北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

NATOはウクライナを如何に迎え入れるか【2】欧州は次のウクライナ戦争を看過しない事を視野にいれている

2023-05-25 20:21:59 | 国際・政治
■NATO加盟の厳しい壁
 NATOの統合運用は日米同盟の自衛隊とアメリカ軍とでは比較にならない程に深いものです、故にNATOへ加盟するには指揮系統の共通化など深いものを含む。

 集団安全保障機構であるNATO,この北大西洋条約機構という枠組みは高度に各国軍隊を統合運用しており、いわゆる陸海空軍の統合運用という限られた領域ではなく、各国軍がNATOの欧州連合軍最高司令部へ軍事力を供出する枠組みを前提としています、つまり有事の際の指揮権はNATOが各国軍を指揮するため、各国政府の関与は制限されるのだ。

 日米同盟と比較しますと、例えば日本の護衛艦艦長にアメリカ海軍の中佐が補職されることはありません、もちろん陸上自衛隊の一佐がアメリカ海兵隊のMEU海兵遠征群を指揮することもありませんし、有事の際には共同運用を行うといっても、せいぜい一つの作戦に分担して自衛隊とアメリカ軍が参加する程度、物資融通さえ近年まで制限されていました。

 橋本内閣時代の日米新ガイドラインにおいて漸く燃料などの消耗品の相互融通が可能となりましたが、小銃弾や野砲弾こそ自衛隊がNATO規格を採用しているために日米の相互互換性はあるのですが、例えばミサイルは対戦車ミサイルや地対艦ミサイルに地対空ミサイルで日米は全く別の装備を運用しているため、弾薬の相互融通はまったくできません。

 指揮系統などは第二次安倍政権時代に漸く集団的自衛権行使、つまり一つの目標に対して日米が協調作戦を行う指針に目処が立った段階なのですから、指揮の統一というものは全くできず、中隊長が戦死した場合に同盟国の将校が引き継ぐような方式などは全く想定外、そもそも英語力の問題があります。が、NATOはそこまで踏み込んで統合されている。

 ウクライナがNATOに加盟した場合、ウクライナ軍は平時にはウクライナ政府の所掌となりますが、独自の軍事作戦を行うには大きな制約が加わります。例えば、仮に今の戦争が停戦した際クリミア半島がロシア占領下のままの場合、ウクライナは現時点では独自に奪還の軍事行動を行う選択肢はある、しかしNATOに加盟した場合はそうはいかない。

 ストルテンベルク事務総長の発言、NATO外相会談ののちの発言には、ウクライナ戦争が停戦した後に、ロシアからもウクライナからも戦闘が再燃することを避けるために、ロシアに対し抑止力を行使する必要があるのと同等に、ウクライナ独自の軍事行動を起こさせたくない、とした視点もあるのかもしれない。悪い表現だが瓶と蓋の理論ともいえます。

 トルコだって独自にクルド自治区へ越境攻撃を何度も行っているではないか。こうした反論はあるかもしれません、1996年のイラク侵攻を契機に、トルコ政府はテロ組織に指定しているクルド労働者党が、トルコ国内でのテロ行為を実施した場合に度々越境攻撃を実施しています、それも空爆だけではなく戦車を含む地上部隊侵攻なども実施しています。

 越境攻撃の可能性は残るのではないか。こう問われますとウクライナNATO加盟を将来進めた場合に、それが戦争再燃を回避する切り札にはならないのではないかとの指摘もあるかもしれません。ただ、トルコの越境攻撃は北大西洋条約第五条に基づくものではなくNATOの支援は受けられません、この定義を含むならば実例となるものは幾つかある。

 サーバル作戦、2013年にはマリ政府が武装勢力騒乱状態を自国政府では鎮静化できないためにフランス政府へ救援を要請し、サーバル作戦が実施されました。これには有志連合の形で各国がC-17輸送機提供など支援を行いましたは北大西洋条約第五条発動はありませんでした。いや2000年にシエラレオネに対し実施したイギリスのパリサー作戦も同じ。

 指揮系統を一体化する場合、クリミア奪還などの軍事行動には相応の兵站準備が必要となり、隠し通せるものではありません、すると戦争再燃を避けることが欧州各国の目的となるならば、NATO加盟という選択肢は一定の抑止効果もあります。もちろん、今回の戦闘が継続する最中でウクライナ軍が独自の戦力でクリミアを奪還できた場合は別の話です。

 ロシアの反発は、ものすごいこととなるでしょう。ただ不思議なことにロシア政府はストルテンベルク事務総長の4月5日発言に対して目立った反論をしていません、いや中国政府の台湾問題のように一つ一つ事細かに発言しないためなのかもしれませんが。それともやはりロシア政府はウクライナ戦争に対して何らかの必勝の信念があるためなのか、と。

 農業国であり産油国でもあるロシアの強みは、この戦争が五年十年続いたとしても戦い続けられる可能性があることです。時に現在は地球温暖化の時代であり、寒冷期と異なり食料生産に余裕があります、歴史上温暖な時期の戦争は十年単位で長続きすることが多い。戦争の出口戦略というものはいつの時代も難しいものだと再認識されられる命題でしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ情勢-NATOのF16戦闘機ウクライナ操縦士転換訓練開始と自衛隊車両100両ウクライナ供与

2023-05-25 07:00:10 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 F-16戦闘機のウクライナへの供与がいよいよ家艇に伴い操縦士の機種転換訓練が始まる。

 NATOはウクライナ空軍操縦士へのF-16戦闘機機種転換教育を開始します。ポーランドなどがすでに準備中とのことで、イギリスやオランダが訓練支援にあたるとのこと。G7広島サミットにおいても議題となったウクライナ軍へのF-16戦闘機供与が漸くアメリカの協力を得る事となり、ポーランドは自国のMiG-29からF-16への転換教育を応用し支援する。

F-16戦闘機は、NATOではオランダ空軍とデンマーク空軍がF-35戦闘機導入により約50機が退役し余剰機となっています。アメリカはこれまでF-16戦闘機供与へ消極的でしたが、AMRAAMやHARMなどのミサイルを既に供与し、無理矢理ではあるもMiG-29から運用していました。これらミサイルはF-16に最適化されており、戦況を変え得る一手でしょう。
■ロシアシュトルム航空団
 ロシア軍は漸く空軍力の投入に踏み切るようです、いままでこの現代戦における必須の要素を果たしてこなかった背景には練度不足があったもよう。

 ロシア航空宇宙軍はウクライナ作戦専門航空団“シュトルム”を編成する、イギリス国防省22日戦況解析により明らかにされました。これはロシア空軍がこのウクライナ戦争において実施してこなかった空軍力による近接航空支援や地上目標攻撃に当る専従部隊とされ、ウクライナ上空の厳しい戦場において地上目標を識別し、攻撃する選抜部隊という。

 シュトルム航空団は、Su-34戦闘爆撃機とSu-24戦闘爆撃機から成る混成飛行隊と機種不明の攻撃ヘリコプター飛行隊から成る2個飛行隊編成とのことで、既存飛行隊では移動する目標の識別や友軍と敵軍の区別が出来ないために、地上目標攻撃が難しい事から、出来高払いによる臨時ボーナスを提示し、選抜要員と共に退官した操縦士をも募るとのこと。
■自衛隊車両100両供与
 日本のウクライナ支援が僅かに前進しました。

 日本政府はウクライナ政府へ非装甲の自衛隊車両100両を供与することとなりました。高機動車、小型トラック、資材運搬車などが供与されます。自衛隊は毎年高機動車だけで400両程度新規取得しており、耐用年数を超えた車両は用途廃止されています。用途廃止車輛でも数年程度は充分実用に耐えるもので、これらを廃棄せずに供与するのでしょう。

 高機動車は装甲防御力こそありませんが、トヨタ製で加速性や不整地踏破能力や登攀力の高さと整備性から高速道路を利用した1000kmの機動展開から演習場での軌道性能まで普通科部隊では幅広く配備され支持されている車輛です。小型トラックは所謂パジェロ、やはり防弾装甲などはありませんが、連絡車やミサイル輸送などに活用されている装備です。

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