田村隆一の短い追悼詩があって、引用することに。
桜島 黒田三郎の霊に
きみは
たしか鹿児島の造士館の出身で
城山にすまいがあった
ぼくが
山を見ればその山は桜島であって
はじめてみた桜島は雪がつもっていた
おまえさん
おまえさん また逢おう
東京の下町生れの田村隆一さんが、鹿児島生れの黒田三郎と出会って、
どのような影響があったのか? どうだったのか?
なんて、わかりようがないのですが、
まるで履歴書のように、『きみ』『ぼく』とはじめた詩が
一行空白後『おまえさん おまえさん』と呼びかけてます。
交際の履歴書ならば、空白の間にはさまざま詰め込まれて
しかるべきなのでしょうが、出身から桜島とはじめだけを
とりあげたあとは、一行の空白の空間に押しこめたままに、
次にくるのは、最後の二行の呼びかけとなっておりました。
おいおい。それはないだろう。と思う反面。
語られない、空白空間のブラックボックス。
そこに、反古の詩篇は詰めこまれてるようで、
『言葉なんか覚えるんじゃなかった』と書く
田村隆一の息を吞むような一回きりの気合芸。