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おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書127「橋」(橋本治)文芸春秋

2011-01-23 20:43:53 | つぶやき
 橋本治。「巡礼」もそうだった。「ゴミ」屋敷の、年老いた主人公。日本の戦中から戦後、高度成長時代の中、時代に翻弄されながら生き方を転換していかざるを得ない人生。家庭、経済、・・・。それらを時代時代の風俗を織り交ぜて、足早に追っていく。まさに疾風怒濤の如き、市井の人の人生を描いていた。こうした戦後を足早に追いかけていく手法。
 これまでは、それほど長くはない小説というと、時間や空間を切り取って、そこに濃密な世界を描いていくことで、もっと大きな世界を浮かび上がらせるという形式・作法が多かった。そこを1㌻で何年もの人生・時間を描く。「巡礼」は、ゴミ屋敷がその舞台であったが、今回は、「橋」。多くの人がまだ覚えているある事件(二人の幼児を殺した事件。夫を殺害した事件の二つ)をもとに、そこに至るまでの人生を足早に。そして、終章は、残された肉親のつぶやきと情景描写で終わる。橋。川の向こう岸とこちら岸をつなぎ、時にはとてつもなく断絶する橋、架けられていながらも。
 幅の狭い田舎の川。橋も長くはない。それが生と死を分かつ、互いの思い、関わりを不可思議なものとする、そうした象徴的な存在として登場させている。
 「橋」がつく題名の小説といえば、すぐに住井すえさんの「橋のない川」を思い出す。被差別の現実と展望とそこで生きる人々を描いていた。この「橋」も象徴的だった。
 生活のために身を賭して働く生活。高度経済成長を成し遂げた日本(田中角栄的世界)。子どもの頃のいじめ、成長から取り残される土地。子ども達から捨てられる親たち。母親から捨てられる子ども達。家族関係の崩壊。地域の関係の非人間性化。それらがすべて、国の経済成長、国家の発展のためだ、という一言で片付けられていくとしたら・・・。
 橋本治の問題提起・意識は、また我々の問題提起・意識となっていかなければならないのではないか。といって、何が出来るわけではないが、せめて政治・経済・教育の世界には、哲学なり理念がもっとあってもいい。
 いたるところ、棄民政策につながるような刹那主義、超利己主義、個人主義。特に、政治の世界には蔓延しすぎていると思いませんか?
 
コメント
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