拉致調査機関に如何なる権限が付与されようと金正恩の影武者に過ぎず、金正恩が描いたシナリオ通りに動く

2014-07-10 08:50:09 | Weblog

 

 ――調査のシナリオを書くのは金正恩であり、実効性は金正恩が握っているということである―― 

 安部政権は北朝鮮が「特別調査委員会」の設置を決め、日本側がその態勢を了承してから、後追いの形で実効性を問題とし、あるなしで揺れた。7月1日、改めて北京で日朝局長級協議を開催して、実効性を確認できたとして安倍晋三は独自制裁の部分解除を決めた。

 北朝鮮にしたら、いくらでも実効性を装うことができる。実効性は独裁国家である以上、独裁者である金正恩が握っている。「特別調査委員会」が握っているわけではない。

 そして例え独裁者であっても、権力の父子3代継承に権力の正統性と自身の正義を置いている以上、その正統性と正義は祖父金日成から父親金正日を経て受け継いだものとして棄損してはならない制約を受ける。

 棄損した場合、金正恩は自身の権力の正統性とその正義を損なうことになる。最悪の場合、失う。

 当然、金正恩が拉致問題の解決のシナリオをどう描くかは、自身の権力の正統性とその正義を守ることになる祖父や父親の権力の正統性とそれぞれの正義を損なわない範囲内に制限される。

 金日成主席死去から20年を迎えた7月8日、平壌体育館で金正恩第1書記出席で追悼大会が開催された。

 金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長「革命偉業の継承問題を輝かしく解決したことは金日成同志が祖国と民族の将来のため成し遂げた業績中の業績だ」(聯合ニュース

 いわば金正恩体制は金日成による革命偉業の輝かしい継承だと、独裁権力の親子3代継承の正統性を謳っている。

 要するに「特別調査委員会」で誰がどのような権限を持つとされたとしても、金正恩の影武者に過ぎない。実際の権限は金正恩自身が握っている。

 7月1日の北京での日朝局長級協議の報告を受けて、安倍晋三は7月3日、北朝鮮に対する日本独自の制裁の部分的解除を決めた。《北朝鮮に「本気度」、首相賭け=日米韓連携きしみも-制裁解除》時事ドットコム/2014/07/03-20:20)
 
 記事冒頭解説。〈安倍晋三首相が日本人拉致問題の進展を目指し、対北朝鮮制裁緩和を決断した。「圧力」に軸足を置いた従来対応からの転換は、北朝鮮側が示した再調査の態勢に一定の「本気度」を感じ取ったためだ。ただ、北朝鮮はいつ態度を豹変(ひょうへん)させるか分からず、首相の判断に「賭け」の側面があることは否めない。強硬姿勢を貫く米韓両国との連携にきしみが生じる懸念もある。〉――

 記事題名の「本気度」はマスコミ解釈の安倍晋三の感じ取りということになる。だとしても、この「本気度」は金正恩の本気度と解釈したものでなければならない。「特別調査委員会」は金正恩の本気度に対応するからである。

 安倍晋三(独自制裁の部分解除について)「国家的な決断、意思決定をできる組織が前面に出る、かつてない態勢ができたと判断した。行動対行動の原則に従った」――

 「国家的な決断、意思決定」は例え側近の助言や指示を受けることがあっても、最終的には金正恩自身のみが握っている決定権である。組織の態勢が握ることができる決定権ではない。安倍晋三にはその認識がないようだ。

 「特別調査委員会」は金正恩第1書記直属の最高指導機関「国防委員会」の幹部が委員長に就任。秘密警察として絶大な力を持つ「国家安全保衛部」が主導する態勢となっていて、7月1日の局長級協議で日本側に〈「国防委員会から全機関を調査できる権限を与えられたことは、各機関が不服従を許されず、無条件に全てを執行できることを意味する」と説明、調査の実効性に「太鼓判」を押して見せた。〉と記事は解説しているが、あくまでも北朝鮮側の説明であって、その説明が説明通りの実態を備えているかどうかは金正恩の意思を忠実に反映させた態勢であるかどうかにかかっている。

 勿論、調査の結果を見てみないと、金正恩の意思がどこにあるのかは、その正体は掴めないが、一つだけ占うことのできる事実がある。

 「特別調査委員会」は調査対象ごとに4つの分科会で成り立っている。

 (1)拉致被害者
 (2)拉致された可能性を排除できない行方不明者
 (3)日本人遺骨問題
 (4)残留日本人・日本人配偶者

 だが、日本側と北朝鮮側の記載順が異なっているという。日本側は拉致被害者の調査を最優先に挙げているの対して北朝鮮側は3番目となっていて、日本側が3番目に置いた「日本人遺骨問題」を第1番に挙げているという。

 そして日本側が4番目に置いた「残留日本人・日本人配偶者」を北朝鮮は2番目に置いている。

 但しこの順位も金正恩の意思を反映させた重要順=熱意度であるはずだ。だとすると、それぞれの順位の違いに現れている熱意の相違、あるいは温度差からも金正恩の意思を読み取らなければならない。

 安倍晋三が言うように「特別調査委員会」が「国家的な決断、意思決定をできる組織」だとしても、北朝鮮側が言うように「国防委員会から全機関を調査できる権限」を与えられ、「各機関が不服従を許されず、無条件に全てを執行」可能な組織だとしても、日本側と異なる北朝鮮側の調査の熱意度から「特別調査委員会」の万全性の程度をある程度推し量ることができるはずだ。

 金正恩の意思がこの万全な態勢を相殺させることもあり得るということである。

 金正恩自らの権力正統性と自身の正義の直近の付与者である父親金正日が指示・命令した日本人拉致である。無条件な拉致解決は父親と自身の権力の正統性と正義を既存する爆弾とならない保証はない。

 北朝鮮側の説明通りの「特別調査委員会」の態勢を鵜呑みにするだけで、強力な権限を与えられているとしている者たちが金正恩の影武者に過ぎないという認識を持たななかったなら、あるいは拉致解決のシナリオを書くのは金正恩自身だという認識を持たなかったなら、金正恩が目論んでいる解決の一歩も二歩も先を行く成果は期待できないだろう。

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