自民党舛添前厚生労働大臣が3月1日、日本外国特派員協会で講演、自民党の支持率が上がらなければ、新党結成もある、政界再編も視野にある、“谷垣降し”も出てくるかもしれないと発言したことに対して、舛添が所属する参議院の76歳だが、選挙区議員だから自民党比例区70歳定年制に引っかからずに済む(?)幹事長谷川秀善の事情聴取を受けた。
どのような虚偽証言をしたか、「NHK」記事――《舛添氏“発言 問題なかった”》(10年3月3日 12時45分)から先ず見てみる。
舛添「講演では、自民党の支持率が上がらないことは問題で、こういう状態が続けば不満を持つ人が党内から出てくる。全員で努力すべきで、努力が足りなければ執行部にも責任はあるという趣旨の発言をした」
事情聴取した取調官谷川参議院幹事長は事情聴取後に記者団に次のように語ったという。
谷川「あまり神経質になる必要はない。自民党は開かれた政党であり、自由に発言することも必要だ」
問題なし、無罪釈放と言うわけである。
舛添議員の取調後の記者団への発言。
舛添「誰も批判しなければ独裁政党だ。民主党とは違うので、自由かったつに議論して、国民のための政策を作ることに尽力したい」
批判しつつ、自民党に協力することを宣言した発言となっているが、「誰も批判しなければ独裁政党だ」は、講演で批判したことの暴露となっている。だが、谷川事情聴取に対して、「NHK」記事を見る限り、舛添が支持率の低迷のみを批判課題に取り上げて、誰に対しても批判していない書き方となっている。
また、舛添証言には問題とする原因と結果を講演のそれと巧妙にすり替える虚偽、いわばペテンを働かせている。
「自民党の支持率が上がらないことは問題で、こういう状態が続けば不満を持つ人が党内から出てくる。全員で努力すべきで、努力が足りなければ執行部にも責任はあるという趣旨の発言をした」は、「支持率が上がらないこと」を原因に据えて、「不満を持つ人が党内から出てくる」を結果的局面とした説明となっている。「全員で努力すべき」はこれからの課題への位置づけであって、さらに課題の解決が不足した場合を原因として、「執行部」の「責任」を結果とする可能性に言及している言葉であるはずである。
だが、講演で言った「あらゆる選択肢がある。このまま党の支持率が低迷したり、古くさい経済政策をやるようなら、新党もあるし、(党に残って)今の党を変える可能性もある。・・・参院選前、谷垣禎一総裁を総裁の座から引きずりおろす動きが出るかもしれない。そうすれば改革は可能」(日刊スポーツ)は、「支持率」の「低迷」と「古くさい経済政策」を原因に据えて、「新党」及び「今の党を変える可能性」、あるいは参院選前の「谷垣禎一総裁を総裁の座から引きずりおろす動き」を原因に対する必然性ある結果に置いていて、同じ原因に対して谷川事情聴取の証言では明らかに結果をすり替えている。これをペテンと言わずに、何と表現したらいいのだろうか。
舛添は「誰も批判しなければ独裁政党だ」だと言って自己を正当な場所に置いているが、一見正当性ある発言に見えるが、だからと言ってすべての批判が正当性を持つとは限らない。自己の利害のみに立った的外れな批判も存在する。民主主義国家であることを以って批判は許されるを口実にした批判――批判のための批判、自己目的化した批判も存在する。
「asahi.com」記事――《舛添氏、どこまで本気? 「谷垣降ろし」周囲は冷ややか》(2010年3月3日20時23分)が、〈舛添氏は昨秋の党総裁選で青木幹雄参院議員の説得で立候補を思いとどまったこともあるだけに、「谷垣降ろし」の「本気度」が問われそうだ。〉と、その「本気度」に疑問符を投げかけ、次のように「本気度」の中身を解説している。
〈舛添氏はこれまでも過激発言を繰り返しながら行動が伴わず、「結局、何も行動できない」との見方もある。若手のホープ小泉進次郎衆院議員は「関心も興味もない」と突き放し、舛添氏が連携を探るみんなの党の渡辺喜美代表も「まずは党を出て」と模様眺めだ。〉
発言に行動がついていっていない男だとの見方があると断じている。発言に対して行動は別物としている男ということなのだろう。
その一方で、青木幹雄参院議員の説得を受けて、〈総裁選での立候補断念の際は若手の失望を買った。それに懲りたのか、年明け以降は青木氏らを念頭に「小沢一郎さんは自民党の最も古いやり方を踏襲しているが、我が党にもそういう考えの方がいる」と指摘。青木氏からにらまれる世耕弘成、山本一太両参院議員とも連携する。〉とその動向を肯定的に把えているが、青木幹雄の今夏の参議院選挙の公認を巡って自民党内の中堅・若手の一部が世代交代を理由に公認しないよう党執行部に求めていたが、いわば引退させようとしていたが、その中に舛添の名前を一度も見かけることはなかった。
要するに発言に行動が伴わない舛添式行動様式がそのまま当てはまる、言葉だけで終わっている「小沢一郎さんは自民党の最も古いやり方を踏襲しているが、我が党にもそういう考えの方がいる」に過ぎない、その程度の発言だと看做すこともできる。
「msn産経」記事――《自民党 若手の意見聴取でガス抜き 舛添氏「努力が足りないのは執行部の責任だ!」》(2010.3.3 19:26)は舛添の説明として、英語での講演であったために翻訳の手違いから生じた行き違いだとしているとしている。
記事の前段は谷垣総裁を含めた自民党執行部が3月3日に衆院当選1~4回の若手議員を期別に党本部に集めて懇談会を開催、不満のガス抜きを図ったとする内容となっていて、後段で舛添発言を取り上げて、谷川参院幹事長の話として、「英語での講演だったため、通訳の際に行き違いがあった」と舛添が釈明証言したと伝えている。
いわば舛添自身が「英語での講演だったため、通訳の際に行き違いがあった」と谷川参院幹事長に説明したわけである。新党構想も“谷垣降し”も、発言の問題となっている点はすべて通訳の行き違いによって生じたもので、自身は問題となっているようには発言してはいないと否定したことになる。
また谷川参院幹事長の舛添無罪釈放の理由を記事は次のように書いている。
「舛添氏は新党を作って飛び出すとは考えていない。(同氏の発言に)あんまり神経質にならない方がいい」
要するに新党構想も、「英語での講演だったため、通訳の際に行き違いがあった」ことから生じた誤解であって、自分は飛び出すことはしないと証言したということであろう。そうでなければ、発言に整合性が取れない。発言に行動が伴わないばかりか、発言自体がデタラメな男ということになる。
但し、事情聴取後の記者団に対する日本語の発言は問題点が講演の英語の通訳の手違いから生じた誤解であることを否定したものとなっている。
「わが党の支持率が上がらないのを問題じゃないと思う人がいたらおかしい。努力が足りないところは執行部の責任だ。直さなければ、参院選で自民党はなくなる。鳩山内閣との戦の仕方に問題があると言うことの何が悪いんだ」
支持率上昇の努力途上にある執行部をほぼ確定的に見放した批判発言となっていて、執行部見放しは次に“谷垣降し”へと進展する可能性を持つだろうから、講演で展開した批判とさして変わっていない。いわば講演での批判が「通訳の際に行き違いがあった」誤解だとする証言は罪逃れのペテンに過ぎないことが分かる。
「日刊スポーツ」記事――《舛添氏「翻訳行き違い」、谷垣降ろし発言》(2010年3月3日12時13分)には次のような件(くだり)もある。
〈関係者によると、谷川氏が「腹を固めているなら出て行ってもらってもいい」などと迫り、舛添氏は「そんな気はありません」と否定する一幕もあった。谷川氏は「発言は注意した方がいい」と自重を促し、いったん収めた。〉――
「そんな気はありません」は発言に行動が伴わないことの証明ともなる一例と看做すことができる。
外に対しては強いことを言い、内に対しては従順な態度を示す。この面従腹背の二面性は発言に行動が伴わないことと併せて、舛添要一なる政治家が人間的には信用できないことを何よりも物語っていると言えないだろうか。