おやじのつぶやき

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読書「色川大吉歴史論集 近代の光と闇」(色川大吉)日本経済評論社

2013-03-05 21:41:03 | 読書無限
 宮沢賢治。麻原彰晃。1980年代の時代相(バブル期とその崩壊)の中で、「銀河鉄道の夜」の公開と歩を一にした宮沢賢治の再評価・ブームの到来とオーム真理教の出現、そしてその末路。
 当時、閉塞状況の下に置かれた青年達の心のあり方を世界観の理想のごとくに賢治の作品がとらえ、一方では、閉鎖的な空間の中で、教祖麻原に帰依し、エセ宗教的観念からついには武装化をおし進め、無差別殺人に向かっていった青年達の心のありよう。その双方のある種の屈折した思いの方向は、時代を先取りした賢治の精神世界の生き方への光明を求め、オームに心酔したあげくの末路に闇を深くする。まさに明治以降の「近代」がたどり着いた「光」と「闇」。
 歴史学者としての同時代的洞察。さらに、積み上げてきたこれまでの「自分史」まとめ直しの上からの歴史の総括、「近代史」の「光」と「影」を自らの戦争体験を通して語りかけていく。
 多摩五日市の市民が作り上げ、育まれていた(しかし、埋もれてしまった)、「五日市憲法草案」などの「自由民権運動」に関わるおびただしい資料の掘り起こし。その評価、現代的な意義。歴史の中で、千葉卓三郎、深沢権八親子などの、民衆の中で生き、死んでいった先人達の生き様に一筋の光を見いだす、困難でありながら未来を照らす発掘作業。
 2000年に書かれた文章では、当時盛んになり始めた憲法改正論議への問いかけ。「第9条」の改変(国防軍、自衛戦争、海外派兵、徴兵制、・・・)に改憲派の狙いがあるにもかかわらず、それをあいまいにしつつ、国民を「改憲論議」へ導こうとする動き。特にそれは、改憲派が圧倒的になった、2013年現在の政治動向への警鐘にもつながっていく。
 「敗戦と青春」の項では、学徒出陣として兵役に就き、「三重海軍航空隊」に所属、わずかの期間共に過ごした人との57年目の再会。戦争末期のすさまじい現実を見つめ直す。骨肉からの反戦の思いが切々と伝わってくる。「フー老のヰタ・セクスアリス」では、芸者置屋での「お芳さん」「君ちゃん」たちと心の交流がほほえましくも、したたかで悲しい女性の生き様が綴られている。
  さらに「網野史学」を民衆史の視点から捉え直すことの必要性を実証的に明らかにしていく文章は、興味深い。
 多種多様な素材・対象を扱いながら、一貫して日本という国土に住み、生活する人々の生き様、それは同様に朝鮮半島や中国大陸、地球で暮らす人々への眼差しでもあるのだが、その奥行きの深さに改めて感服します。

 
 

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