作家・平野啓一郎の原作を石川慶が監督・脚本し、映像化。
当方、原作を既読。内容を知っているだけに、鑑賞を躊躇していたが、キャストの配置
と原作の良さがわかっていて、気になっていただけに鑑賞することにした。
里枝(安藤サクラ)は離婚を経て、子どもを連れて故郷の宮崎に戻っていた。実家の小さ
な文具店を手伝って過ごす日々。そこにある日、スケッチブックと筆を買っていく男性(窪
田正孝)が現れる。
その男は、最近この町にやってきて林業に就いているという。
やがて、その「谷口大祐」と再婚。女児も誕生し、親子4人で幸せに暮らしていた。しか
し、「大祐」は仕事中の不慮の事故で亡くなってしまう。
1年後、長年疎遠になっている「大祐」の兄・恭一に(眞島秀和)に連絡すると、遺影の
「大祐」は自分の弟ではないという。里枝にとっては、衝撃の事実。愛したはずの“夫”は
誰だったのか、本当の名前も知らない人だった。
そこで、里枝はかつて依頼したことがある弁護士・城戸(妻夫木聡)に、“夫”の身元調査を
頼む。「谷口大祐」として生きていた人物は誰なのか、なぜ別人として生きてきたのか、
城戸は真実を追っていく。
原作とは違う描き方はあるが、よくまとまった作品。キャストの使い方も贅沢だ。
名前を変えてでも生きなおしたい、というのはあるのだと思う。実際、そうしている人は自分
の周りにはいないだけで、“普通に”いるのだろう。
“大祐”がもっと早くに里枝に出会えていたら、名前を変える必要もなかったのかもしれない。
そして城戸もまた、名前に縛られて生きてきた人物であるということも、この物語の柱である。
妻夫木聡も、安藤サクラも、窪田正孝も感情を控える演技が要求されるが、このメンツなので
難しそうな描写部分も楽しみでしかなかった。
ミステリーなので、どこがどうなるかは書きづらいので、ダラダラ書くのはやめたい。
出演は他に、清野菜名、仲野太賀、真木よう子、でんでん、小藪千豊など。
事件のカギを握る男には柄本明。当方が原作を読んでいるとき、映像化されれば、この役は
おそらく柄本明になる、この人しかないと思っていた。ゆえに、納得の奇妙さで冴えた演技
は見ごたえがある。
が、この男は関西ことばを話す役。そして当方は関西人。関西人の悪いクセと言っていいの
かもしれないが、柄本明の関西ことばが気になってしまうアクセント。
あー-、違うのよと思ってしまう性が悲しい。
が、気にならない人は気にせず、さすがの凄みを感じてもらえるはず(上げたり、下げたりし
ているが褒めてる)。柄本明しかいない。