――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを――
大学生の就職のあり方について議論している日本学術会議の「大学と職業との接続検討分科会」が新卒でなければ正社員になりにくい現状を問題視して、「卒業後、最低3年間は(企業の)門戸が開かれるべきだ」とする報告書案を纏め、文部科学省に提出すると、「asahi.com」記事――《卒業後3年は新卒扱いに 大学生の就職、学術会議提案》(2010年3月29日5時33分)が書いている。
結婚したら、3年間は新婚扱いにしようと取り決めるようなものかもしれない。だが、そう取り決めたとしても、以前は新婚旅行から帰国と同時に別れる夫婦を譬えた成田離婚などといった言葉も流行ったし、それ程最悪ではなくても、新婚賞味期間の3年を経たずに離婚するカップルもいるだろうし、逆に結婚後10年を経過しても新婚状態を保つ夫婦が稀には存在するだろうから、新婚状態を維持できるか否かは当事者それぞれの意識の問題だが、就職の場合、新卒で就職の機会を逃した大学生がその後も新卒賞味期間を維持していたとしても、企業側が新卒年のみしか賞味期限を認めない就職制度を自らの意識とし、そのような意識を少なくとも戦後日本の就職制度に於ける歴史と伝統と文化としていたということなら、大学生側には太刀打ちできない双方の意識の断絶ということになる。
記事は次のように解説している。
〈日本の企業は、大企業を中心に、新卒者を採用する傾向が強い。中途採用はあるものの枠は狭く、希望の企業に採用されなかった学生が「新卒」の肩書を持つために、留年するケースもある。 〉――
だからこそ、このような現状を改めるべく検討された「卒業後3年は新卒扱い」という意識面での新たな制度の設定ということなのだろうが、企業が新卒者にほぼ限定して採用に値する価値を置くのは新卒・既卒に関係なく個々の人柄や能力に価値や権威を置くべきを、このことから較べたら形式に過ぎない新卒にある種の権威を与えて、上の存在と価値づけているからだろう。その逆として、新卒で就職できず、次の就職シーズンに再度のチャンスを求める既卒者に権威を置かず、新卒者の下の存在と価値づけていることから生じている採用傾向に他あるまい。
日本の社会は家柄や血筋、職業、卒業した大学の有名・無名を上下の価値で権威づけているように、就職時の卒業時点に関してまで、新卒を既卒に対して上の価値で権威づける権威主義に支配されているということである。
かなり前だが、一頃、家や大学の寮から通う女子大生は世間ずれしていない、アパートやマンションを住まいとしている女子大生は親に内緒で男をいつでも連れ込むことができる、外泊も自由で世間ずれしているからと、企業が住まいを採用時の条件としたといったことがあったと聞いたが、人間の価値はそういったことで決まるわけではないはずだし、試験の成績で決めれば済むことだが、採用し、使用する企業側が世間ずれしている女子大卒は扱いにくい、世間ずれしていない女子大卒は扱いやすい、素直に言うことを聞くに違いないといった意識があったからではないだろうか。
そもそも権威主義とは上が自らを絶対として下を従わせ、下が上に無条件に従う行動様式を言う。上の指示・命令に対する下の同調・従属に狂いがあってはならない。狂いを生じせしめる条件を持った採用対象は疎外されることになる。それがかつての親から離れてアパートやマンションを借りていた女子大生であり、かなり前から現在まで引き続いている新卒時に就職できなかった既卒者というわけなのだろう。
そしてこのような権威主義的採用条件は当然のことだが、大学の有名・無名を権威主義的に上下に権威づけて採用に差別を設ける制度と相呼応している。すべてが日本人の意識としてある権威主義的な価値観、権威づけから発生して、社会制度とまでなっている採用の仕組みをそれぞれに構成しているからだ。
だが、このような権威主義に則った日本の社会的制度とまでなっている権威主義的意識からの採用制度を裏返すと、企業側は自らの人事管理能力に頼って部下を採用・使用するのではないことを何よりも証明している。
権威主義の原理に頼って採用・使用することとなっているから、人柄や能力に価値を置くことよりも、有名大学卒か否か、新卒か既卒かといった自分たちがつくり出した形式に過ぎない権威に価値を置くことになる。
住まいで女子大生の就職に差別をつけたのと同じく、権威主義の行動様式に照らして、新卒の方が既卒と比較して世間ずれしていない、純粋だ、言うことを聞かせやすいといった権威主義的な人事管理からの行動意識が理由となっている“新卒志向”といったところなのだろう。
これは三昔か四昔、男女とも女性は処女であることに絶対的価値、絶対的権威を付与した“処女信仰”にも相当する、日本の権威主義的思考が招いている大学生に対する一種の“新卒信仰”と言えないだろうか。
新卒であるか否かが学生の人間価値の決定要件はないのと同じように処女か否かがその女性の人間的価値を決定する資格要件ではないにも関わらず、かつての日本人は処女に人間的価値を置く権威主義に囚われていた。今以て囚われている日本人もいるに違いない。
分科会は問題点を新卒でなければ正社員になりにくい現状のみに絞って議論したわけではなく、他にも問題点を取り上げている。
就職活動の早期化で、大学4年間で学ぶ時間を確保できにくくなっている弊害や企業の「新卒一括採用方式」が特定の世代に景気変動の影響を与えやすい点等を取り上げ、問題視している。
後者は“新卒信仰”が強く関係している問題点であろう。一旦景気変動の影響を受けて新卒の資格を失うと、例え景気が回復して有効求人倍率が上がっても、新卒でないことが本人の努力や能力に関係なしに後々の就職にも影響していく。
何とも哀しい権威主義の価値づけであり、権威づけと言わざるを得ない。このことを避けるために、〈希望の企業に採用されなかった学生が「新卒」の肩書を持つために、留年するケース〉が本人にとっては深刻な問題だろうが、滑稽にも発生することになる。
分科会は具体的対策を次のように提案している。
企業に対する新卒要件の緩和の要求。経済団体の倫理指針や法律で規制するのではなく、既卒者を新卒者と同じ枠で採用対象とする企業の公表。
これは同じ枠で採用しない企業の社会的評価を落とす懲罰になると同時に同じ枠で採用する企業への社会的評価を高める報償とすることで同調を促そうとする提案であろう。
政府に対しては卒業後も大学の就職支援を受けられるように法律を改正するなど速やかな対応の要求している。
就職活動で学生が学業に打ち込みにくくなっている現状については大学4年間、あるいはさらに大学院での在学年の間、学生を社会から隔離するのではなく、インターンシップ等の制度を整備、そのような制度に則った機会を通して大学在学中から社会に交わることが重要だと提案している。
さらに記事の最後で、〈大学が就職活動のスキルやノウハウを伝え、資格をとるよう促す動きについては大学教育全体で職業的な能力を育て、成績評価を社会でも意味を持つよう改善することなどを求めた。〉と解説しているが、大学生が在学中に得た職業的な能力の「成績評価を社会でも意味を持」たせることができたとしても、それ以前の問題として、大学間で大学の価値を上下差別する価値づけ、権威づける日本人の権威主義的意識を取り上げなければならないはずである。
例えば大学在学中に国家公務員上級職試験に合格した。だが、学んだ大学が違っても、国家試験という同じ土俵に立って獲得した資格であるにも関わらず、卒業した大学の有名・無名によって採用後の地位・給与の待遇に上下の違いが生じる。
このような差別を受けた場合、例え大学生が在学中に得た職業的な能力の「成績評価を社会でも意味を持」たせることができたとしても、その評価は出身大学による待遇差別によって相殺されることになる。
大学の有名・無名に従って与えた価値・権威をそのまま大学生個人の能力として価値づけ、権威づける。あるいはそのような権威主義的な価値観を在学中に得た資格にまで広げる。何とも如何ともし難い日本人の権威主義の行動様式ではないだろうか。
以下参考引用――
《卒業後3年は新卒扱いに 大学生の就職、学術会議提案》(asahi.com/2010年3月29日5時33分)
大学生の就職のあり方について議論している日本学術会議の分科会は、新卒でなければ正社員になりにくい現状に「卒業後、最低3年間は(企業の)門戸が開かれるべきだ」とする報告書案をまとめた。最終報告書は近く、文部科学省に提出される。同会議は、今の就職活動が、学生の教育研究に影響しているとして、新しい採用方法の提案などで大学教育の質についての検討にもつなげたい考えだ。
日本学術会議は、国内の人文社会・自然科学者の代表機関で、文科省の依頼を受けて話し合っている。報告書をもとに同省は議論に入る。
今回、就職にかんする報告書案をつくったのは「大学と職業との接続検討分科会」で、就職活動早期化で、大学4年間で学ぶ時間を確保できにくくなっている弊害などが出ていることから、対策を考えてきた。
日本の企業は、大企業を中心に、新卒者を採用する傾向が強い。中途採用はあるものの枠は狭く、希望の企業に採用されなかった学生が「新卒」の肩書を持つために、留年するケースもある。
報告書案では、「新卒一括採用方式」について、特定の世代に景気変動の影響が出やすい点を問題視。卒業後すぐ採用されなければ正社員になるのが難しいことから、卒業後最低3年は在学生と同様に就職あっせんの対象にすべきだとした。
企業側にも新卒要件の緩和を求め、経済団体の倫理指針や法律で規制するより、既卒者を新卒者と同じ枠で採用対象とする企業を公表することを提案。政府にも、卒業後も大学の就職支援を受けられるように法律を改正するなど速やかな対応を求めている。
また、就職活動で学生が学業に打ち込みにくくなっている現状についても、規制のみで対応することには限界がある、と記述。大学が学生をできるだけ長く社会から隔離するのではなく、インターンシップなどの機会を早くから整備することが重要とした。
大学が就職活動のスキルやノウハウを伝え、資格をとるよう促す動きについては大学教育全体で職業的な能力を育て、成績評価を社会でも意味を持つよう改善することなどを求めた。