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真実よりもなお真実を

2020年11月17日 | 読書
 図書館主催の読書紹介文コンクールで入賞した作文に、やなせたかし著の『わたしが正義について語るなら』(ポプラ社)を取り上げた子がいた。また数年前亡くなったときに、やなせたかしについて少しだけメモしたことも残っていた。その辺りの縁からこの文庫を手にしてみて、本当にアンパンマンは偉大だと思った。


『やなせたかし 明日をひらく言葉』(PHP研究所編)


 我々の世代だとアンパンマンというより「手のひらを太陽に」という歌に圧倒的な存在感がある。誰しも口ずさめる歌の一つと言っていいだろう。1962年に作られた曲は2年後に教科書に載った。子どもの頃も、また教員になった70年代後半から80年代にはよくどこの学校でも歌声が聴かれたように記憶している。


 「♪生きているから悲しいんだ♪」というフレーズも幼いなりにそのまま受け取った。これはアンパンマンにみる、正義や悪、喜びと悲しみ、友情や裏切り…包み隠さず現実を見せる手法なのだと思う。「人生の最大のよろこびは、人をよろこばせること」と語る著者の、他人と自分を励まし続けるための言葉が満載だ。



 冒頭に「ぼくらはみんな、それぞれに違う思い出を持っている。そして、なるべくよい思い出を作りたいと思って人生を生きる」とあった。その「よい思い出」を作るために、著者は自分を見つめ、好きなことを掘り下げ、様々な挫折や苦境にも負けず、絶えず「表現」に向き合ってきた。その芯をこの文章に感じた。

いつでもほんとうのことを書かなくてはいけないのですが
そのほんとうのことというのは、
眼に見えたそのままでなく、
真実よりもなお真実というものです。
それが精神的な部分に命中したとき、
私たちは感動するのです。



 「真実よりもなお真実」…ぐっとくる。今、目にしている耳にしている現実は、ノイズが多すぎる。それも含めて真実と呼ぶ向きもあろう。けれど人はどれほどに多くのことを抱えられるのか。多様で複雑な状況を認めつつ、正義とは…善とは…と本質をしっかり握りしめる意味を忘れてはいけないと諭された気がする。