartungをどう発音していたかということである。私はエンタルトウングと発音していたと思う。これは私が大学で量子力学の講義を聞いたS教授がそう発音していたからである。
ところがところが、これはエントアルトウングが正しいとはつい最近まで知らなかった。いや別にいまどき量子力学をドイツ語で学ぶ人など日本にはいないので、弊害はない。だが、発音としてはどうもエント・アルトウングであって、エンタルトウングではないと知ったのはなんとしても遅すぎた。
だって、私にはもう余生はあまり残ってはいないからである。
しかし、そうではあるが、正しいことを学ぶのに遅すぎることはない。
entはドイツ語での前綴りの一つである(注)。そしてこの前綴りは動詞の前についたときには非分離の前綴りである。すなわち、アクセントがこの前綴りにはおかれてなくて、分離しない。
逆にアクセントがおかれる前綴りは分離するのが普通である。一番有名な分離動詞はeinsteigenだとかaussteigen だとかumsteigenである。これは前から順に「乗車する」、「下車する」、「乗り換える」である。これらの前綴り
ein, aus, umは文章をつくるときには分離して、文末に来る。
一例を挙げよう。
Ich (steige) den Zug in Hannover (um).
なら、「私は電車をハノファーで乗り換える」という意味でsteigeと文末のumで文のカッコをつくっている。
(注)ほかにどんな分離しない前綴りがあるか。be-, emp-,ent-,ver-, zer-とかがある。7つくらいあったと思うが、今は思い出せない。私がNHKのラジオ講座でドイツ語を学ぶ始めたころ(1960年ころ)の講師であった、藤田五郎先生は何回かこれの前綴りを講座で言われたを覚えている。
今調べたら、他の非分離前綴りはer-, ge-であった。聞いた覚えがない前綴りとしてvoll-もあると文法書にはあった。
藤田先生は東京外国語大学の教授であられたが、ここの卒業生の方から講義をドイツ語でされていたとか聞いたことがある。藤田先生の孫弟子くらいにあたる方として、私の知人のFさんがいる。
彼は優秀なドイツ語学者である。