訪米安倍晋三の4月29日(2015年)上下両院合同会議の演説で女性の人権について次のように言及している。
安倍晋三「国家安全保障に加え、人間の安全保障を確かにしなくてはならないというのが、日本の不動の信念です。
人間一人ひとりに、教育の機会を保障し、医療を提供し、自立する機会を与えなければなりません。紛争下、常に傷ついたのは、女性でした。私たちの時代にこそ、女性の人権が侵されない世の中を実現しなくてはいけません」・・・・・・
安倍晋三は常に常に女性の人権問題について熱心である。女性の人権について常に常に心を痛めているからに違いない。女性の人権が常に頭にあるから、女性の活躍・女性の社会進出を政策に掲げた。
昨年2014年4月23日夕刻、オバマ米国大統領が訪日、翌4月25日午前中離陸し、次の訪問国韓国に向かった。同日午後、パク・クネ韓国大統領と首脳会談を行い、会談後共同記者会見に臨んでいる。
先ずパク・クネ大統領が、安倍晋三が先月従軍慰安婦の問題について政府の謝罪と反省を示した河野官房長官談話を見直す考えはないと表明したことに触れて次のように発言した。
パク大統領「安倍総理大臣が約束したことに関して誠意ある行動が重要だ。今後、日本が大きな力を傾けてくれればと思う」
オバマ大統領「(慰安婦の問題は)甚だしい人権侵害で衝撃的なものだ。安倍総理大臣も日本国民も、過去は誠実、公正に認識されなければならないことは分かっていると思う。
日韓両国はアメリカの重要な同盟国だ。過去のわだかまりを解決すると同時に未来に目を向けてほしいというのが私の願いだ」(NHK NEWS WEB)――
このオバマ大統領の発言に対して安倍晋三は4月27日午後、視察先の岩手県岩泉町で記者の質問に答えている。
安倍晋三「筆舌に尽くし難い思いをされた慰安婦の方々のことを思うと、本当に胸が痛む思いだ。20世紀は女性を始め、多くの人権が侵害をされた世紀だった。
21世紀はそうしたことが起こらない世紀にするために日本としても大きな貢献をしていきたい。今後とも国際社会に対して、日本の考え方、日本の方針について説明していきたい」(NHK NEWS WEB)――
壮大にも21世紀を見据えて、20世紀同様の女性の人権侵害が起きないよう、その保障に取り組む壮大な姿勢を見せた。
要するに実質的に言っていることは、各国の様々な元慰安婦の証言が、従軍慰安婦とされたその多くが日本軍による暴力的拉致と変わらない強制連行を手段とした軍慰安所への強制監禁とそこでの強制売春という特殊な人権侵害であるにも関わらず、その特殊な事例を安倍晋三は一般的な人権侵害に取り込んで、そこに紛れ込ませ、埋没させて一般的な事例としているに過ぎない。
例えば「イスラム国」やボコ・ハラムが女性を誘拐して人身売買や強姦の対象とする女性に対する人権侵害は、軍や過激派集団の攻撃によって家を失い、夫を失い、その土地やその国を逃れて難民となってキャンプ生活を送ることを余儀なくされて、食糧や飲料水を国連やその他の支援に頼る女性の人権侵害とは明らかに性格を異にするが、そうである以上、その違いを無視して前者の特殊な事例を後者の紛争地に於ける一般的な事例とすることは決してできない。
安倍晋三は特殊な事例を一般的な事例とする巧妙なゴマカシのテクニックを用いたに過ぎない。
このゴマカシのテクニックは日本軍の従軍慰安婦狩りを売春業者による「人身売買」としているすり替えにも現れている。
安倍晋三は国会答弁でも同じ論理で特殊事例を一般事例としている。2013年2月7日の衆議院予算委員会。従軍慰安婦の強制連行を示す証拠はなかったと「河野談話」を否定してから、次のように答弁している。
安倍晋三「20世紀というのは多くの女性が人権を侵害された時代でありました。日本に於いてもそうだったと思いますよ。21世紀はそういう時代にしないという決意を持って、我々は今政治の場にいるわけであります。女性の人権がしっかりと守られる世紀にしていきたい、これは不動の信念で前に進んでいきたいと思っています」・・・・・
当然、上記米議会演説での「紛争下、常に傷ついたのは、女性でした。私たちの時代にこそ、女性の人権が侵されない世の中を実現しなくてはいけません」という発言にしても、特殊事例を一般事例に埋没させる狡猾さを平気で発揮することができる、その程度の認識に立った、見せかけの女性の人権の保障と見なければならない。
見せかけであることは「紛争下、常に傷ついたのは、女性でした」という言葉そのものに現れている。
紛争や戦争で傷つくのは女性ばかりではない。より力の弱い子どもも多くが傷ついている。
2014年のユニセフの統計として、《紛争・難民》(国際NGOワールド・ビジョン)が、〈1,500万人もの子どもたちが紛争や武力衝突に巻き込まれ、その影響がある国や地域に住む子どもは2億3,000万人に及ぶと推定されています。紛争を避けるために故郷を去り国内、国外逃れている子どもたちも含まれます
紛争は子どもを殺害し、親を奪い、誘拐や拷問の対象とし、子ども兵士として利用します。近年頻発する自爆テロや、学校で学ぶ子どもの集団誘拐事件などは、戦時でも子どもを保護すべきとする国際人道法を無視し、むしろ、子どもを犠牲にすることを闘いの手段としています。〉と記述している。
ネット上には冷戦後10年間の子どもの被害について次のような記述もある。
〈戦争、紛争で死亡した児童 200万 (大人の戦士より多い)
負傷した児童 500万
家を失った児童 1200万〉――
だが、安倍晋三は紛争で傷ついていく、あるいは命を奪われていく無視できない多くの子どもへの視点を一切欠いている。女性のみが傷ついていくと思っている。
ここに公平な判断を見ることができるだろうか。アベノミクスが政策として掲げている女性の活躍・女性の社会進出との兼ね合いで言及した、いわば女性の立場を尊重しているかのように見せかける方便でしかない「女性の人権の保障」である疑いが濃い。
なぜなら、日本に於ける女性の社会進出の遅れは、男の権威を認めているが、女性の権威を殆ど認めていない封建時代の男尊女卑の権威主義を今なお引き継いでいることが影響している社会進出に於ける男女格差としてあるにも関わらず、安倍晋三にはそういったことへの視点を欠き、逆に封建制度の色を滲ませた伝統的な家族制度の守護者として立っているからである。
女性の人権の尊重・女性の立場への尊重から出ているアベノミクス女性の活躍・女性の社会進出ではない疑いが濃いとなると、景気回復に必要な女性の人材確保といった経済的要請からの方便としての女性の人権の尊重・女性の立場への尊重ということになる。
靖国参拝議員と硫黄島元米兵を握手させて「歴史の奇跡」と呼び、日米和解の象徴としたのも歴史修正の方便として用いた演出であったし、「先の大戦に対する痛切な反省」という言葉も、その程度の発言をしなければ周囲が収まらないことから、周囲を宥める方便に用いた見せかけの歴史認識に過ぎなかった。
安倍晋三の方便はウソ・偽りによって成り立たせている。その上、言葉が達者ときている。キラキラとしたウソを宝石のように散りばめた米議会演説となったとしても不思議はない。
勿論、米議会演説だけではない。