和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

おまえさん おまえさん

2022-08-29 | 詩歌
田村隆一の短い追悼詩があって、引用することに。

      桜島   黒田三郎の霊に

    きみは
    たしか鹿児島の造士館の出身で
    城山にすまいがあった
    ぼくが
    山を見ればその山は桜島であって
    はじめてみた桜島は雪がつもっていた

    おまえさん
    おまえさん また逢おう


東京の下町生れの田村隆一さんが、鹿児島生れの黒田三郎と出会って、
どのような影響があったのか? どうだったのか?
なんて、わかりようがないのですが、
まるで履歴書のように、『きみ』『ぼく』とはじめた詩が
一行空白後『おまえさん おまえさん』と呼びかけてます。

交際の履歴書ならば、空白の間にはさまざま詰め込まれて
しかるべきなのでしょうが、出身から桜島とはじめだけを
とりあげたあとは、一行の空白の空間に押しこめたままに、
次にくるのは、最後の二行の呼びかけとなっておりました。

おいおい。それはないだろう。と思う反面。
語られない、空白空間のブラックボックス。
そこに、反古の詩篇は詰めこまれてるようで、
『言葉なんか覚えるんじゃなかった』と書く
田村隆一の息を吞むような一回きりの気合芸。
コメント (4)
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