北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

T-38は何故墜落したのか?【1】同盟と防衛-アメリカでなぜ航空自衛隊が操縦士を教育し養成していたのか

2023-05-11 20:11:43 | 国際・政治
■モンゴメリー墜落事故
 ご遺族が居られます事故ですので気分を害されるかもしれませんが、他意はありません、ただ何故日本でも教育できる戦闘機要員をアメリカで要請していたのかという素朴な疑問がありました。

 2021年2月19日現地時間1640時頃、アメリカアラバマ州のモンゴメリー空港付近において着陸機動中であったミシシッピ州コロンバス基地の第14飛行教育団に所属するT-38C練習機が墜落、二年間の予定で留学中であった航空自衛隊浜松基地航空教育集団学生操縦士の一等空尉とアメリカ空軍の教官である空軍中尉が死亡する事故が発生しました。

 アメリカ国防総省は、2021年2月19日に発生した航空自衛官T-38墜落殉職事故を受け、二年間にわたり、英語教育の観点からその責任の有無について検証を進めています。航空自衛隊とアメリカ空軍の事故調査委員会は既に事故発生から約半年後の2021年10月に事故原因を、学生の操縦に対し教官の異常発生遅れが主原因、という見解を示しています。

 モンゴメリー空港へ着陸機動中、教官は旋回中に進路の修正とともに速度を適正速度まで減速を支持、この指示を受け学生操縦士はエンジン出力を最小限に下げることで減速しつつ軌道修正を行います、これが、修正機動とエンジン出力低下により急激な高度低下、そしてこの高度低下にて降下速度が増大した際にも学生操縦士は減速指示を堅持しました。

 教官操縦士は、学生操縦士の操作でエンジン出力を長時間にわたり最低出力としたことで加速しているのではなく失速し墜落状態という危険な状況であることに気づかず、練習機を安全な状況、エンジン推力を最大として着陸をやり直すなどの措置を執る指示が遅れ、一方、学生操縦士はエンジン出力よりも着陸への軌道修正に注意力を集中させていた。

 長時間の最低推力による飛行と、軌道修正操作が重なり、体勢を立て直すことができず、滑走路端600mの地面に衝突した、とのことです。ただ、アメリカ空軍ではこの事故を二年間にわたり追跡調査し、アメリカ空軍が同盟国友好国外国人士官に対して行う英語教育に不十分な点があるのではないか、という視点から事故の深層原因を探ろうとしています。

 米国留学課程。航空自衛隊の戦闘機搭乗員を要請する二つの課程のうちの一つです。航空自衛隊で戦闘機を飛ばすためには、と一般的に説明されるのが、航空学生か幹部候補生学校に入校することで航空学生は高校卒業後にそのまま航空自衛隊へ入隊し101週間の課程、幹部候補生学校は防衛大学校を卒業し入入校するか一般大学から試験に合格し入校する。

 アメリカか日本かという選択はもう少し先で、その前に豊富北基地で飛行準備課程の教育を12週間から31週間、この期間の違いは航空学生として既に教育を受けているか幹部候補生出身か、というところで変わるようですが、そしていよいよ飛行機ののるのはT-7による操縦課程で22週間、このT-7による教育課程は全員共通、日本で行われます。

 T-7練習機による教育課程の次の段階で、米国留学課程か国内での課程かに分かれるという。日本では芦屋基地と浜松基地で行われるT-4による操縦課程が54週間、米国留学課程ではT-6練習機とT-38練習機による操縦課程が52週間で、この課程を修了してはじめてウイングマーク、操縦士徽章が授与されます。ただ、戦闘機に乗るためにはもう少し。

 ウイングマーク授与のあとでも日本では浜松基地においてT-4練習機による戦闘機運用を想定した訓練を8週間、米国留学課程でもT-38練習機により8週間の訓練が行われるのですが。米国留学課程は毎年、戦闘機要員では1名乃至2名が選抜されて送られています。少ない、と思われるかもしれませんがこのほか輸送機と救難からも同数が選抜される。

 アメリカでなぜ航空自衛隊が操縦士を教育し養成するのか、練習機が不足しているのか、それとも亜音速のT-4練習機では戦闘機操縦士が養成できずT-2練習機のような機体が必要だとしてT-38練習機を装備するアメリカに留学したのか、素朴な疑問がありましたが、派遣している人数が戦闘機要員で1名か2名、規模を見ますと練習機の数は考えられない。

 レッドフラッグアラスカやコープノース演習、米国留学課程による訓練が行われるのは、日米同盟強化の一環として、アメリカ空軍における訓練を行った操縦士を一定数確保しておく、という目的があるようです。実際、米国留学課程出身の操縦士は、人数は全体に占める比率では多くはありませんが、日米演習では主幹要員として参加するとのこと。

 ただ、事故調査について、アメリカ空軍の検証を見ますと、語学の問題と、そして遠回しではありますが、アメリカに留学生を派遣する国がアメリカ空軍の制度の違いと自国での教育訓練の連環体制を重視せず内部化しようとすることで、意思疎通の崩壊のようなものがある、とも強調しています。調査報告では特に、語学の問題が指摘されていました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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バフムト攻防戦-文字通りの死守任務完遂とウクライナ軍春季攻勢,都市を陥落させない意義とは

2023-05-11 07:01:44 | 防衛・安全保障
■臨時情報-ウクライナ情勢
 一昔は”無防備マン”という話題がありまして降参すれば助かる、という。確かにそうです”全財産””人権””平和的生存権”を全て捨てれば助かるのですがそれは幸せなのでしょうか。

 ウクライナ軍はバフムト近郊において反撃を開始し、一定程度前進を果たしました。これがいわゆる春季攻勢の緒戦であるのか、またはロシアが特別重要視するバフムトへの逆包囲作戦、かつてソ連が行った天王星作戦のような、作戦の前哨戦であるのか、若しくはマリウポリなどの重要地域への攻撃への陽動作戦であるのかは未知数です。しかし。

 しかし確かなことは三月中に陥落が懸念されていたバフムト攻防戦に事実上ウクライナ軍は耐えきった、という事です。そして今回、非常に考えさせられたのは、“都市と森林は兵を呑む”、つまり市街戦を開始した場合は膨大な兵力が必要となるために避けるべきだという原則を破り、ウクライナ軍はバフムト防衛に拘りロシア軍に出血を強要したこと。

 都市はいつでも奪還できるため無血開城させる、例えば完全に包囲せず一方向をあえて手薄としたうえで残る三方から圧迫し市外へ退去を強要する両翼包囲などの手法が基本と考えられたのですが、今回ウクライナ軍はなぜこうした手法を用いなかったのでしょうか。それは推測ですが、キエフの北、ブチャ虐殺事件などが尾を引いていると考えます。

 ロシア軍は占領地を徹底的に破壊して見せしめとする、この戦訓は言い換えれば市街戦を避けたとしても、その避ける最大の目的である市街地に被害をおよぼさせない、という大前提がロシア軍の実際の破壊行為により破綻しているわけで、ウクライナ軍がバフムトをひいてもバフムトは破壊され、25㎞先クラマトルスクでも同じことが起こる、という。

 現代軍隊のやることではないと思うのですが、都市破壊による見せしめ、日本の防衛について考え直さねばならないことが増えました。ロシアが北海道や本州日本海側へ着上陸した場合、降参すればよいという論調が国内には確かにあります。もちろん住民は家財も何もかも持てるものは全て諦めて手荷物一つ以外断念するならば、一つの手でしょうが。

 ロシア軍の破壊行為は補償されません、いやロシア軍が1945年の日独のような状況になるまで敗北した場合には、戦後賠償の議論は出てくるのかもしれませんが、ウクライナ軍はロシアを領土外に追い出すことは考えていても、ロシア本土を併合する意図はありません。撤退すれば都市は破壊される、日本の防衛についてまた、頭痛の種が増えたようです。

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