すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

モノクロで撮る人が書いた文

2013年01月27日 | 雑記帳
 『ちくま』の表紙には人物のモノクロ写真が使われていて,気に入っている。
 http://www.chikumashobo.co.jp/blog/pr_chikuma/

 表紙裏にそのカメラマンの小文が載っていて,今回はこれが良かった。
 「チラシの裏に書かれた手紙」と題された文章に,蕎麦屋の見送りのあいさつに触れられて,次のような表現がされていた。

 あいさつは簡単なようだが,噺家の出だしの一言のように「実力」があらわれる気配がある。

 多くの人が感じることのように思うが,食いもの屋とあいさつには因果関係がある。出迎えの気構えが表れるといっていいかもしれない。
 チェーン店でパターン化されたものであったとしても,声の力の差を歴然と考えることもあるし,接客にも味にもそれは伝わる,といったら大げさだろうか。

 そしてそれは人と接する多くの仕事にとって共通することは言うまでもない。


 さて,この小文で一番気にいったところは,実は上の部分ではなくて,題名にかかわる次の文章である。

 八十を過ぎた独り暮らしの妻の叔母は,季節の田舎の野菜や味噌などを宅急便で送ってくる。必ず,何枚かのチラシの裏に書かれた便りが入っている。ボールペンの筆圧の残る手紙は,野菜の息でいつもしんなりとなって届く。

 なんとまあイメージが喚起できる文章だろう。
 おそらくはあまり達者でない文字で,町に住む姪へ,暮らしを気遣い,近況を知らせるなかみが綴られているのだろう。
 「野菜の息でいつもしんなりとなって」という箇所が,リアルであり,温かくもあり,また切なくもある。

 写真家,それもモノクロで撮る人が書いたからこそ,こんな描写になるのではないだろうか,そんな気がした。

 一つ目の「アウェー」はまずモノクロ写真か,そう思いついた。