日本ではワインといえばボルドーが最高級と信じ込んでいる人が多いようです。
そしてボルドーというブランド名が独り歩きをして人々はその言葉をやたら有難がっています。それはワインに限りません。
産地の名前をブランドと変えてしまって、言霊のように崇め奉る人の心はやはり日本独特の文化ではないでしょうか?
ボルドーのワインはブドウの出来、不出来によるので生産した年の気候によって決まります。ですから不味い年もあるし、美味しい年もあるのです。そんなことを一切気にしない日本人が多いのは困ったものです。
昔、南ドイツに住んでいたころ毎晩のようにワインを飲み、ドイツ人と何処のワインが美味しいか議論したことがありました。
そうしたら彼等は産地ではなく天候しだいだと言います。そしてボルドーのワインは不味いと言います。
南ドイツではモーゼル川の沿岸の南向きの斜面でとれたブドウで作ったワインが美味だと断言するのです。
そして、そのブドウを摘み取る時期によって酸味、辛口の度合い、甘味、味の深さ、フル-ティさなどが違います。ある人が遅い時期に摘んだ濃厚な味が好きだと言えば、他の人は早摘みの軽やかな味が好きだと断言します。
それで気がついたのですが、ヨーロッパ人は自分の国のワインを最高と信じ、外国のワインをあまり飲みません。ボルドーは日本でだけ有名なのです。
この連載では産地の名とブランドとは違い、外国ではブランド名を産地という意味で使っているのに日本では崇め奉る言霊として使っていることを説明したかったのです。ところがこの説明をどうしても理解してくれない人が多いのです。
例えばシャネルという商品はココ・シャネルとその一派の人々の独創性を尊重して製作者の名前を言っているのです。シャンルの商品が全て良いと保証している訳ではないのです。自分の好みにあった商品だけを買えばよいのです。
たまたま昨日、昔仲人をした夫妻から例年のように盛岡市の五枚橋ワイナリーのカベルネ・ソーヴィニヨン2012というワインを一本送ってきました。
さて栓を抜こうと箱を開けたら、そのまえに読んでくださいというように小さな紙が出てきました。その紙にこのワインの説明があるのです。
ビン詰め本数は316本、750cc,アルコール度13.5%です。そして以下の文章があります。
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前年の凍害にもめげず、生き残った葡萄の枝は力強く、良い房をつけてくれました。発酵後のワインは、しっかりした手応え。今までのカルベネのように、やや酸味を伴った爽やかな果実味というよりは、厚みがあってやや縁が柔らかい、風格のようなものを感じます。奥行きがしっかりとあり、魚貝類に良く合う(葡萄酒を作る)土地の個性はそのまま。ちょっと成長し、大人になったカベルネの印象です。
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上の説明文の良い点は以下のようです。まず葡萄酒の味は作る年によって変わりますと明言していることです。2012年ものは従来のフル-ティなさわやかな味ではなく、濃厚で重い味に仕上がってと言っているのが明快です。遅摘みのワインに近い味です。そして魚貝類の料理に合うと言うのですから地中海に近い南フランスのワインに似た味なのです。最後の文章の・・・ちょっと成長し、大人になったカベルネの印象です。・・・で決まりました。濃厚で奥行きのあるワインが好きな人には良いと言っているのです。
このような説明書きを読むとブドウ栽培の苦労や発酵工程の苦心が偲ばれます。そして出来たワインは年ごとに違うのです。
気に入るか入らないかは飲む人の勝手です。とにかく誠心誠意作りましから気に入ったら飲んで下さい。そんな姿勢が好ましいのです。
五枚橋ワイナリーは有名なブランドではありません。ブランドなどどうでも良いのです。人それぞれ好みは違いますがきっと気に入ってくれる人がいると信じています。このようなメッセージが清々しいのです。
そこで、このワインの合うような料理を作ってから味わうことにしました。
エビ、イカ、ムール貝などをオリーブ油で炒め、トマトの切ったものを多めに入れ、塩、コショー、で味付けし、ローリエを加え、ゆっくり煮込んだ地中海風の料理を作ってからワインの栓を抜こうと考えています。
下にこのワインの写真をしめします。