NHK会長の籾井勝人がまたまた話題の人となった。私用ハイヤー代の立て替え問題でNHK経営委員長から注意を受けている4月28日の委員会議事録が5月15日公表され、籾井勝人が「納得できない」、「何が問題なのか」と抵抗し続けたとマスコミが伝えていたから、具体的にどう抵抗したのか知ろうとして議事録にアクセスしてみた。
ハイヤー代金に関係する個所のみを拾ってみる。
《日本放送協会第1236回経営委員会議事録》(2015年4月28日分・2015年5月15日公表)
籾井勝人「次に、ハイヤーの私用、いわゆるプライベートの使用にかかわる再発防止策について、ご報告いたします。
私用に使いましたハイヤーの代金が、他のハイヤー利用代金と区別せずに経理処理された問題について、同様の事案が起きないよう、再発防止策をまとめました。具体的な内容について、今井理事から報告いたします」
今井理事「秘書室の手違いによりまして、私用によるハイヤー代金が業務用のハイヤー代金と区別されずに経理処理されてしまったという問題につき、皆さまに多大なご迷惑をおかけいたしましたことはまことに遺憾でございまして、改めておわびを申し上げます。
この件では、3月19日の監査委員会の報告書で、会長のハイヤー・タクシー利用のあり方を検討する必要がある、あるいはまた、秘書室の対応がずさんであったなどといった指摘がございました。
また、同日付の経営委員会からも、関係者が改めてコンプライアンス意識を徹底し、協会が再発防止策を着実に遂行していくことを求めていくとの見解が示されたところでございます。
これらの指摘、見解を受けて、秘書室において再発防止策の検討を推し進めていましたが、このたび、秘書室長指示による内規として、新たに役員のハイヤーの適正使用に関する準則をまとめ、本日から適用いたしましたので、その内容についてご報告をいたします。
まず第1に、役員のハイヤー使用に関する管理責任者を秘書室長が指定し、その責任の所在をはっきりしました。これまでもハイヤーの利用につきましては内規にのっとって車券管理の責任者が置かれておりますが、役員の職務の広範性、あるいは秘書室の事務の特性等を踏まえると、公私の別を明確に判断するということも秘書室の重要な仕事であると考えられますので、単に車券の管理ということだけではなく、役員のハイヤー使用に関する広い責任を有する管理責任者を指定することとしたものです。既に本日付で管理職を1名、この管理責任者に指定しております。
次に、役員がハイヤーを私用に用いた場合に、誤って業務利用の場合と取り扱いが紛れてしまうことのないようにする措置を講じました。無論、役員が自分でハイヤー会社に配車を頼めば、その種の紛れはないわけですが、先ほど申し上げましたように、秘書の職務ということに照らして考えますと、秘書に配車を頼むということもあり得るという前提に立ち、仮にそのような場合であっても、これを受けた職員は、あらかじめ料金がハイヤー会社からその役員に直接請求されるように手配すること、そのことを先ほどのハイヤー使用に関する管理責任者にも必ず報告して情報を共有するというルールとしました。
3番目としましては、もとよりNHKにおける業務用ハイヤーの利用は、役員、職員を問わず、当然のことでありますが、業務上必要な場合に限られています。その運用そのものは、国民に疑念を持たれることのないように、その管理責任者においては、厳正にこれを管理していくということを確認的に規程の中で定めております。
これらの措置により、今回のような事案が再び発生することがないように、万全を期してまいることとしております。
一方、もう一つ指摘を受けていたタクシーにつきましては、検討の結果、現行の仕組み上、本人が私用に使ったものが誤って業務利用のものと紛れるというおそれはないものと判断をいたしました」
役員という高い地位を構えるにはその役職にふさわしい高い見識を備えていて初めてその資格を得る。その役職にふさわしい見識を備えていないにも関わらず役員という高い地位を与えるというのは、その組織にとっては悲劇的矛盾を見せることになる。
役員=高い見識という関係から見て、当然、ハイヤーを利用する場合、公用目的か私用目的か自分で判断して自分で処理すべき問題でありながら、「役員のハイヤー使用に関する広い責任を有する管理責任者」なる職務をわざわざ新しく設けて、役員たちのハイヤー使用を管理させる。あるいは監視させる。
そこにNHK経営委員会のムダを感じない非合理そのものの見識を見ないわけにはいかない。
いわば役員でありながら、それぞれの見識に頼る自律的規制ではなく、管理・監視を必要とする他律的規制に頼る。役員として備えているべき見識は何のためにあるのだろう。
次にNHK「クローズアップ現代」のやらせ報道について短い報告があった後、再びハイヤー問題が取り上げられる。
籾井勝人「次に、ハイヤーの私用にかかわる秘書室への対応につきまして、監査委員会の報告の指摘などを受けて、本日、秘書室の担当職員に対して訓告や厳重注意を行いました。福井専務理事から報告いたします」
福井専務理事「今回の問題で、秘書室の不適切な対応によりまして、公私混同の誤解を招いたことは極めて遺憾であると考えております。この事態を重く受けとめ、本日、私から秘書室長に対しまして訓告、それから、秘書室の専任部長と副部長に厳重注意を言い渡しました。
秘書室全体の責任者である室長を一段重く訓告として、ハイヤーの手配や事務処理にかかわった管理職職員を厳重注意として、今後、再発防止策の徹底に努めるよう強く要請をしております。
秘書室を監督している立場にある堂元副会長につきましては、経営委員会終了後、会長から厳重注意を行う予定としております」
浜田委員長「今のハイヤーの私的利用にかかわる再発防止策の報告に関連して、私から執行部に対して申し上げます。
この問題をめぐっては、経営委員会として3月19日に協会に対し、コンプライアンスの徹底と再発防止策を着実に遂行していくことを求めました。本日この報告を受け、今後はこの防止策が協会全体のものとして実行されるよう取り組んでいただくとともに、協会の財源はそのほとんどが視聴者からいただく受信料であるという認識を再確認していただきたいと思います。
本日のハイヤーの私的利用にかかわる再発防止策の報告を受け、経営委員会としては、会長が自身の支払いが終了していないことについて適宜注意を喚起し、必要に応じて適切な指示を怠った責任を認め、厳重注意といたします」
籾井勝人「それは経営委員会から私に対する注意ですか」
浜田委員長「そうです」
籾井勝人「そうですか」
籾井勝人は一旦は引き下がる。
今年2015年3月19日公表のNHK監査委員会の「会長のハイヤーの私的利用をめぐる経理処理事案に関する報告」に書いてあるとおりに籾井勝人が当初からハイヤー代金は自分で負担する意向であったと説明していたことが事実であるなら、つまりハイヤーの利用は私用目的の使用であることを終始認識していたなら、自分の方から「まだ請求が来ていない」とか、「いつ支払わえばいいのか」等、秘書室に聞くだけの見識を見せなければならないはずだが、何もせずに放置していたというのはそのような見識を持ち合わせていなかったことになる。
その責任は重いはずで、「以後気をつけます」等謝罪するところを、その注意を「厳重注意」という形で受けながら、「それは経営委員会から私に対する注意ですか」と改めて聞かなければならない見識は果してNHK会長という高い地位にふさわしい見識と言うことができるのだろうか。
他の計画報告や議決報告等があった後、籾井勝人が「厳重注意」を蒸し返す
籾井勝人「先ほど、私に対する厳重注意と経営委員長コメントがありました。その中で私の言動とありましたが、具体的にはどういうことをおっしゃっているのでしょうか」
浜田委員長「具体的には、部門会での話やハイヤー問題での話です」
籾井勝人「部門会については、3か年計画の説明をするために行きましたが、昨年の問題を出されたため、約束が違うということであのような形でスタートしたわけです。部門会の問題については、問題になるとは思っていません。あの時、民主党への批判もありました。ハイヤー問題については、監査委員報告を経営委員会は『了』とされています。ですから、ここであらためて私が厳重注意を受けるいわれはないと思います」
浜田委員長「それは、ああいう事態に至ったことの結果責任です」
籾井勝人「ああいう事態に至った、とはどういうことですか」
浜田委員長「テレビで、一日中、報道されたわけです」
籾井勝人「しかし、あれはNHKを傷つけたとは思っていません」
浜田委員長「いろいろな判断があると思います」
籾井勝人「ハイヤー問題については、経営委員会が私に厳重注意とは、納得できませんね。これは、監査委員の報告で、委員会が『了』とされていますから、われわれの中では終っているはずですよ」
浜田委員長「それは、もう全然違います」
籾井勝人「では、『了』とはなんですか」
浜田委員長「監査委員会の報告を了解したわけです」
籾井勝人「どこに私に責任があると書いてありますか」
浜田委員長「では、監査委員会報告書を読み上げます。『さらに会長も、私用目的で協会が手配したハイヤーを利用する場合には自身の支払いが終了していないことについて、適宜、注意喚起し、必要に応じ適切な指示を出すべきであったと思われる』」
籾井勝人「それは、私も国会でも言っていますよ。しかし、会長がハイヤーの請求書が来たかどうかなど、民間会社では確認はしないと思います」
浜田委員長「NHKは民間ではなく、高い公金意識が求められる特殊法人であるので大きな違いがあるわけです。ちょっと問題があると思います」
籾井勝人「ハイヤーの問題は、なにが問題なのですか」
森下委員「結局は、私用であれば私用とはっきりとやっておかなければいけない」
籾井勝人「国会でも、経営委員会でも、何度も申し上げましたが、私は12月26日に、これは私用だからハイヤーを使うと言っているわけです」
森下委員「したら、その支払いの時に確認しないといけないですよね」
籾井勝人「それは請求がくると思っていましたから。それについては、私はもう少し気をつかえばよかったと国会でも申し上げているのです」
森下委員「会長としては、会長の立場で、結果責任をとらないわけにはいかないです」
浜田委員長「会長に対する厳重注意は経営委員会の総意です。これ以上は、議論はいたしません」
籾井勝人「わかりました」――
最後には浜田委員長が埒が明かないと思って議論打ち切りを宣告、籾井勝人は不平タラタラだったに違いないが、引き下がった。
籾井勝人のハイヤー問題がテレビや新聞に取り上げられたことによって籾井勝人のNHK会長としての資質が問われたにも関わらず、「NHKを傷つけたとは思っていません」と言って済ますことのできる。
監査委員会の報告書を経営委員会が不備のない内容として「了」としたことを以って籾井勝人は全て終わったこととし、「ハイヤー問題については、経営委員会が私に厳重注意とは、納得できませんね」と不服申立てをする。
自己負担の意向であったとしていることを事実としているなら、支払いに関して自分の方から確認するだけの見識を見せなければならない問題を、「会長がハイヤーの請求書が来たかどうかなど、民間会社では確認はしないと思います」と自身の所属を弁えずに民間会社の慣例を持ち出して、浜田会長からNHKは民間ではないと注意を受けなければならない。
自身の所属を厳格に弁えていない、その程度の見識に過ぎないことだけでも問題だが、民間会社の慣例を自分に責任はないとする正当理由に持ち出した見識も問題である。
どの見識を取っても、NHK会長という高い地位が備えていなければならない見識からは程遠いものとなっている。
前にブログに書いたが、今年3月19日公表のNHK監査委員会報告書はハイヤー手配について、〈平成26年12月26日に、会長から秘書室に対し、「1月2日に小平市内のゴルフ場に行くため車の手配を頼みたい」旨の要請があった。秘書室は、ゴルフは私用目的であることから、公用目的で利用される「会長車」ではなく、ハイヤーの利用を会長に提案し、会長もこれを了承した。〉と記している。
つまり籾井勝人は最初から会長車でゴルフ場に乗り付けるつもりでいた。この時点では公私の区別をつけずに公私混同していた。籾井勝人が当初からハイヤー代金は自分で負担する意向であったとしたのは問題となってからの後付けの意向に過ぎないことになる。
だが、秘書室から私用目的だからと注意を受けて、ハイヤーに変更した。
問題は秘書室自体が単に公私混同を表面上避けるためにNHKが専用に利用しているタクシー会社のハイヤーの利用に変更したのか、厳格に公私の区別をつけるためにそうしたのかである。
籾井勝人はNHK会長に就任して以来ずっと問題の人となっている。あるいは悪い意味での時の人となっていた。会長車で私的な娯楽であるゴルフをするために目的のゴルフ場に乗り付けて、マスコミにキャッチされたなら、公私混同で益々問題の人、時の人に祭り上げられることになることは秘書室も予測できたはずだ。
秘書室がそのことを避けることだけを考えて会長車からハイヤーに変更したとしたら、前者の変更となって、ハイヤー代金はNHK持ちとしていたことになり、後者の変更であるなら、籾井勝人個人支払いとしていたことになる。
上記報告書は、籾井勝人使用の事後記載となった「ハイヤー乗車票の起票」について次のように記している。
〈年始休暇が終わった(2015年)1月6日頃に、ハイヤー配車担当者から秘書室に対し、本件ハイヤー代金の精算方法について照会があった。
秘書室職員は、これを受けて1月13日にハイヤー乗車票に使用日時等を記入し、ハイヤー配車担当者に提出した。ハイヤー乗車票は通常、業務目的での利用に際し起票されるものであるが、業務内容として「外部対応業務」と記されているなど、本件ハイヤー乗車票には私用であることを識別し得る記載はなかった。また、本来使用者である会長が自署すべき使用者欄には秘書室職員が会長の氏名を記名して提出した。〉――
〈本件ハイヤー乗車票には私用であることを識別し得る記載はなかった。〉としていることは、秘書室自体が単に公私混同を表面上避けるためにNHKが専用に利用しているタクシー会社のハイヤーの利用に変更したとすることによって、つまりハイヤー代金はNHK持ちとしていたとすることによって、両者は手続き的な整合性を得る。
つまり籾井勝人はハイヤー代金はNHK持ちだと思っていたから、念頭には支払いについての考えは何もなかった。だから、自分の方から「まだ請求が来ていない」とか、「いつ支払わえばいいのか」等、秘書室に聞くことはなかった。
だが、問題となり、監査委員会が調査を開始したために公私混同の批判を避けるために最初から自分で払う意向でいたと偽ることにした。そして秘書室も籾井の公私混同に加担した責任を避けるために籾井の偽りに乗った。
籾井勝人は自分が偽ったなどと思ってもいないのだろう。あくまでも最初から公私の別を弁えていて、このことが事実なら、会長車の手配を秘書室に依頼するはずもないのだが、ハイヤー代金は自分で負担する意向であったとすることによって、批判の多いNHK会長としての資質、そしてその地位が備えていなければならない見識をに些かも欠けていないとすることができる。
だから、籾井勝人のNHK会長としての資質や見識が問われることになる浜田委員長の「厳重注意」が承服し難かった。
但し自分に責任はないとするためにNHK会長として相応しくない見識を逆に見せてしまった。責任回避の抵抗すれば抵抗する程にNHK会長としての資質は遠のいていく感がする。どう転んだとしても、NHK会長にはふさわしくない人物である。