すぷりんぐぶろぐ

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「うりずん」の季節へ

2010年07月07日 | 読書
 上手いもんだなと思う。

 短編よりもさらに短い作品を「掌編」と呼ぶことを、この本で初めて知った。

 『うりずん』(吉田修一・文 佐内正史・写真  光文社文庫)

 写真家の撮った一枚(複数枚もある)に対して、小説家がイメージを膨らませて短い物語を書く。原稿用紙にして5枚ほどの分量である。
 その内容は、特に劇的な場面ではなく、会話であったり独白であったり、ほとんど「汗も涙も出てこない。事件も起きない」ストーリーなのだが…。
 そこが作家の作家たる所以か。
 それぞれの主人公の過去や未来には、汗や涙、笑顔、歯を食いしばる姿…がいっぱいあるだろうなと思わせてくれる。

 それにしても「掌編」という名づけ方も納得。手のひらに収まる程度の作品…だからこそ、それなりの愛着を感じられる。

 そういえば、自分の乏しい実践の中でも「変身作文」系は記憶に残る面白さがあった。
 短詩・短歌・俳句などの読解から表現へと、一連の過程をパターン化できたこともある程度成果として考えている。

 写真から俳句、短歌などを創作するのはかなり一般的になってきているし、そこから掌編へというのも十分につながるだろう。
 ちょっと自分で書くか、それとも子どもたち向けの実践プランを作るか…そんな思いも浮かぶ。

 解説によると、題名「うりずん」は沖縄の言葉で「体を動かしたくて、むずむずする季節」らしい。
 スポーツとは言えないが、そんな感覚が持てたような本だった。