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笑いも冷める「からくり民主」

2010年03月05日 | 読書
 『からくり民主主義』(橋秀実著 新潮文庫)を読んだ。

 著者の本は初めて読んだが、実に面白い。
 序章の「国民の声~クレームの愉しみ」は、アシスタント・ディレクター経験者として実に生々しく描かれているが、そういう現実に埋没しなかった発想があるからこそ、この本ができたと思われる。

 著者の視点は現場主義そのものだ。
 しかし、それは他の者が使うそれと大きく異なる。
 著者はまず「取材はいつも出遅れ」、予備知識を入れてわかったつもりのことが「現地に出向くと即座に、私はわからなくなります」と書く。

 取材拒否された経験がほとんどない著者は、現地の人々から「実は…」という話を多く聞く。
 それらが網羅されているこの本の中味は、まったく「傑作」ぞろいだ。
 つまり「からくり民主」とは、一人ひとりの国民とは別に「みんな」がつくられてそれが主役になっている、という構図である。

 それにしても、それにしても、である。
 政治や社会問題に疎い私ではあるが、あまりにもテレビや雑誌等で語られない現実が書かれている。
 驚くというより思わず笑ってしまうこともあるほどである。

 例えば、「親切運動」として電車での席ゆずりを奨励し達成回数をカウントしている高校。
 席ゆずりの回数を増やすためのコツは、「まず自分が座ること」と意欲的に語ったという。
 あの青木ヶ原樹海での「ぶらさがり」が作られた背景とその日常性。
 自然豊かなハイキングコースと勧められた中学校のオリエ―テリング大会で、死体を見つけた生徒たちが同じ臭いを求めて捜索する話など、笑いも冷めてくるようだった。