すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

強い風を感じて走れ

2013年01月02日 | 読書
 強風の箱根駅伝往路だった。

 年末から元旦にかけて関西方面に家族と旅行に出かけるとき,バッグに入れた文庫本が2冊。
 そのうちの一つが箱根駅伝を題材とした小説で,ぜひ駅伝をテレビでみる前に読み切ってしまいたいと思っていた。
 650ページを超す分量で,結局読了したのがスタート1時間前,自宅での朝風呂の中だった。

 内容は長距離経験者の少ない10名のメンバーで箱根を目指すという,いわばマンガチックな設定だが,なかなか面白いところもあった。
 売れっ子作家の有名な小説なので,知っている人も多いことだろう。

 それにしてもこの題名かと,今日のレースと若干意味合いは異なるがあまりの偶然にちょっと驚いた。

 『風が強く吹いている』(三浦しをん 新潮文庫)

 天賦の才能と走ることへの情熱を持つ主人公「走(かける)」は,それゆえの葛藤や軋轢を抱えたまま大学進学し,「清瀬」と出会うことで成長を遂げていく。
 この物語の肝となるのは,長距離や駅伝を走るために必要なことが「速さ」ではなく「強さ」ということには違いない。しかし,そのようなあり方は結構言い古されていて,具体的に「強さ」がどういうことか示されている部分こそが興味深い。

 主人公「走」が語ったのは次のことだ。

 俺に欠けていたのは,言葉だ。

 思いを言葉で表現すること,自分の心にある考えや感情をしっかり見つめて言語化すること…作者はそれこそ強さだと認識していて,他の駅伝メンバーが走っている時にそれぞれをクローズアップし語らせていることも,その証しだろう。

 これは今まで何度か書いてきた,スポーツ選手と言葉の関わりと深く重なり合っている。
 今さらながらに教育としての「言語活動」は何のためかを振り返ったりする。


 強風の中で疾走する一人一人の選手は,どんなことを思っていたのだろう。
 サポートする部員たちの思いは,どれほどのレベルにあるのだろうか。
 画面には映らないドラマも結構あるだろうな…今日はいつもより,想像力を膨らましてみた気がする。

 明日の復路も楽しみたい。

 そして何より,明日のレースでは以前勤めた学校でひたすらマラソンに励んでいた子が,ある大学の7区走者としてエントリーされている。

 多くの人と一緒に雪深い故郷から応援したい。