――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを与えよう――
3月8日に社民、国民新の両党が普天間移設案を政府・与党の検討委員会に提示した。
《シュワブ陸上案で調整 普天間移設 社・国が案提示》(東京新聞Web記事/2010年3月9日)
社民党案は、〈グアムや米自治領北マリアナ諸島テニアンへ移す国外案を第一とし、実現困難なら県外の国内に移す内容。地元の反発から、具体的な候補地は検討委に参加する阿部知子政審会長、服部良一衆院議員が非公開の私案として示した。陸上自衛隊東千歳駐屯地(北海道)、陸自北富士演習場(山梨県)、米軍岩国基地(山口県)、海上自衛隊大村航空基地(長崎県)など七、八案を示したもよう。〉
国民新党のシュワブ陸上案は、〈千五百メートルの滑走路を建設するもの。同党は米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)への統合案も示した。いずれも十五年の暫定利用としている。〉――
政府は5月決着を公約とし、アメリカ側にも「トラスト・ミー」と約束しているから、両党案を叩き台にいずれかに嫁ぎ先を決めるということになる。自民党が5月決着が不可能だった場合は退陣を求めるとしたのに対して鳩山首相が「覚悟を持って臨む」と応じたから、公約に反したなら退陣だなと思ったら、野党の挑発には乗らない、決意の程を示したに過ぎないと解釈訂正したから、まさしく「トラスト・ミー」である。
社民党と国民新党が移設案を提示した。与党が社民党と国民新党の連立政権ならそれでいいが、民主、社民、国民新の3党連立政権である。社民と国民新の2党のみ提示し、3党連立政権のうち最大議席数を有し、連立の要となる民主党が提示しないのはなぜなのだろうか。
このことを問うマスコミは調べた範囲では皆無となっている。
民主党が普天間基地移設問題にノータッチだったわけではない。常に積極的に関わってきた。以前ブログにも書いたことだが、民主党マニフェスト07年版は、「在沖海兵隊基地の県外への機能分散をまず模索し、戦略環境の変化に応じて国外への移転を目指す」(琉球新報)と、県外・国外移設を堂々と謳っている。
但し衆議院選挙向けた09年版マニフェスト「政策集インデックス2009」は次のようになっている。
〈外務・防衛
新時代の日米同盟の確立
日米両国の対等な相互信頼関係を築き、新時代の日米同盟を確立します。そのために、主体的な外交戦略を構築し、日本の主張を明確にします。率直に対話を行い、対等なパートナーシップを築いていきます。同時に国際社会において、米国と役割を分担しながら、その責任を積極的に果たしていきます。
米国との間で自由貿易協定(FTA)を推進し、貿易・投資の自由化を進めます。
日米地位協定の改訂を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方等についても引き続き見直しを進めます。〉――
「在沖海兵隊基地」の文言はどこにもなく、07年版から「トラスト・ミー」が遥か後退している。
後退したとしても、衆議院選挙を09年版通りに戦うなら整合性が取れる。沖縄基地問題に関しては07年版は反故にしました、09年版でいきます、と。
だが、09年衆議院選挙戦では当時の民主党代表鳩山由紀夫自らが先頭に立って、「トラスト・ミー」の07年版マニフェストで戦っている。
《普天間、県外移設「行動する」 民主党・鳩山代表》(琉球新報/2009年7月20日)
09年7月19日、民主党候補の選挙応援に駆けつけた沖縄市民会館で次のように演説している。
「県外移設に県民の気持ちが一つならば、最低でも県外の方向で、われわれも積極的に行動を起こさなければならない」
「日米政府の合意を『何も変えてはいけない』と地元に押しつけるのは、違うと思う」
これらの言葉には例え無意識下であっても、「トラスト・ミー」の意識を込めていたはずだ。込めていなければ、口先だけの言葉と化す。政治家は常に「トラスト・ミー」の意識に立って発言し、行動しなければならない。
そして8月30日の投票、政権交代、内閣成立後の9月21日~26日の日程で訪米。24日夜(日本時間25日昼)、ピッツバーグ市内で同行記者団と懇談。以下のように発言している。
《普天間は県外移転 鳩山首相が表明》(琉球新報/2009年9月25日)
鳩山首相「ベースの考え方を変えるつもりはない。だが年内に決めなければいけないかどうかは見極める必要がある。オバマ米政権の関心は、アフガニスタンの課題が先だと認識している」――
選挙戦で訴えてきたとおりに「基本(=ベース)の考え方を変えない」と宣言したということであろう。記事も、〈県外移転前提に移設計画を見直す考えを表明した。〉としている。
いわば選挙期間を通して一貫して“トラスト・ミー県外”を発信し続け、日米合意を言いつつ、現在もなお「トラスト・ミー」と沖縄県民の気持を訴え続けてきた。こういった鳩山首相を先頭とした民主党の「トラスト・ミー」の反映として現れた沖縄県民の県外・国外移設への期待値でもあろう。
鳩山首相以下の「トラスト・ミー」に沖縄県民の多くが乗っかったと言い換えることもできる。
であるならば、民主党自身も最低限、県外移設案の提示があって然るべきだが、県外どころか、県内移設案の提示もない。国外・県外移設を謳っておきながら、実現不可能となったことからの責任逃れの提示回避なのだろうか。
既に多くのマスコミが政府が沖縄県内移設の方向で検討を進めていると推測している。
3月2日、長島昭久防衛政務官(民主党衆院議員)がブルームバーグ・ニュースのインタビューに応えて次のように発言している。
《防衛政務官:普天間は県内移設が現実的、暖かい見返りを》(ブルームバーグ/2010/03/03 13:32)
「米国がなぜアジア太平洋地域に前方展開しているのかという問題に直結している。オペレーションの上で現実性がないといけない。・・・・ある程度、沖縄で受け止めていただかなければならない。負担を理解してもらうだけの、もう少し沖縄に対して暖かい見返りを提供することで何とか満足していただくという道があると思っている」
――沖縄に基地を残すということを示唆したのか?
「イン・オキナワ、イエス」――
県外・国外移設を言い続けて、その実現を果たすどちらかへの移設案の提示を目指して鋭意努力中であったなら、「ある程度、沖縄で受け止めていただかなければならない」などといった発言は出てこない。どちらへの移設案の提示も考えていなかった上での「ある程度、沖縄で受け止めていただかなければならない」である以上、県内移設=「イン・オキナワ、イエス」以外ない唯一残された道ということであろう。
民主党による県外・国外移設案提示ナシという現時点での結末を見ると、1月24日投開票の辺野古移設反対派稲嶺市長当選を受けて平野官房長官が、「民意の一つであることは事実であり、それを否定はしないが、今後の検討では、そのことを斟酌して行わなければいけない理由はないと思う。名護市辺野古への移設という選択肢をすべて削除するということにはならない」(NHK)と発言したことは、移設案提示回避に向けた伏線を示していたのかもしれない。
例え止むを得ない選択であったとしても、二つの問題が残る。
一つは言ったことが実行できていないこと、「トラスト・ミー」が「トラスト・ミー」となっていないことであろう。
二つ目は、県内移設先として国民新党のシュワブ陸上案を考えているなら、そのことを正直に言うべきを何も言っていないことである。言わないままにしておくのは県内移設となった場合の鳩山内閣に向けられる沖縄県民の批判を国民新党案に乗っかった県内移設ということで、間に国民新党を置くことになり、批判を和らげるクッションの役目を負わせようとする打算からだと疑えないこともない。
少なくとも共犯行為となり、責任を分割できる。
鳩山首相が言う「トラスト・ミー」も、平野官房長官が言う「トラスト・ミー」も、アメリカ向けの言葉で、沖縄向けでなかったらしい。
鳩山首相は「命を大切にする政治」をモットーとしている。勿論、無意識下に「トラスト・ミー」を置いたモットーでなければならない。だが、いくら「トラスト・ミー」を発信したとしても、相手に通じない「トラスト・ミー」であったなら、誰からも相手にされない「命を大切にする政治」となる。