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物語りの終わりは、手渡される

2016年09月24日 | 読書

『物語の終わり』(湊かなえ  朝日新聞出版)


 『山女日記』と同じようにミステリ色がない作品である。こりゃあもはやハートウォーミングだと思いつつ、少し書評を見たら「湊は新ステージへ」とある。うーん、そうか、「イヤミスの女王」からの脱皮なのか。ちょっと嬉しいような、かなり寂しいような複雑な気分だ。けれど、仕掛けはしっかりと用意されていた。



 連作短編集である。最初の作品「空の彼方」がなんだかずいぶん独特だなあという感じで読み終えた。書名に暗示されているように「終わり」が明示されない結びだった。それはそれで…と次を読み進めると、その「空の彼方」の話が登場して…、とそんなつながり方をするのだが、最後に全体構造がわかってくる。


 登場人物の旅する舞台が北海道。この北の地を舞台とした小説は数々あるが、特に観光地のイメージは結構浸透しているので、読みやすさの要素になっているかもしれない。北海道を選んだ訳を予想すると、おそらくは「移動」時間の長さ…人は歩く時、乗っている時考えをめぐらすことが多い、なんと単純な思考か。


 書名『物語の終わり』は、全体の鍵となる冒頭作品が未完の結末であることを示す。しかし、当然ながら作者のメッセージが強く織り込まれている。きっと、この後どうなるかの予想ではなく「物語の終わりは~~~~だ」という意識の投げかけだ。そして物語は人の手から人の手に渡っている現実も象徴している。巧い。