すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

固有名詞を入れて語る品質

2014年01月13日 | 読書

 「2014読了」5冊目 ★★★

 『下町ロケット』(池井戸潤  小学館文庫)
 

 言うまでもなく直木賞受賞作。
 文庫化で店頭に並んだ先月に買い求めておいた。

 悪天候で飛行機が飛ばず出かけることが出来なかった連休,それじゃあじっくりということで読みはじめたら,あっという間に読み切ってしまった。

 さすが企業エンターテイメント小説の雄。読ませるなあと思った。
 話の展開そのものは,自称ドラマ通の読み手にとっては結構予測通りであったが,それでも業務や経営に関するディテール,人物描写などが上手で,惹きこまれていく要素十分だ。
 半沢直樹ファン?も唸らせるだろう。


 主人公の経営する佃製作所はもちろん架空の会社であるが,こうした高い技術力を持った日本の中小企業は多いはずだ。
 以前放送されたNHK連ドラの『梅ちゃん先生』との舞台として取り上げられた蒲田やその周辺のイメージが湧く。
 そこでもネジやシリンダなどの部品生産に情熱を傾ける人々が描かれていて,国の工業発展を大きく支えたことが物語られていた。

 この小説の一つの山場となる,大企業帝国重工による佃製作所への評価テスト場面は,国全体の構造的な問題が横たわっている。
 しかし,それを乗り越えさせたものは,やはり現場に生きる者たちの矜持である。
 これに類するドラマはきっと,現実にもあっただろうし,多くの人の共感を呼ぶのではないか。

 なにしろ,あまりに格好いい言葉が製作所内に掲げられている。

 佃品質  佃プライド


 かつて,熊本でTOSS流の学校改革を目指した吉永順一氏は,地方にあっても我が国の町工場の持つ高い先端技術力に大きな敬意を払い,そうしたイメージで学校づくりを進めていた。

 「○○品質」と固有名詞を入れて語れるほどの仕事は,業種は違えどやはりとても魅力ある響きだ。

 その実現にどんな要素が必要か,エンタメと言ってもこの小説の中に過不足なく盛り込まれているような気がする。