2015年5月3日のNHK「日曜討論 憲法記念日特集!安全保障法制を問う」
島田アナ「長妻さん指摘がありました、アメリカの議会で安倍総理の演説の中で、この安全保障の法案を夏までに成立させると明言をしました。
この発言は国民を軽視している、撤回すべきだというご意見ですが、自民党高村さん、どうですか」
高村正彦「こういうことをしたいと思っていることを是非したいと、強い意志を示したんです。何の問題もないことと私は思います。
私自身、3月にアメリカに行って、シンクタンクで講演したとき、質問に答えてですね、いつ頃安保法制できるんだ?
私は8月の上旬ぐらいには成立することを期待していると、こういうことを言いました。私はちょっと安倍総理よりは軟弱ですから、ちょっとそれに付け加えてですね、野党の方は2、3カ月必要だと言っておりますと言いましたけども、安倍さんははっきり自分の意志をダンと(示した)。
何の問題もない。そういうふうに思います」
長妻民主党代表代行「これは法律がまだ中身が決まっていなくて、閣議決定もされていないわけで、しかも特別委員会の設置も決まっていなくて、国会の会議の延長も決まってなくて、まあ、それは越権行為なんですね。国会のルールから言うと。
そういう発言をしかもですよ、国内でなくて、アメリカの議会の中でやるという約束をして、これはもう約束になるわけなんで、国会の審議なんて、もう形骸化するじゃないんですか」
高村正彦「何でそうなるんです」
長妻民主党代表代行「強行採決になるんじゃないですか」
高村正彦「何で強行採決になるんです」
長妻民主党代表代行「きちんと時間を取らないで、お尻を区切ってやるというのを宣言しているのと等しいのですよ、これ。よく考えてください」
高村正彦「立法府は立法府としての――」
二人が同時に言い合い、聞き取ることができない。
高村正彦「立法府は立法府としての形式でやればいいんですよ」
島田アナが、「ハイ」と引き止めに入る。
高村正彦「立法府は縛られるわけではない」
島田アナ「ハイ、お二人ともここでストップしてください。国会の入り口、今後の審議の入り口でも、絶対かかってくることになると思いますんで、国会、その場でですね、ご議論頂きたいと思います」
安倍晋三は4月29日の米議会演説で次のように約束した。
安倍晋三「日本はいま、安保法制の充実に取り組んでいます。実現のあかつき、日本は、危機の程度に応じ、切れ目のない対応が、はるかによくできるようになります。
この法整備によって、自衛隊と米軍の協力関係は強化され、日米同盟は、より一層堅固になります。それは地域の平和のため、確かな抑止力をもたらすでしょう。
戦後、初めての大改革です。この夏までに、成就させます」――
この発言に対して番組で長妻議員が批判したように野党は反発した。この野党の反発に安倍晋三は訪米中のロスアンゼルスで発言している。
安倍晋三「3回の(国政)選挙で安保法制の成立を明確に言い、大きな勝利を挙げた。国民に公約をしている。この国会で(成立を図るのは)当然で、そのために努力をしていく」(毎日jp)
2013年参院選「自民党参議院選挙公約2013」にも、2014年衆院選の「自民党重点政策2014」にも、「集団的自衛権」という言葉は一言も入っていない。議論や遊説で口にはしているが、メインの争点はあくまでも「アベノミクスを問う」と、経済政策に置いていたのであり、集団的自衛権の行使や憲法9条改正をメインの争点に置いていたわけではない。
いわば経済政策を前面に出して、安保問題は争点隠しして選挙を戦って勝利を果たした。
それが証拠に集団的自衛権行使容認を含む安全保障関連法案の今国会成立に2015年3月毎日新聞社世論調査は反対52%・賛成34%、4月10~13日実施の時事通信社世論調査は、安全保障関連法案を「今国会で成立させるべきだ」14.1%、「今国会にこだわらず、時間をかけて議論すべきだ」63.6%、「廃案にすべきだ」14.6%、4月第3週末に行ったFNN世論調査では安全保障関連法案の今国会成立に「反対」49.5%、「賛成」36.2%となっていて、これらの国民の意思は安倍晋三が「3回の(国政)選挙で安保法制の成立を明確に言い、大きな勝利を挙げた」と言っている状況を素直に反映してはいない。
にも関わらず「3回の(国政)選挙で」民意を得たとする巧妙なすり替えはこのこと自体民主主義の手続きに明らかに反するが、安倍晋三に米議会で「この夏までに」の成就を約束させたのは衆参両院の与党絶対多数の議席の力を前提としているからこそであって、成就の可能性がいくら高く、それが限りなく絶対に近くても、多数勢力の議席の力を以てしても、国民や野党の強硬な反対によって今国会成立断念や次国会への持ち越し、あるいは最悪廃案ということもあり得る以上、こういった事態が独裁政治ではなく、民主政治の証明でもあるのだから、何事も民主主義の制約下にあることを自らに厳しく律して、民主主義の手続きに則ることから外れてはならないはずだ。
だが、国家の今後の安全保障体制を決める重要な法案であるにも関わらず、与党にしろ野党にしろ、国民を代表している国会議員の十分な時間を取った議論の行く末に委ねて、その結果を得るという民主主義の手続きを取る以前に米国議会で成立を約束した。
つまり安倍晋三は民主主義の手続きよりも自身の意志を先に持ってきたことになる。
そして高村正彦にしても、安倍晋三の約束を「こういうことをしたいと思っていることを是非したいと、強い意志を示した」と言い、「安倍さんははっきり自分の意志をダンと」示したものだとすることによって民主主義の手続きよりも安倍晋三が意志を先に持ってきたことをよしとした。
当然、長妻議員が指摘したように、例え民主主義の体裁を取ったとしても、安倍晋三の意志優先を受けた法案成立優先となって、議会多数の力を以って審議打ち切り・強行採決となる可能性が非常に高くなるが、それ以前の問題として、民主主義の手続きよりも一国の首相の意志優先というのは民主主義の制約を無視する行為であって、自民党副総裁高村正彦は5月3日のNHK「日曜討論」で安倍晋三が米国議会で見せた自身の意志を優先させる独裁者の姿に同調したのである。