すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

手垢のついた語彙よりも

2020年11月03日 | 読書
 古本屋で見つけ、風呂場読書には手ごろと買い求めた。2006年刊とあり、その頃のTVバラエティがもとになっている。言語系のトリビアのようなものだな。タモリを中心にタレントたちに対してクイズを出し、金田一秀穂、町田健両先生が解説する形だったんだろう。一度も観た記憶はないが、中身は結構面白かった。


『タモリのジャポニカロゴス 国語辞典』(フジテレビ出版)


 「第三章 使いこなしたい日本語」が実に実に…。初めは敬語で「夕方過ぎの会社廊下でバッタリ社長と遭遇」したら、どう挨拶するかという問いだ。正解は「『社長、どうも…』と頭を下げる」なんと!金田一先生によると「夕方、偉い人にあったときの挨拶は存在しない」らしい。「言葉を濁す選択」がベストとは…。


 さらに驚くは、「総理大臣と会食」という設定で、その席で総理のそばにある醤油を取ってほしい時の言い方だ。どんな敬語を使うか悩むが、正解は「『総理…醤油…』とほのめかす」とある。驚愕である。この解説も深い。「偉い人への依頼は失礼に当たる。相手側の自主的な行為になるよう気づかせる」それが敬意という。



 「部長の怒られて謝らなければならない時、あなたはどんな敬語で謝罪の深さを表しますか」という問いに対して、語の種類、形容などいくつか予想するものはあったがここにも意外な答えが用意されていた。「部長、すい~(息を引く音)すみません」…「引き音」で深い反省の思いを伝える日本独特の表現だという。


 もちろん「ふさわしい言葉」「言葉の選び方」の知識満載の一冊だったが、私が感じ入ったのは、状況に照らし合わせる日本語、日本的態度の柔軟性だ。どんなに意味が深かろうと、普段よく使われる語はだんだんと価値が下がっていく「価値逓減の法則」にも納得した。手垢のついた語彙より場の把握こそ、核となる。