北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】F-35最新情報-ポーランド向け初号機とチェコ軍の導入検討,AN/ASQ-239電子戦システム

2023-05-15 20:08:18 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 今回はF-35最新情報を纏めました。

 ポーランド空軍が導入する最初のF-35戦闘機がロッキードマーティン社により組み立てが開始されました。これはジョージア州マリエッタのロッキードマーティン社F-35中央組立ラインにおいて開始されたもので、組み立てが開始された4月13日、ポーランドのモラヴィエツキ首相が工場を視察、組立てが開始されているF-35の工員を激励しました。

 CWA中央胴体部分が今回組立が開始された部分であり、胴体部分の25%に当たる部分となっています。F-35は第五世代、決して安価な戦闘機ではありませんが、2022年のロシア軍ウクライナ侵攻を受け、飛び地であるカリーニングラードやバルト海沿岸のサンクトペテルブルグからロシア軍の圧力を受けるポーランドはF-35導入を決意しています。

 F-35戦闘機、ポーランド軍が導入するのはTR-3世代機でありblock4と呼ばれるもの、最初の機体納入は2024年にも開始される見通しで、アメリカでの機種転換などを終えて2026年にフラスク基地へ配備開始が予定、2030年までに納入を完了する計画です。ポーランドは冷戦時代のMiG-29に代えF-16を導入しましたが、更に防衛力を強化する方針です。

 チェコ国防省は次期戦闘機としてアメリカ製F-35戦闘機を検討中です。この動きに関連して4月3日から四日間にわたりチェコ国防省代表団がアメリカを訪問、ワシントンDCとテキサス州フォートワースのロッキード社などを訪問しました。ただ、チェコの経済規模は大きくはなく、F-35を導入した場合の運用について課題が山積しているもよう。

 チェコ空軍の戦闘機は14機、スウェーデン製JAS-39グリペン戦闘機を運用し支援戦闘機としてL-159高等練習機16機を軽戦闘機として運用中、この編成の背景には冷戦後のチェコスロバキアのチェコとスロバキアへの分割があり、両国は保有するMiG-29戦闘機を半分に分割し装備したことで運用が煩雑となり稼働率が著しく低下した事情があります。

 F-35戦闘機の導入をチェコが検討し始めたのはロシア軍ウクライナ侵攻を受けた2022年7月といい、しかし導入規模の大きさからすべてを有償軍事供与に頼るのではなく、一部でもチェコの軍需産業が生産に参画し国内雇用につなげたい方針です。計画では次期戦闘機は2023年10月までに機種選定を行うといい、様々な方式が検討されているもようです。

 イスラエル空軍はF-35をレッドフラッグ多国間演習へ初参加させました。レッドフラッグ多国間演習はアメリカ空軍が主催する最大規模の空軍演習であり、いわゆる空戦訓練や射撃訓練に留まらず、時々刻々と変化する状況想定に基づき参加各国が作戦を組み立て、各国が派遣した航空機と各国の法体系や交戦規則に基づき実働的な訓練をおこなうもの。

 アメリカ空軍のUSAFWC空軍戦争センターが主催し、仮設的部隊として第57航空団第414戦闘訓練飛行隊が参加、ネリス空軍基地で数か月おきに、またアラスカ州のアイエルソン空軍基地を年に四回実施しており、アメリカ空軍やNATOの同盟国はもちろん、北欧や中東諸国やインド、そしてシンガポールに韓国空軍、航空自衛隊も参加しています。

 レッドフラッグ23-2訓練はネリス空軍基地において実施されました。様々な想定と突発事態への対応能力を演練する視点からイスラエル空軍は1978年のレッドフラッグへ空軍部隊を参加させています。しかしF-35戦闘機を参加させるのは今回が初めてであり、一方イスラエル空軍は既にF-35を実戦に投入、こうした背景でも今回の参加は注目されました。

 イギリスのBAEシステムズ社はF-35戦闘機block4のAN/ASQ-239電子戦システムに関して4億9100万ドルの契約を結びました。今回の契約はAN/ASQ-239そのものの開発契約で、第17ロットからのF-35戦闘機に標準搭載されるとともに、既に製造されている1200機のF-35戦闘機へAN/ASQ-239も順次搭載されてゆく方針となっています。

 AN/ASQ-239電子戦システムは機材そのものとともにソフトウェアアップデートによる能力向上を重視しており、これにより確認した新しい電子的脅威にも即座に能力向上を行うことが可能であり、近年増大する超長距離地対空ミサイルなどからの防護、及び電子戦状況下での目標識別とF-35の生存性確保及び任務達成の両立を念頭として開発される。

 BAEシステムズ社はアメリカのニューハンプシャー州マンチェスターとニューハンプシャー州ナシュアに生産施設を有しています。AN/ASQ-239電子戦システムはBAE社が将来電子戦システムとして開発したStorm EW分散型戦闘装備体系の技術が応用されており、この技術はBAE社が日本やイタリアと開発する戦闘機にも好影響を及ぼすでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ロシア軍久々のカリブルミサイル使用とウクライナ軍キンジャール極超音速兵器迎撃の背景,バフムトの状況

2023-05-15 07:00:48 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 本日も朝の話題はウクライナ情勢の最新情報です、ロシア軍はカリブル巡航ミサイルを日本のミサイル艇程度の艦艇に搭載している事で知られます。

 ロシア黒海艦隊の動向についてイギリス国防省によれば5月8日から9日にかけカリブル巡航ミサイルによる対地攻撃を実施したと発表しました。今回使用されたのは8発で、最近低調となっているロシア海軍による巡航ミサイル攻撃となっています。過去二カ月間でカリブル巡航ミサイルによる攻撃は一度のみ、そして8日の攻撃が二回目となりました。

 カリブル巡航ミサイルはウクライナ戦争開戦直後はかなりの数が発射されていますが、過去二カ月間は低調となり、弾薬備蓄が尽きたのか射程3000km級の艦対地巡航ミサイルを将来のNATOとの対立に備えて温存しているかが注目されていましたが、少数でも継続的に使用されている事から泥縄式に生産分を発射する、備蓄不足が原因なのかもしれません。
■ペトリオット実戦運用
 日本の防衛という視点から考えた場合は極超音速ミサイルの迎撃が技術的にどの程度の難易度なのかという命題ですが、今回貴重な実戦事例がありました。

 キンジャール極超音速ミサイルのウクライナ迎撃、アメリカ国防総省関係者からの情報を報じたCNN報道によればペトリオットミサイルによるキンジャールミサイル迎撃成功はキンジャールミサイルの標的が供与されたばかりのペトリオットミサイルシステムであり、ペトリオットミサイルからの電波情報を逆探知し攻撃を加えた可能性が高いとのこと。

 ペトリオットミサイルを運用するウクライナ軍防空砲兵部隊は、自らに対して接近するキンジャールミサイルへ複数のペトリオットミサイルを発射し命中させた、これによりキンジャールミサイルは目標へ命中せず撃墜判定となった分析があるようです。キンジャールは残存数が徐々に限られている装備ですが、ペトリオットを最優先目標としたのでしょう。
■バフムト近郊の異変
 バフムト近郊でのロシア軍後退はロシア国防省も認めたところですが実はかなり重要な地形で緊要地形を明け渡した構図のようです。

 バフムト近郊から撤退したロシア軍部隊はイギリス国防省分析によれば新設のロシア大3軍団に所属する第72自動車化狙撃旅団であるとのこと。第72自動車化狙撃旅団は装備が限定していた状況でバフムト南方地域を防衛しており、撤退計画に基づかない潰走に近い後退であったため、ウクライナ軍は短期間で1kmに渡り領土を奪還したとのことです。

 第72自動車化狙撃旅団後退の戦況全般に与える影響は、地形障害であるドネツクドンバス運河というウェットギャップの西岸地域での撤退となった為、ウクライナ東部戦線において更なる渡河による領土奪還の可能性を示した事となります。ただ、ウクライナ軍春季攻勢の攻撃軸はこの時点でも秘匿されており、主攻か助攻かの分析は慎重であるべきです。

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