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取り戻したい、日本語を

2020年11月10日 | 読書
 同年生まれのこのコラムニストの文章は時々ネット上で読むが、単行本は2冊目である。一昨年に読んだ本も面白かった。ほんのいくらか自分に似ている印象を持つ。立ち位置が右か左かということではなく、言葉が気になる(気にするか)タイプというか。もちろんこんな大きな題で書ける力量は自分にはないが…。


『日本語を、取り戻す』(小田嶋隆  亜紀書房)


 この書名が前首相の掲げた一つのスローガンのもじりと気づく人は多いはずだ。数年前から今年三月までの文章で構成され、前政権担当者らによる施策や失策(笑)に関わる言葉を、著者なりの構えからバサリと斬り込んでみせる。その切り口は鋭さというより重さが際立つ。情報の溢れかえる時代に必要な剣客の一人だ。



 授業研究会で「重箱の隅をつつく」と評された思い出を以前書いた。些細な部分にこそ宿る本質があると考えていたからだ。政治家やメディアに登場する人の言葉遣いも同じ。著者の語る「民主主義を実現するための政治とは、つまり重箱の隅を整理する議論にほかならない」という一節に頷く。その感覚は保ちたい。


 著者が二年前書いた次の文章は、繰り返された米国大統領選挙報道の客観的な見方の一つだと思わないか。「世界を動かしているのは、真相ではない。われわれの心を動かすのは印象であり憶測であり予断であり不安だ。」まるでショータイムのようだった。今後の経過と結末が及ぼす影響もまた、我々の心の中にある。


 第三章「ワンフレーズの罠」からは、「日本語を、取り戻す」ためのポイントが明確に読み取れる。時折メディアでも指摘される、そうした字句にどれほど具体性と明示できる根拠があるかを問うことだ。喫緊の学術会員任命問題を見れば言うまでもない。さらには根拠があっても堂々と示さない。その構図に慣れ切った。