安倍晋三の安保法制議論は狭い領域概念に終始、“軍事的危険地帯”での活動という広い領域概念を欠いている

2015-05-26 10:50:37 | 政治


 何日か前のブログで安倍晋三と岡田民主党代表の5月20日党首討論を取り上げて、安倍晋三の新3要件に基づいた集団自衛権行使等の安保法制議論が「今後起き得ると想定した全ての事態が想定した予想通りに結果も予想通りとする予定調和」で成り立たせていると批判した。

 例えば後方支援活動で自衛隊が非戦闘地域で活動していても、そこが戦闘現場になった場合は直ちに活動を一時中止するか退避するから、リスクはないという趣旨の発言をしているが、一時中止、もしくは退避が想定したとおりに保証されるものとしている前提に象徴的に予定調和が表れている。

 自衛隊が活動を一時中止したからといって、敵勢力が一時中止に応じて攻撃を停止する保証はないし、当然、そこで戦闘行為が起こらない保証はない。自衛隊が活動場所から退避したからといって、敵勢力が追撃しない保証はないにも関わらず、一時中止、退避を想定した通りに可能とする予定調和である。

 だが、今回は別の視点から安倍晋三の党首討論の発言と、安倍晋三の発言とは異なる防衛相の中谷元と官房長官の菅義偉が挙げた安保法制に関わる事例を取り上げてみる。

 後方支援にしても集団的自衛権行使にしても、議論の殆どが“戦闘地域”か“非戦闘地域”かで行われている。

 例えば集団的自衛権行使に基づくペルシャ湾の機雷除去に関して次のように発言した。

 安倍晋三「いわば機雷の除去というのはこれはいわば一般ということの外に置いてと何回も説明してきているところでございます。そこで、そこで巻き込まれるかどうか。

 もう時間がまいりましたので最後に簡潔に申し上げますと、巻き込まれるかどうか、日本の意志に反してですね、日本が戦闘活動に巻き込まれていくということは当然ないのは当たり前のことであります」

 つまり機雷除去に関しても「日本が戦闘活動に巻き込まれていくことはない」という表現で非戦闘地域を予定調和としている。例え非戦闘地域であっても後方支援活動で発言したようにそこが戦闘現場になった場合は直ちに活動を一時中止するか退避するかすることでリスク否定を予定調和とするのだろう。

 この予定調和以外に問題なのは自衛隊の活動場所を“戦闘地域”か“非戦闘地域”かといった非常に狭い領域の概念で区切った議論でなされていることである。常に“戦闘地域”であるか、“非戦闘地域”であるかを問題としている。

 戦闘地域を避けて非戦闘地域を選択するという判断自体が“戦闘地域”であるか、“非戦闘地域”であるかの狭い領域概念を前提とした議論であろう。

 非戦闘地域であっても、戦闘現場になり得るという議論にしても、“戦闘地域”であるか、“非戦闘地域”であるかの狭い領域概念を前提としている。

 但しそのような“非戦闘地域”なのか“戦闘地域”なのかの狭い領域概念を前提とした議論がその場所限定の状況であるなら問題はないが、「イスラム国」がイラクやシリアに侵略の活動範囲を広げているようにそこがときには一国内、あるいは一国を超えた広い領域概念である“軍事的危険地帯”下にある場合の“非戦闘地域”なのか“戦闘地域”なのか、狭い領域概念での議論は、“軍事的危険地帯”ということは敵勢力の軍事的影響下にあるということをも意味し、場所限定を予定調和とすることは無効化して、“非戦闘地域”と“戦闘地域”は常にいつでもどちらにも変わり得る背中合わせの流動的な危険地域と見なければならない。

 つまり自衛隊の後方支援活動にしても集団的自衛権行使にしても、“戦闘地域”か“非戦闘地域”かといった狭い領域概念を前提とした議論ではなく、一国内、あるいは一国を超えた“軍事的危険地帯”を頭に置いた広い領域概念で、“非戦闘地域”がいつでも“戦闘地域”に変わり得る常なる危険性を想定した議論が行われなければならないということである。

 北朝鮮有事に関しても同じ想定でなければならないはずだ。北朝鮮内の一地域のみを取り上げて、そこが非戦闘地域だ、戦闘地域だと議論しても不毛そのものである。

 事実そこが非戦闘地域であったとしても、北朝鮮軍による排除の力が働くことを想定しなければならない。

 広い領域概念である“軍事的危険地帯”を想定しなければならない後方支援活動であり、集団的自衛権行使であるなら、当然、自衛隊のリスクは狭い領域概念での議論よりも高めに見なければならないことになる。

 安倍晋三が党首討論で、自衛隊員の「安全が確保されている」とか「リスクとは関わりがない」とリスクを否定できるのは今後起き得ると想定した全ての事態が想定した予想通りに結果も予想通りとする予定調和に立っていることと、“戦闘地域”か“非戦闘地域”かといった狭い領域概念を前提とした議論だからである。

 防衛相の中谷元も似たような論理構造に則っている。5月22日閣議後記者会見。

 中谷元「自衛隊員はこれまでも災害派遣などで非常に厳しい任務を負ってきており、法整備による任務のリスクは従来と同様のものだ。今回、新たに任務は増えるが、リスクを軽減する措置はしっかりと規定しており、増大することはない」(NHK NEWS WEB

 “軍事的危険地帯”での危険性を想定しなければならないのに狭い領域概念である“戦闘地域”か“非戦闘地域”かまで飛び越えて、災害派遣活動と同然だと矮小化している。

 また中谷元の5月24日夜のNHK番組での発言。

 中谷「(石油が輸入できない期間が)半年以上も続くと国民生活に死活的な影響が及ぶ事態が発生する」(時事ドットコム

 記事が解説しているが、集団的自衛権を行使できる存立危機事態に該当する事例だとの認識である。

 半年も石油がストップする。つまり米政府も米軍も半年の石油ストップを許している状況を前提としていることになる。ただ単に許すはずはないから、例えばホルムズ海峡の機雷封鎖を原因とした石油半年ストップなら、半年間機雷を放置していることになる。

 しかし、《ホルムズ海峡における機雷戦の考察(第1回)》チャンネルNippon)の、〈過去の米国の対機雷戦の事例に基づく予測では、もしイランに小規模な機雷敷設キャンペーンでも許してしまえば、ホルムズ海峡を再び啓開するには1か月若しくはそれ以上を要する。〉という記述と明らかに矛盾することになる。

 矛盾するばかりか、ホルムズ海峡の機雷封鎖は集団的自衛権の行使事例として議論の対象としていることからも分かるように日本だけではなく、アメリカにしても想定事態として監視対象としているはずである。それが大規模な機雷敷設であると仮定するなら、大規模な敷設に応じて時間もかかるはずだから、監視対象としていながら、その時間内に機雷敷設の情報をキャッチもせず、機雷封鎖阻止の攻撃も行わなかったことになる。
 
 そして半年待って、集団的自衛権を行使できる存立危機事態に該当するからと自衛隊を機雷除去の活動に派遣する。米軍が自衛隊を出動させるために機雷封鎖阻止の攻撃も行わず、敵勢力に機雷を敷設するに任せたとしか考えることができない。

 この議論を矛盾しているとするなら、中谷の議論自体が矛盾しているとしなければならない。

 菅義偉が5月25日の記者会見で、他国領域での武力行使の例として他国によるミサイル発射を防ぐための敵基地攻撃もあり得るとの認識を示したと、「TOKYO Web」が伝えている。

 菅義偉「他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地を叩くことは法律的には自衛の範囲に含まれ、可能だ」

 この発言は敵基地攻撃によって全てのミサイル発射装置を破壊できることを予定調和としている。いわば一発の報復のためのミサイル攻撃も想定しない予定調和である。

 あるいは一箇所か複数の敵基地を攻撃、破壊して、目的を達したからと攻撃を中止して、攻撃側に何事も起こらないことを予定調和としている。

 果して可能な予定調和だろうか。

 もし一発でも報復のミサイル攻撃を想定しているなら、新しい安保法制によって日本が戦争に巻き込まれる危険姓が減るとか、巻き込まれることはないといった議論は事実に反することになる。

 例え報復のミサイルを受けることがなかったとしても、敵基地攻撃は戦争を仕掛けることになることを最悪の危機管理としなければならないはずだ。

 安倍晋三の党首討論の発言とも矛盾する。

 安倍晋三「一般に海外派兵は認められていないという考え方。これは今回の政府の見解の中でも維持されているということであります。つまり外国の領土に上陸していって、戦闘行為を行うことを目的に武力行使を行うということはありませんし、あるいは大規模な空爆を共に行うなどのことはないということは、はっきりと申し上げておきたい、このように思います。

 再三申し上げますが、議論をしているときに後ろの方でどんどんヤジをするのは、もうやめて貰いたいと思いますよ」――

 安倍晋三はヤジを批判することで自身の答弁を正当化する術を心得ている。

 敵基地攻撃は「外国の領土に上陸していって、戦闘行為を行う」方法を取るか、自国ミサイルか戦闘機によって「大規模な空爆」という方法を取るか、あるいは両方を併用するか、いずれかであろう。

 安倍晋三が党首討論で否定したことを菅義偉は記者会見で肯定する。

 想定される自衛隊の活動範囲を狭い領域概念で把え、リスクはないとする予定調和で議論を完結させようとするこの支離滅裂な安保法制が国民に押し付けられようとしている。それも国民の生命、自由、幸福追求の権利を守るためだと言う。

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