――安倍晋三に北朝鮮ミサイル発射を「安保理決議違反」と批判する資格なし――
昨日、2014年7月27日当ブログ記事――《百田の「ニュース9」大越キャスター批判は卑怯者のすること、誰に対しても言論の自由を振り回す資格なし - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で、一つお断りしておくことがある。
百田尚樹の発言を「毎日jp」記事通りに「韓国併合後に強制連行はなかった」としたが、「asahi.com」記事ではその発言が、「日韓併合直後から強制連行があったように受け取られかねない」、「誤ったイメージを視聴者に与えるのでは」となっていることに後から気づいた。
大越キャスターは日韓併合直後から強制連行があったとする文脈で発言したわけではあるまいし、そのように発言したとは思えない。例え日韓併合直後から強制連行はなかったとしても、そのことを以って日本という国家が朝鮮人に対して行った過酷な強制連行という罪の全体性は否定したり、薄めたりすることはできない。
もし百田尚樹が日韓併合直後から強制連行はなかったとすることによって大越キャスターの発言そのものを封じようとしていたとしたら、意図したわけではない部分的不正確さを取り上げて全体を不正確にすり替えようとする奸計を仕組むようなものである。
百田尚樹の発言がどのようなものであっても、自身の発言を議事録に記載しないよう求めたことは世間の目から自身の姿を隠して放送現場の言論をコントロールしよう意図したことに変わりはない。百田尚樹は別の場所で、NHKの経営委員としてではなく、作家とかの立場で堂々と「ニュース9」の大越キャスターの発言を「日韓併合直後から強制連行があったように受け取られかねない発言」だと批判すべきだったろう。
北朝鮮が7月26日夜、再び日本海に向けて弾道ミサイル1発を発射した。前回7月13日にミサイル2発を発射したとき、〈北朝鮮による弾道ミサイルの日本海に向けた発射は今年に入って5回目〉だと「スポニチ」が伝えていたが、だとすると、今回で日本海向け発射は今年6回目となる。
つまり北朝鮮は今年に入って「安保理決議違反」を6回も無視した。決議違反を何とも思っていないということを意味する。
外国への訪問回数を増やして記録を立てることも目的の一つに入れたメキシコ訪問中の安倍晋三がこの発射についてキシコ市郊外で記者団に発言している。《安倍首相:北朝鮮ミサイル「安保理決議違反」と批判》(毎日jp/2014年07月27日 04時12分)
安倍晋三「国連安全保障理事会決議違反であり、北朝鮮がこうした行動を取らないよう、国際社会の意志を北朝鮮に伝えていきたい。北朝鮮に核開発やミサイル開発と経済の再生の両立はできないと知らしめていく必要がある。
(情報収集や航空、航海の安全の確認、国民への情報提供を各省庁に指示したことを明らかにしたうえで)北朝鮮側に厳重に抗議するよう指示をし、既に抗議をした」
果たして安倍晋三は自身が言っているように知らしめることができると考えているのだろうか。あるいは知らしめることが可能と認識して、言葉を選んだのだろうか。
2012年11月15~16日に野田政権下での初めての日朝政府間協議が行われていたが、12月1日北朝鮮がテポドン発射を予告、12月5日予定の2度目の協議を野田政権は延期を決め、北朝鮮は2012年12月12日に予告通りにテポドン3号を発射している。
いわば野田政権は日本として国連決議違反であることを日朝協議延期という態度で示した。
だが、安部政権はミサイル発射が国連決議違反であることを口では唱えはしたものの、日朝協議を延期とか、中止とかで態度で示すことはしなかった。
今年5月26~28日にスウェーデン・ストックホルムで開催した日朝政府間協議で設置を取り決めた「特別調査委員会」の、その組織実効性を問うために7月1日に再度開催を予定していた中で、北朝鮮は6月29日午前5時頃、弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射した。
安部政権は国連決議に違反する北朝鮮のこのミサイル発射に対して7月1日の日本と北朝鮮の政府間協議の開催に変更はないとした。
勿論、政府間協議でミサイル発射を議題にするとしたが、北朝鮮は安保理決議違反を承知で発射しているのだから、まともに議題として取り扱うはずもなく、そのことは7月1日政府間協議の約2週間近く後の7月13日のミサイル発射が証明していることで、このことはまた、政府間協議開催に変更はなしとしたことで、いわばミサイル発射に日本としてはある種の免罪符を与えたことの証明ともなる。
但し安部政権が北朝鮮がミサイルを発射したとしても、野田政権とは違って政府間協議開催に変更はなしとしたことを間違っているとは言わない。あくまでも安部政権の外交に於ける優先順位である。ミサイル発射よりも拉致解決を優先させる外交策を取った。
7月13日にミサイル発射のとき、安倍晋三自身が免罪符を与えている。国連安全保障理事会決議違反だと批判し、北京の大使館ルートを通じて厳重抗議したことを明らかにしつつ次のように発言している
安倍晋三「ミサイル発射が(日朝政府間協議に)影響を及ぼすことはない。拉致問題はしっかり解決に向けて取り組んでいく」(スポニチ)
北朝鮮側からしたら、あなた方がミサイルを発射しても、日朝政府間協議に影響を及ぼすことはありませんよとされたのだから、ある種の免罪符を与えられたと解釈したとしても不思議はないだろう。
妻が不倫したことを知った夫が、「妻の不倫は我々の夫婦生活に影響を及ぼすことはない」と言ったとしたら、妻は自身の不倫に免罪符を与えられたと解釈したとしても不思議はないだろう。その免罪符は今後の不倫に対しても有効期限を保つと看做されるに違いない。
そして今回7月26日夜の弾道ミサイルの発射である。
安部政権は北朝鮮がミサイルを発射しても日朝政府間協議に変更なし・拉致進展へ対話継続の態度を採用してきたが、今回のミサイル発射に対してどのような態度を取るのか、今のところ明らかにしていないようだ。
今更後戻りはできないだろう。北朝鮮にしても、安部政権は後戻りはしないと踏んでいるはずだ。アメリカや国連がいくら反発したとしても、安部政権の間に拉致全面解決を訴えていたことと、ミサイル発射に対してある意味免罪符を与えたことが、その有効期限が生き続けていることを教えているはずだ。
もはや「安保理決議違反」を前面に出して批判する資格はないはずである。国際社会がどう見ようと、拉致解決に向けて、突っ張るしか道は残されていないだろう。
安倍晋三はメキシコで、「北朝鮮に核開発やミサイル開発と経済の再生の両立はできないと知らしめていく必要がある」と言っているが、金正恩は自分たち親子三代の父子継承の独裁体制を北朝鮮に於ける絶対的な国家体制と信じている。だが、国際社会が忌むべき体制として排除することを目論んでいることを国連決議やアメリカの批判を通して認識しているはずだ。
その排除の動きに対して自己の国家体制を守る最終手段が核兵器の保有であり、核兵器を運搬するミサイルの開発なのだから、核実験をやめることもミサイル発射をやめることもないだろう。
それらの実験は自己の独裁体制を絶対死守するシグナルと見なければならない。
当然、安倍晋三の「ミサイル開発と経済の再生の両立はできないと知らしめていく必要がある」は聞こえのいい言葉ではあるが、金正恩に対しては釈迦に説法となる。多分、金正恩は北朝鮮が崩壊することはあっても、その崩壊の瞬間まで核開発を続け、ミサイル発射実験を繰返すだろう。崩壊の寸前、北朝鮮疎外の反動としての世界に対する憎しみから北朝鮮の国家崩壊の道連れに世界の破壊を目論む衝動に衝き動かされる危険性を暴発させない保証はない。
安倍晋三こそ、拉致解決進展と北朝鮮の核開発・ミサイル開発阻止の両立はできないと知るべきである。大体が拉致解決進展がもたらす日本の経済制裁解除が北朝鮮の独裁体制延命に少しでも役立った場合、北朝鮮のミサイル開発と経済の再生の両立を可能とする選択肢となりかねない。