(写真の出典:http://runo345.btblog.jp/)
夏は海水浴も出来るし魚も新鮮で美味な伊豆七島へ渡るのも良いいものです。
そこで2006年に独りで行った神津島での体験をお送りいたします。
しかしこの体験記を書く前に、江戸幕府の恐怖のキリシタン弾圧の時代に朝鮮出身の、おたあ・ジュリア受けた苦しみを簡単にご紹介いたします。
彼女は秀吉の朝鮮遠征のとき日本の武将によって連れて来られた少女でした。
しかしキリシタン禁教が始まると彼女はキリシタンとして捕まってしまったのです
しかし、むごい拷問にあっても絶対に棄教しなかったのです。
磔の刑は免れて、神津島への遠島の刑を言い渡されます。
神津島で彼女は罪人にも拘わらず人々の世話をして島民に愛されます。島民に尊敬され、親切にかくまわれます。
江戸時代はキリシタンへ親切にしたり、尊敬した人々はキリシタンと同罪の罰を受けます。
ですから神津島の島民はジュリアを尊敬している事は絶対に秘密にしなければいけません。幕府の役人の拷問を想像して恐れました。
ですからそれは島の人だけの恐怖の秘密だったのです。明治維新までの250年間の絶対的な秘密だったのです。
時代は明治、大正、昭和と流れて行きましたが、この秘密は何故か島民の心に美しい影のように語りつがれて来たのです。
そのような島民の優しい心情を感じさせる孤島への旅でした。
さて前置きが長くなりました。
2006年に満70歳になったので仕事を一切止め、前々から行きたいと思っていたロマンチックな土地を訪ねる旅をはじめました。
まず、伊豆七島の神津島へ遊びに行ったのです。
東京の竹芝から高速水中翼船で4時間、遥か外洋に浮かぶ小さな火山島です。山ばかりで平地が無いのです。
船の着けられる簡単な桟橋が島の東西の両側にあり、風向きによってどちらかを選ぶのです。一人旅の気安さで島の民宿に投宿しました。燗酒を傾けつつ、宿の主人から島の昔話を聞くと、明日、見物すべきところも説明しくれます。
そして、急に声をひそめて語り出したのです。
「朝鮮風の石碑が岬に有りますよ。おたあジュリアの墓です」
「それは誰ですか?」
「小西行長が朝鮮征伐のとき連れ帰った娘です。日本に来てからキリシタンになったのでここへ流された女です。当時の島の人々を助け勇気づけたので女神のように思っている人が多いです」
「何故そんなに声をひそめて喋るのですか?」
「おたあ、を島の人々が始めは、助けて保護したのです。キリシタンを助ければ幕府から重い処罰を受けます」
「それで?」
「おたあ、は立派な女です。元気になると島の人々の面倒を良くみたのです。困った人の相談に乗り、人々を勇気づけました。皆尊敬し、おたあは本当に優しく賢い女だったのです」
「分かりました。でも今はキリシタンへの弾圧もない自由な時代です。何故小さな声で話すのですか?」
「島の人々は今でもおたあ、のことを尊敬しています。小さな声で話すことで尊敬の念をあらわしているつもりなのです。まあ、つまらない話かもしれませんが」
「神津島の人々だけの小さな秘密ですね?」
「まあ、秘密って程でもありませんよ」とニコニコし、宿の主人が満足げな様子です。
現地へ行ってみないとローカルな歴史は分からないものと再度、感じいったものです。
帰宅して調べてみました。おたあは3歳の時、日本へ連れて来られ、アウグスチノ小西行長の養女となり、洗礼を受け、ジュリアという名を授かります。
関が原の合戦の後、小西は石田三成とともに三条河原で斬首されるのです。
家康の側室の侍女となったが家康の言いなりになりませんでした。
桃山、江戸、駿河と移され、禁教令と共に神津島へ流刑になったそうです。
島に着いたのは慶長17年、1612年のことです。小西行長の友人の石田三成一族も神津島へ隠れ住み、ジュリアを助けたという話もあるそうです。
現在でも、毎年、神津島おたあジュリア顕彰会などの主催で「ジュリア祭り」があるそうです。カトリック東京大司教区と韓国のカトリック教会が共同でジュリアあたあの慰霊祭も同時に行っているのです。
尚、ジュリアの最後には諸説があって、神津島から天国へ昇ったのかは定かではない。
写真4枚は上列左がジュリアの姿、その右が神津島にある記念塔(お墓と想定されていた)。下列左は韓国、切頭島へ神津島から引っ越したジュリアのお墓(1972年日韓の友情による移設)、その右の写真は荒れる太平洋の波の様子です。なおジュリアの姿絵は、http://shl.holy.jp/text_gospel/julia.html から転載しました。
茫々あれから400年、神津島にはおたあジュリアの魂が島民と共に住んでいるのです。
白い砂浜や島の温泉で夏の日を楽しみながら時々、おたあジュリアのことも思い出すのも良いと思います。島の人々の心情を知れば夏の日々も一層味わいが深くなると思います。(続く)