北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】フランスM-51実験,アメリカLRHW長距離極超音速兵器と中国ABMミッドコース弾道弾迎撃実験

2023-05-30 20:21:44 | 先端軍事テクノロジー
■■■防衛フォーラム■■■
 今回はSLBM潜水艦発射弾道弾や極超音速兵器とミサイル防衛など戦略兵器関連の話題です。

フランス海軍は戦略ミサイル原潜ル・テリブルからM-51潜水艦発射弾道弾の発射実験に成功しました。フランスのセバスチャンレコルニュ国防相はM-51の実験について、発射は4月19日、オーディエルヌ湾から実施され、北大西洋上の目標海域に正確に着弾したとのこと。海岸線から遠く、今回は実験弾頭であり核爆発を伴うものではありません。

 ル・テリブルはル・トリオンファン級戦略ミサイル原潜の4番艦として2010年に竣工、フランス海軍が装備する戦略ミサイル原潜4隻のうち最新となっています。そしてル・トリオンファン級は元々M-45潜水艦発射弾道弾を搭載、これは100kt核弾頭6発を内蔵する多核弾頭式ミサイルですが射程が6000㎞でしかなく、北京や平壌まで大西洋から届きません。

 M-51潜水艦発射弾道弾は2010年に開発され、ル・トリオンファン級戦略ミサイル原潜に順次M-45を置き換えるミサイルとして搭載回収を進めています。射程は10000㎞でフランス近海から北京にも平壌にも届きます。M-51そのものは2010年にル・テリブルへ搭載されていますが、今回発射されたのは改良型、ミサイル防衛を突破する能力向上型です。

 アメリカ陸軍はマルチドメインタスクフォースへLRHW長距離極超音速兵器システムの部隊配備を開始しました。MDTFマルチドメインタスクフォース部隊となったのは第3砲兵連隊第5大隊で、部隊配備とともに実働訓練サンダーストライクが実施されワシントン州ルイスマッコード基地からフロリダ州ケープカナベラルまでの展開などを演練しました。

 LRHW長距離極超音速兵器システムは共通極超音速滑空体として開発されたアメリカ軍の新時代装備であり、従来の中距離核戦力全廃条約下では中国やロシアの技術開発にミサイルギャップが生じていたことから、条約を脱退し開発を開始したもの、最大速力はマッハ12に達し、マッハ8の極超音速で一定時間を滑空、防空システムを突破し目標を叩く。

 ロッキードマーティン社が開発を担当しており、射程は2775km以上、今回配備されたのは車両により2連装発射装置が牽引され、発射時に垂直にたてて射撃するものですが、共通極超音速滑空体の名の通り、海軍のミサイル駆逐艦や攻撃型原子力潜水艦などからも運用を想定しています。なお、現在開発されているものは通常弾頭型のみとなっています。

 中国人民解放軍はABMミッドコース弾道弾迎撃実験に成功しました、これは4月16日に実施されたもので、弾道ミサイル実験としては通算七度目となります。中国人民解放軍は2010年に最初の弾道ミサイル迎撃実験を実施しており、2013年と2014年及び若干間が開いて2018年と2021年、最近では昨年2022年にも弾道弾迎撃実験を実施しています。

 ミッドコース弾道弾迎撃は大陸間弾道弾や潜水艦発射弾道弾など水爆弾頭を搭載した弾道ミサイルに対して、着弾直前の最終段階での迎撃には失敗時の大きなリスクがあり、多層ミサイル防衛としてミッドコース弾道弾迎撃は実施されるものです。ただ、ミッドコース弾道弾迎撃には中間地域での迎撃が必要で、中国本土で実施できるものではありません。

 中国政府は今回のミッドコース弾道弾迎撃実験について、防衛的なものでどの国を対象としたものでもない、としています。ただ、例えばアメリカ本土からのICBMをミッドコース弾道弾迎撃するには、ロシア東部で迎撃しなければ中国東北部に配置したのでは間に合わない可能性があります。この点について中国国防省はなにも発表していないのです。

 アメリカ海軍はHIIハンティントンインガルスインダストリーズ社との間でコロンビア級戦略ミサイル原潜建造下請けに関する5億6760万ドルの契約を結びました。コロンビア級戦略ミサイル原潜はジェネラルダイナミクス社が建造していますが、ブロック工法により建造される船体モジュールの一部をHII社が下請けにより建造することを意味する。

 オハイオ級戦略ミサイル原潜、長らく海軍の第二撃核抑止力を担った戦略ミサイル原潜も老朽化が進み、コロンビア級戦略ミサイル原潜はその後継艦です、そして現在コロンビア級原潜として現在建造されているのは一番艦コロンビアと二番艦ウィスコンシン、このうちHII社はビルド1と呼ばれる最初の区画のモジュール建造を担当するようです。

 コロンビア級戦略ミサイル原潜は水中排水量20810t、これはオハイオ級戦略ミサイル原潜の18750tよりも大型化しています、他方トライデントD5潜水艦発射弾道弾24発を搭載したオハイオ級に対して、コロンビア級はトライデントD5を16発搭載するのみ、一方で炉心交換が42年間不要の新型原子炉を採用する等新機軸を有する潜水艦となりました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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北朝鮮人工衛星打ち上げ期間発表-東シナ海と太平洋上へ危険海域,浜田防衛大臣-落下時備え破壊措置命令発令

2023-05-30 07:00:47 | 国際・政治
■臨時情報-ミサイル防衛
 危惧されたG7広島サミットの期間は、ゼレンスキー大統領訪日と併せ今撃てば世界の敵、という一種の圧力が功を奏したのかもしれませんが結局発射そのものを抑止させることはできないもよう。

 北朝鮮は5月31日から6月11日の期間に人工衛星の発射を行うと発表、日本政府にも通知があったと発表がありました。人工衛星の発射は過去にも二度実施されており、このうち一度は東北地方上空を通過し、深刻な脅威と認識されることとなりました。また沖縄上空を飛翔する経路が過去に発表され、自衛隊が沖縄救援隊を派遣する事となりました。

 我が国政府の対応として、岸田総理は関係省庁に対し、情報の収集分析に万全を期し国民に適切に情報提供を行うこと、国連安保理決議に違反するものだとしてアメリカや韓国などの関係国と連携し北朝鮮が発射を行わないよう強く自制を求めること、不測の事態に備え万全の態勢を取ること、などを指示し、万一の国土への落下に警戒を強めています。
■危険海域の概要
 国連安保理決議により北朝鮮は核兵器運搬手段となるミサイル開発を禁止されており、過去に長距離弾道弾実験を人工衛星打ち上げと称し強行したように今回も認められるものではありません。

 北朝鮮の通知によれば、落下物の危険があるとされたのは北朝鮮の南西側の黄海上の2カ所とフィリピンの東側の太平洋上の1カ所、北西部のトンチャンリ発射施設から南方400kmから490kmの黄海上、同じく630kmから720kmの黄海上、それに距離を隔てて2760kmから3180kmのフィリピン沖の太平洋上で、切り離しタンクなど落下するもよう。

 北朝鮮の通知海域三か所、いずれもわが国EEZ排他的経済水域の域外が視程されています。これを受け海上保安庁は航路警報を発令し、当該海域への船舶航行を避けるよう警告しています。もちろん、飛翔体はその上空を一直線に進むこととなります。発射された場合には落下想定地域へJアラートなどを通じて警戒情報が発表されることとなるでしょう。
■破壊措置命令発令
 この種の報道とともにホークミサイル後継となる新地対空ミサイルには弾道弾迎撃能力と充分な射程の付与という必要性を痛感する。

 浜田防衛大臣は29日、落下物などが予想される場合には撃墜する破壊措置命令を自衛隊へ発令しました。既に北朝鮮の人工衛星打ち上げ方針が示された段階で防衛省は南西航空方面隊や西部航空方面隊へ準備を命令、迎撃ミサイルの配備されていない陸上自衛隊の与那国駐屯地や石垣駐屯地、航空自衛隊の宮古島分屯基地へミサイルを派遣しています。

 イージス艦も洋上に展開しており、地上に落下被害が想定される場合にはペトリオットミサイルPAC-3やスタンダードSM-3により迎撃が行われる事となります。北朝鮮ミサイルによる日本国土への着弾被害はまだありませんが、繰り返されるミサイル実験によりミサイルの一部が日本へ漂着する、テレビカメラに映るなど年々深刻度が増しています。

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