パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

現代にもリアルな万葉集(貧窮問答歌)

2019年04月08日 09時08分40秒 | あれこれ考えること

新元号が万葉集に由来するとあって急に万葉集が注目を集めているようだ
元号の決定プロセスや西暦との関係など、多少首を傾げることが無くはないが
万葉集自体に注目が集まるのは良いことかもしれない

だがへそ曲がりなので万葉集は素晴らしいとか、日本の宝であるとか、そんな表面上だけの評価に終止してほしくない
万葉集と言えばすぐに思い出すのは
「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」
の額田王の歌で、リズムも響きもいいのでとても気に入っているが
それとは別に何故か記憶しているものに、中学か高校の教科書に載っていた「貧窮問答歌」がある

抜き出してみると

貧窮問答歌

 風雑(ま)じり 雨降る夜の雨雑じり 雪降る夜は術(すべ)もなく 寒くしあれば 堅塩(かたしお)取りつづしろひ 糟湯酒 うち啜(すす)ろひて 咳(しは)ぶかひ 鼻びしびしに しかとあらぬ 髭かきなでて 我除(われお)きて 人はあらじと ほころへど 寒くしあれば 麻襖(あさぶすま) 引きかがふり 布肩着ぬ 有りのことごと きそへども 寒き夜すらを 我よりも 貧しき人の 父母は 飢え寒(こご)ゆらむ 妻子(めこ)どもは 乞ふ乞ふ泣くらむ このときは 如何にしつつか ながよはわたる
 天地(あめつち)は 広しといへど 吾がためは 狭(さ)くやなりぬる 日月は 明(あか)しといへど 吾がためは 照りや給はぬ 人皆か 吾のみやしかる わくらばに 人とはあるを 人並に 吾れもなれるを 綿も無き 布肩衣の 海松(みる)のごと わわけさがれる かかふのみ 肩に打ち掛け ふせいおの まげいおの内に 直土(ひたつち)に 藁(わら)解き敷きて 父母は 枕の方に 妻子どもは足の方に 囲みいて 憂へさまよひ 竈(かまど)には 火気(ほけ)吹きたてず 甑(こしき)には 蜘蛛(くも)の巣かきて 飯炊(いひかし)く 事も忘れて ぬえ鳥の のどよひ居るに いとのきて 短き物を 端切ると 言えるが如く しもととる 里長(さとおさ)が声は 寝屋戸(ねやど)まで 来立ち呼ばひぬ かくばかり 術なきものか 世の中の道 世間を憂しとやさしと思へども 飛び立ちかねつ鳥にしあらねば


風交じりの雨が降る夜の雨交じりの雪が降る夜はどうしようもなく寒いので,塩をなめながら糟湯酒(かすゆざけ)をすすり,咳をしながら鼻をすする。少しはえているひげをなでて,自分より優れた者はいないだろうとうぬぼれているが,寒くて仕方ないので,麻のあとんをひっかぶり,麻衣を重ね着しても寒い夜だ。私よりも貧しい人の父母は腹をすかせてこごえ,妻子は泣いているだろうに。こういう時はあなたはどのように暮らしているのか。

 天地は広いというけれど,私には狭いものだ。太陽や月は明るいというけれど,私のためには照らしてはくれないものだ。他の人もみなそうなんだろうか。私だけなのだろうか。人として生まれ,人並みに働いているのに,綿も入っていない海藻のようにぼろぼろになった衣を肩にかけて,つぶれかかった家,曲がった家の中には,地面にわらをしいて,父母は枕の方に,妻子は足の方に,私を囲むようにして嘆き悲しんでいる。かまどには火のけがなく,米をにる器にはクモの巣がはってしまい,飯を炊くことも忘れてしまったようだ。ぬえ鳥の様にかぼそい声を出していると,短いもののはしを切るとでも言うように,鞭を持った里長の声が寝床にまで聞こえる。こんなにもどうしようもないものなのか,世の中というものは。この世の中はつらく,身もやせるように耐えられないと思うけれど,鳥ではないから,飛んで行ってしまうこともできない。

これなどは恐ろしいまでに現代の生活困窮者を連想させる
何百年かかっても人は進歩していない、、と実感するばかりだが、驚くのはこうした一種政権批判のようなものがちゃんと公文書(?)に残っているということ
これが現代ならば不適切な表現云々の理由で削除されたり、最初から取り上げられなかったりするのではないかとつい思ってしまう
万葉集に何故こんなものが掲載されているのか不思議なところで、専門家は別に不思議な事でもないと感じているかもしれないが
万葉集に取り上げる歌・序文の選考基準がゆるそうなのは、、少し不思議だ(なにか意図があった?)

ところで万葉集にはあまりにも多くの立場の人間の歌が収められているので、あの時代の人たちは一般人でも文字を書くことができたのか
そして紙はふんだんに手元にあったのだろうか、、、と違った疑問も浮かんでくる




コメント
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