お~い熊さん。この頃、大家さんのお小言を聞いてないねえ。ひとつ、ご機嫌伺いに、いっしょにお小言頂戴しに行かねえかい。そうだなあ。八っあん。小言は好かないが、こうテレビや新聞で、 毎回、首根っこを捕まえられて、振り回されているような文句ばかり聞かされて、こちとら、はなから飽き飽きしていたところだ。ここはひとつ、隠居した大家さんのお小言を正座でもって、いっしょに聞きたくなるってものじゃねえかい。
そうそう。どうも一人じゃ行きづらい。敷居が高い。と思っていたんだ。熊さん。 それにしても、ご隠居は物好きだねえ。あっしらみてえな野郎にも、噛んで含むようにお小言をしてあげようってんだから、ありがてえねえ。しかもだよ、最近は「モノの道理」を語ろうってんだ。同時代長屋の大家さんも酔狂だねえ。 そんな酔狂を聞きに行こうってんだから、八っあん。あんたも、物好きだねえ。
と、二人笑いながら、大家さんの家にむかう。
ありがたいことには、このご時世、大家さんのお小言が、ちゃんと本なっている。えっ。何ですって。お小言の内容をすこし話しちゃくれねえかい。ですって。ハハハ。そいつは、野暮ってもんですよ。旦那。
でもね。旦那。すこしぐらいなら、よござんす。
なあに、ちょっとですよ。ちょっと。
ということで、谷沢永一著「モノの道理」の、あとがき。
そのはじまりはこうでした。
「君は今なにかを考えている、まずそれから書き始めたらよい、とヘンリー・ミラーが記したと伝えられる。」
あとがきの中頃には、こうあります。
「いつの時代においても然りであろうけれど、特に昨今のわが国における表層的の風潮には、次第に固まってきた空虚な建前と人心の実際との乖離が甚だしすぎる。その原因はどなたもが内心に受けとめているであろうように、報道媒体(メディア)の不思議な偏向にあるとしか思えない。その顕著な趨勢が一斉にそろい踏みとなっているのは壮観である。見渡して較べて楽しむ興の削がれるのにはどなたにしろ不満であろう。この均一性に対する反発の声が大きくならないところに昨今の病弊がある。・・・」
そうそう。どうも一人じゃ行きづらい。敷居が高い。と思っていたんだ。熊さん。 それにしても、ご隠居は物好きだねえ。あっしらみてえな野郎にも、噛んで含むようにお小言をしてあげようってんだから、ありがてえねえ。しかもだよ、最近は「モノの道理」を語ろうってんだ。同時代長屋の大家さんも酔狂だねえ。 そんな酔狂を聞きに行こうってんだから、八っあん。あんたも、物好きだねえ。
と、二人笑いながら、大家さんの家にむかう。
ありがたいことには、このご時世、大家さんのお小言が、ちゃんと本なっている。えっ。何ですって。お小言の内容をすこし話しちゃくれねえかい。ですって。ハハハ。そいつは、野暮ってもんですよ。旦那。
でもね。旦那。すこしぐらいなら、よござんす。
なあに、ちょっとですよ。ちょっと。
ということで、谷沢永一著「モノの道理」の、あとがき。
そのはじまりはこうでした。
「君は今なにかを考えている、まずそれから書き始めたらよい、とヘンリー・ミラーが記したと伝えられる。」
あとがきの中頃には、こうあります。
「いつの時代においても然りであろうけれど、特に昨今のわが国における表層的の風潮には、次第に固まってきた空虚な建前と人心の実際との乖離が甚だしすぎる。その原因はどなたもが内心に受けとめているであろうように、報道媒体(メディア)の不思議な偏向にあるとしか思えない。その顕著な趨勢が一斉にそろい踏みとなっているのは壮観である。見渡して較べて楽しむ興の削がれるのにはどなたにしろ不満であろう。この均一性に対する反発の声が大きくならないところに昨今の病弊がある。・・・」