すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

入り込んでも明るい隙間

2010年06月16日 | 読書
 ちょっと小説から離れていたので、何か読んでみようかな(と、いっぱしの文学好きのような言い回しをしている自分が可笑しい)と手にとってみたのは『家日和』(奥田英朗著 集英社文庫)。

 帯には「柴田錬三郎賞受賞」とでかでかと書かれてあるが、時代小説ではあるまい。もうこの時点であまり詳しくないことがわかる。初めて読む作家である。

 短編が六つ。どれも大きな事件などない日常的な場面ではあるが何だか惹きつけられて、あっと言う間に読了してしまった。

 全部に共通するのは、主人公が何かに「はまっていく」過程を描いているということだ。

 主婦がネットオークションに。
 会社の倒産で失業した夫が家事に。
 離婚して取り残された夫が自分の部屋のインテリアに。
 …

 そこに向かう心理がごく自然で、これはあることだなあとつい同化してしまうような感覚を持ってしまった。
 いずれも何か悲惨な結末に至るわけではないし、逆にはまったことがどちらかといえばプラスに転じているような印象を残しているので、いやな気分も残らない。

 編集者だと思うが、裏面カバーに「少しだけ心を揺るがす『明るい隙間』を感じた人たち」と記している。

 隙間は周りが明るければ暗くて中が見通せないが、周りが暗ければ行きつく先の見当がつく程度は明るさがあるものだ。
 また人は誰でも隙間に入ってしまうことがあるし、それが明るかったら結構心弾む瞬間もあるのかなと考える。
 そして暗い出来事の連続があったとしても、光が差し込む隙間もあるかもしれない、という発想も浮かぶ。

 「家日和」か。なかなか言い得て妙である。