大村はま・安野光雅対談で
安野光雅著『 旅の絵本 』のことが取り上げられています
( ちなみに、この絵本は1977年福音館書店から発売。以後続刊も )。
この絵本に関しての2人の会話は丁々発止という感じで弾んでいます。
ですが、両方を引用していると、ゴチャゴチャしてしまう。ここでは、
大村はまさんの言葉だけを引用してみることに。
本屋さんで、この絵本を見つけた大村さんです。
大村】 ほんとにうれしくてね。それぐらいこれはうまく使えるんです。
教材に。それが、ちょっと見てすぐわかったので、
後はよく見もしないで買って家へ抱いて帰ったんです。
ことばが書いてないからいくらでも読める。
・・・・・
はい。この絵本には、言葉がなくて、絵だけでした。
だからいくらでも、言葉をつけていく楽しみがある。
大村】 たとえば、第1ページ、風が吹いているでしょう。
風といったっていろいろ吹き方がありますから、
そよそよとか、さやさやとか、いろんな音のことばが・・・
第2ページ、ここに人が話している。交渉している。
馬を貸してくれということを言っているですが、
交渉するとか、相談するとか、お願いするとか、
ここから語彙がずっと広がるでしょう。・・・・・
こういうふうに見ていくと、あっちこっちで、
二人とか三人で話をしているんですね。・・・・
それを実際、授業で使ったんです。まず最初には、
語彙でやったんですよ。そこから広がることばを
できるだけ拾ったんです。できる子もできない子も、
いろんな子がいましたけれど、そんなことは関係なくて、
いくらでもことばが拾える。
何も拾えなかった、つまんなかった子はいなかったのです。・・
( p187 )
うん。また引用が長くなりますが、印象深い場面がありました。
大村】 このなか(「旅の絵本」)に少しポーンとしたような
女の子がいるでしょう。ダイダイ色みたなスカートはいた
子がいるんですね。それがどこででも、ポーンと立っているんです。
この学習のとき、佐藤という苗字の生徒なんですが、あまり
坊やみたいだから佐藤坊やってあだ名がついている子がいたんです。
その子はなにもわかったことがない子でしたが、
これを見てうれしかったんでしょうね。その子が
一生懸命になって、私が気がつかないかと思って、
みんな静かに絵を見ているのに、
『 先生、先生、ここにだれかいる。ここにだれかいる 』
って私に教えてくれるんです。そこ子がポンちゃんを指して、
『 この子はさっきの笹舟のときもポーンと立ってて、ここに
来てもやっぱりポーンと立ってる。ぼくみたいなんだろうかな 』
って言うんですね。たいした鑑賞力ですよ。
そうやって自分のことをちゃんとわかっていてね。
これはぼくじゃないかなって。スカートをはいてるけど、
ぼくみたいな子なんだって言うんです。
それぐらい身にせまって見たんですね。 ( p191~192 )
はい。わたしの引用はここまでにします。
ひとつ残念なことは、私はこの絵本、楽しめなかった。
どうして楽しめなかったか? そのことを
この絵本をめぐるお二人の対談が教えてくれていました。