1989年の天安門事件を断固、武力で弾圧した鄧小平は共産党独裁体制を確立しました。
しかし市場経済政策は資本主義と同じなので民主化要求のデモが生じたと解釈する共産党長老がいたのです。ごく自然な解釈の仕方です。
従って天安門事件の直後から市場経済政策にブレーキがかかり、元の純然たる共産主義的経済コントロールへ変化させようとする主張が勢いをつけます。
困ったのは鄧小平です。彼は共産党独裁を堅持しながら市場原理にもとづいていて経済を発展させ、中国を豊かな国に出来ると確信していたのです。そこで彼は1992年に中国の南部を巡視しながらいろいろな形で、「市場原理の基づく開放政策」こそが中国を豊かにする唯一の方法だと力説したのです。この一連の主張が、「南巡講話」と呼ばれるものです。一言で言えば、「市場原理にもとづく社会主義経済」です。それは民主国家の資本主義とまったく同じですが、一点だけ決定的に異っています。それは共産党独裁の下にある市場原理によった経済政策なのです。
そんな事は可能でしょうか?
昨年、中国のGDPは日本を抜いて世界2位になったのです。これこそが鄧小平の経済政策が正しかったことの確たる証明です。
1992年の南巡講話の直後から多くの外国の企業が直接中国へ投資を始めたのです。中国の輸入・輸出は爆発的に伸びたのです。
この驚異的な経済成長を甲南大学の青木浩治氏と藤川清史氏が研究をして、http://kccn.konan-u.ac.jp/keizai/china/07/01.html に発表しています。きちんとした研究です。
その中から3つの図表を以下に引用させて頂きました。
上から順に、「外国からの投資契約高と実行高の年次変化」、「輸入と輸出の年次変化」、そして「中国各地の政策優遇得点の年次変化」の図面です。
いずれも1992年の南巡講話の後から急激に増加している様子が分かります。
特に三番目の図面の「中国各地の政策優遇得点」による経済成長のコントロールは共産党独裁政権だからこそ可能な事なのでしょう。
このように観察してみると、2つの疑問が湧いて来ます。
(1)共産党独裁のこの効率の良い経済成長は何時まで持続するのであろうか?
再び民主化運動が起きて中国社会は混沌とし、バブル経済が破裂しないのであろうか?
(2)天安門事件で若者たちを軍隊に虐殺させた鄧小平を中国人はどのように評価しているのだろうか?英雄として尊敬されているのであろうか?
私は矛盾した評価を持っています。彼は悪魔でもあり英雄でもあるのです。中国を天国へ引っ張り上げる天使のようでもあります。人間の矛盾の大きさ、深さに私は言うべき言葉を持っていません。
皆様のご意見を頂ければ嬉しく思います。