――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを与えよう――
自民党の舛添前厚生労働大臣が3月1日に日本外国特派員協会で講演、政界再編や新党問題、自民党改革等について穏やかならざる発言をしたようだ。他の政治家とは違うところ見せるためか、すべて英語を使っての講演だそうだが、例の如く目を剥いて怒ったように断定的に発言したに違いない様子が目に浮かぶ。発言の全文、もしくは要旨を伝えている記事がなかったものだから、どのような発言か、各記事を拾ってみた。
《“民主内不満勢力と連携を”》”(「NHK」/10年3月1日 17時56分)
「自民党の政党支持率、特に谷垣総裁や大島幹事長ら執行部の支持率がどうなるかによる。民主党は長崎県知事選挙で負けたが、自民党の支持率は変わらないままか、下がっているものすらある。・・・・党執行部は、政策面で、われわれが検討している経済政策を取り入れるべきだ。そうでなければいっしょに仕事はできず、党を割らなければならない。・・・・みんなの党の渡辺代表とは共有している政策もあり、意見交換している。さらに、民主党内の小沢幹事長の独裁態勢に対する不満がポイントで、前原国土交通大臣や枝野行政刷新担当大臣、それに仙谷国家戦略担当大臣らと連携したい」
《舛添氏の選択肢、新党か谷垣おろし》”(日刊スポーツ/2010年3月2日7時22分)
「あらゆる選択肢がある。このまま党の支持率が低迷したり、古くさい経済政策をやるようなら、新党もあるし、(党に残って)今の党を変える可能性もある。・・・参院選前、谷垣禎一総裁を総裁の座から引きずりおろす動きが出るかもしれない。そうすれば改革は可能」
(渡辺喜美・みんなの党代表や、前原誠司国交相ら民主党閣僚の名前を挙げて)「他党と連携の可能性もある」
(「新党結成なら名前は『舛添党』か」との記者の質問に)「日本では、自分の名前をつけるケースはない。・・・・表に立とうが裏に立とうが、変えなければならない時には変える」
「表に立とうが裏に立とうが、変えなければならない時には変える」と鼻息は荒いが、意外と常識的な考えの持主だ。「日本では、自分の名前をつけるケースはない」なら、「じゃあ、日本で最初に自分の名前つけてやりましょうか?」ぐらいのユーモアを発揮してもよさそうだが、常識的であることと独立独歩的なこの鼻息の荒さはどこか矛盾している。独立独歩が見せ掛けなら、矛盾は直ちに解消可能となる。
《舛添前厚労相:「谷垣降ろし」可能性に言及》”(毎日jp/2010年3月2日 朝刊)
「自民党の優秀な政治家が憂慮するなら、彼らが谷垣(禎一)総裁を辞任させて党を変革する可能性がある。・・・・もし執行部がわれわれの経済政策に同意しなければ、一緒に行動することはできない」
記事は、〈「優秀な政治家」の具体名は明らかにしなかった。〉と書いている。
《『谷垣降ろし』示唆 自民・舛添氏》”(東京新聞/2010年3月2日 朝刊))
「(自民党支持率が)このままだと(党内の空気は)谷垣禎一総裁の辞任を促す方向に行くだろう」
(総裁交代の可能性に関して)「党内の賢明なる政治家は熟慮している。・・・・(総裁が交代することによって)党改革が可能になる」
そのときは自身が総裁選に打って出るということなのだろう。著書の中で既に首相宣言している。
「政界再編という目的を遂げないといけない」
「自民党を改革するか、新党を立ち上げるかの両方の選択肢を考えている」
この新党結成意志を覗かせた発言を記事は、〈約一カ月前に出版した著書では「内部でけんかしながらやっていく」と、ひとまず新党は封印する考えを示していたが、この日は「自民党を改革するか、新党を立ち上げるかの両方の選択肢を考えている」と再び言及。参院選に向け、発信を強める必要があると判断したとみられる。〉と解説している。
《舛添氏「谷垣氏おろしも」 自民執行部を批判》”(NIKKEI NET/10.3.2 01:26)
「長崎県知事選に勝利しても世論調査の支持率は横ばいもしくは下がっている。見識ある政治家だったら谷垣禎一氏を総裁のいすからおろす方向に動くだろう」
(自らが立ち上げた「経済戦略研究会」がまとめる経済成長戦略案を)「執行部が受け入れなければ、党を割って出ることもありうる」
《新党結成or自民改革…舛添氏、2つの選択肢》”(YOMIURI ONLINE/2010年3月1日19時18分)
「世論調査で民主党の支持率は自民党の2倍で致命的だ。この点を党内の良識派が考慮すれば、谷垣総裁を降ろす方向に動くだろう」
(新党結成の可能性について)「経済政策に関して、党執行部が我々と合意できないなら、一緒にやっていくことはできない。その場合、党を割らなければならない」
党を割った場合の次の手としてある政界再編に関して、記事は次のように書いている。
〈みんなの党の渡辺代表について「考えを共有し、親密に議論している」と強調。民主党の前原国土交通相や仙谷国家戦略相、枝野行政刷新相らとも親しいとして、政界再編への意欲を示した。〉――
講演後の記者への発言。
「新党結成か、(自民党の)改革をするか、二つのオプションを考えている。マグマのようにいろんな不満がたまっている。不満が解消するか、党の支持率が上がるか(が重要だ)」――
ここでも鼻の穴を膨らますほどの鼻息の荒さを目を剥いた顔の表情に見せていたに違いない。
《参院選前の「谷垣降ろし」も=舛添氏》”(時事ドットコム/2010/03/01-17:37)
「世論調査では自民党の支持率は変わらないし、むしろ下がっている。党内の賢明なる政治家がこの点を考えれば、谷垣禎一総裁の辞任を促す方向に行くだろう。その場合は党改革はできる」
「自民党を改革するか、新党を立ち上げるか両方のオプションを考えている。・・・・当然として、他党との政界再編の可能性も念頭にある。他党とは民主党のメンバーも含む」(以上引用終了)――
以上見てきた舛添日本外国特派員協会発言はこれまでの自民党執行部批判発言及び政界再編発言と殆んど変わらない。ほぼ同じことの繰返しと言える。違いは場所を日本外国特派員協会に変えたことと、「谷垣降ろし」に直接言及したことの二つのみだが、鼻息を荒くする余りの勢い余って予期せず口を突いて出てしまった発言でなければいい。
先ず新党結成を契機とした政界再編について、「民主党内の小沢幹事長の独裁態勢に対する不満がポイントで、前原国土交通大臣や枝野行政刷新担当大臣、それに仙谷国家戦略担当大臣らと連携したい」(NHK)と言っているが、この発言と昨年12月22日の新刊『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』の出版記念講演(都内)で、「誤解を恐れずに言うなら、今の自民党には小沢(一郎)さんよりももっとラジカルな(過激な)独裁者が必要」と発言した“小沢評価”との矛盾はどう整合性をつけるつもりでいるのだろうか。
「今の自民党には小沢(一郎)さんよりももっとラジカルな(過激な)独裁者が必要」が事実なら、「民主党内の小沢幹事長の独裁態勢に対する不満」を持っている「前原国土交通大臣や枝野行政刷新担当大臣、それに仙谷国家戦略担当大臣ら」は逆評価し、排除しなければならない対象のはずである。
また2月10日出版の自著『内閣総理大臣』で「時期が来たら私自身がリーダーシップを取ることを拒否はしない。首相に必要な能力を持つよう努力している」(毎日jp)と首相宣言しているということだから、舛添自身が必要としている「小沢(一郎)さんよりももっとラジカルな(過激な)独裁者」とは首相となった場合の自身が目指さなければならない首相としての資質ということでなければならない。
にも関わらず、政界再編は「民主党内の小沢幹事長の独裁態勢に対する不満がポイント」だとする変節を犯して平然としている。この変節を隠したまま、いつも目を剥いた鼻息荒いあの表情を見せていた?
いずれにしても、舛添の言葉は信用が置けないことになる。
あるいは小沢的独裁は許せないが、舛添的独裁は許せる、日本のためになるということなのだろうか。著書『内閣総理大臣』の副題が「鳩山、小沢よ。今すぐ去れ!」となっているそうだが、だからこそ、「今すぐ去れ!」の対象に小沢を含めたということなのだろうか。
次に、「世論調査で民主党の支持率は自民党の2倍で致命的だ。この点を党内の良識派が考慮すれば、谷垣総裁を降ろす方向に動くだろう」(YOMIURI ONLINE)と言っていることの、「この点を党内の良識派が考慮すれば、谷垣総裁を降ろす方向に動くだろう」の主体は舛添自身ではなく、「党内の良識派」となっている。いわば自身が率先して“谷垣降し”に動くと宣言したわけではなく、「良識派」への期待値を示した他力本願の発言に過ぎない。
つまり、「良識派」の「考慮」待ち。あるいは「良識派」の「考慮」頼みの他力本願と言い換えることもできる。
党改革にしても他力本願の形式を踏んでいる。
「世論調査では自民党の支持率は変わらないし、むしろ下がっている。党内の賢明なる政治家がこの点を考えれば、谷垣禎一総裁の辞任を促す方向に行くだろう。その場合は党改革はできる」(時事ドットコム)
「その場合」の「その」は断るまでもなく、“谷垣降し”を指す言葉である。いわば、「党内の賢明なる政治家」頼みの他力本願な“谷垣降し”という初期的局面を前提とし、それとの連動で「党改革」を次なる局面に置いているのだから、同じ他力本願に支配された「党改革」ということであろう。
裏返して言うと、“谷垣降し”がなければ消えてしまう「党改革」となる。まさしく自らが率先して動く“谷垣降し”でもなく、「党改革」ともなっていない。
「毎日jp」記事の「自民党の優秀な政治家が憂慮するなら、彼らが谷垣(禎一)総裁を辞任させて党を変革する可能性がある。・・・・もし執行部がわれわれの経済政策に同意しなければ、一緒に行動することはできない」の発言からも他力本願を説明できる。
自力本願な自らの「憂慮」を主体的原動力としているわけではない。既に触れたように「憂慮」の主体は「自民党の優秀な政治家」であって、自身を「憂慮」の主体に置いていない。他力的「憂慮」に乗っかっての党改革の可能性を言っているに過ぎない。
大体が舛添は、「自民党は歴史的使命を終えた」と言っている。時代的な存在価値を失ったと宣言したのである。時代的な存在価値を失った党は一旦消滅させて、新しくつくり直す以外に改革はあり得ないはずだ。党内改革の可能性が残されているというなら、完全には「歴史的使命を終えた」とは言えない。時代的な存在価値を僅かながらにも残していなけらばならない。
それを「新党もあるし、(党に残って)今の党を変える可能性もある」と改革の余地があるようなことを言って、「自民党は歴史的使命を終えた」とする過激な発言に矛盾させているのだから、舛添の言葉はますます信用できなくなる。
この“新党意欲”にしても、「新党結成か、(自民党の)改革をするか、二つのオプションを考えている。マグマのようにいろんな不満がたまっている。不満が解消するか、党の支持率が上がるか(が重要だ)」(YOMIURI ONLINE)と伝えている発言からも他力本願意志を窺うことができる。「マグマのようにいろんな不満がたまっている。不満が解消するか、党の支持率が上がるか」の状況次第だと、状況に“他力”を置いた願望となっていて、決して自分から自力で状況をつくり出そうという決意とはなっていない。
他力本願となっているからこそ、的を一つに絞ることができず、「新党もあるし、(党に残って)今の党を変える可能性もある」とどっちつかずの態度を取ることになっているのだろう。
それだけ決意が甘いということになるが、他力本願の分、決意が甘くならざるを得ないのだが、「自民党は歴史的使命を終えた」と自ら発した言葉に責任を取るためにも、みんなの党の渡辺喜美代表が2日に記者団に話したように、「舛添氏はわれわれのように行動を起こすことが大事だ。自民党の中にいて自民党を批判しても始まらない。飛び出す覚悟が問われる」(《大島幹事長:舛添氏に自重促す 総裁辞任に講演で言及》毎日jp/2010年3月2日 18時22分2010)とする決意を示すべきだが、決意を甘くしている他力本願から逃れられないでいるから、どう選択しようとも、自ら率先して行動する態度を示すことができないでいる。
また新党を結成した場合の連携相手として名前を挙げられた民主党の仙谷由人国家戦略担当相は2日午前の記者会見で連携に否定的な発言をしたと、《舛添氏の“新党ラブコール”…仙谷氏は否定的》(日刊スポーツ/2010年03月02日 11:24)が伝えている。
「医療、介護など社会福祉関係で共通の問題意識があるが、彼のリップサービスが過ぎるのか、ほかの意図なのかは分からない」――
この否定的発言は連携相手として確たる見通しを立てた上で名前を挙げたわけではないことの暴露となる。民主党は虎の子の衆議院308議席(石川議員が離党したとしても、隠れ民衆党として頭数の力を発揮する。)を抱えている。夏の参議院選挙で議席を減らしたとしても、ここのところの小沢幹事長の動きを見ると、公明党と組む最後手段に出る可能性も考えられる。意見を異にする集団だとしても、政策推進の大きな力であることに違いはない。舛添と組んで民主党以上に大多数を獲得できる成算がなければ、誰が舛添と徒党を組むだろうか。
確かに発言は勇ましい。鼻息荒いいつも怒っているような表情にマッチした勇ましい発言ではある。だが、それぞれの発言を詳しく検証すると、そこに現れるのは他力本願意志のみで、自力本願意志を見受けることはできない。
このどうしようもなく舛添に巣食っている他力本願意志は首相の資質と言えるだろうか。
他からの、いわば他力的なチャンスが訪れない限り、結局は自民党に残って総裁になるチャンスを窺うのではないのか。