すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

自分の良心を信頼する

2016年09月01日 | 読書
 『おいで一緒に行こう』(森 絵都  文藝春秋)

 「福島原発20キロ圏内のペットレスキュー」という副題がついている。
 あの震災後に、「立ち入り禁止区域」に置き去られた犬や猫たちの保護に向かった人たちに同行した著者の記録である。



 このドキュメントは結構重い。
 書かれている内容の是非について淡々と述べてはいるが、次の一言は今の私達が失いつつある考えだ。

 ルールを破るのはいいことではないし、常識人なら避けるべきところかもしれないけれど、少なくともそれは人の良心に恥じるようなたぐいのことではない。


 警戒にあたる警察、自衛隊の目を潜り抜けながら、残された動物たちを保護するために連れ帰ったり、食物を与えたり…と行動を起こす。
 それは自分の「良心」への強い信頼だ。

 そして、またそうした事実を書き、公表する決意の重さにも矜持を感じた。

 瞳に映ったすべてをよりわけることなく、正も負も等しく書き表す。その真っ平らな足場がなかったら、不特定多数の読み手を前に、自分で自分を支えられない。


 違法性の指摘を承知で、それでもなお読み手に問いかけようとする姿勢は、「書く」という仕事を持つ者の誇りでもあるのか。

 動物好きでもなく、ペットも飼ったことがない自分には、解り難い心情がある。
 その点は抜きにできないのかもしれないが、著者も含め、ここに登場する人たちの行動力には感嘆するしかない。

 それとは裏腹に、国家や行政が少数者に向ける目というものの白々しさが浮かび上がっている気もした。