北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新年防衛論集二〇二四【8】パワープロジェクションシップの必要性とFFM多機能護衛艦拡大改良型

2024-01-06 20:00:41 | 北大路機関特別企画
■本土防衛と国民保護
 国民は本土に居るという昭和型の、いや昭和でもそういった訳では無かったのですが一種の考え方として定着した認識から防衛を切替えねばなりません。

 両用作戦能力と潜水艦作戦能力をどのように展開すべきか。おおすみ型輸送艦は一番艦おおすみ竣工が1998年であり艦齢を考えますとそろそろ後継艦というものを具体化せねばなりません。しかしそれ以上に掃海隊群の掃海母艦うらが型2隻も古く、やはり後継艦という計画が必要になる時代です。そして掃海隊群は転換期だ。

 掃海隊群の最大の変革は、もがみ型護衛艦配備により掃海方式が水上戦闘艦を基点として行うオーガニック方式へ転換したことですが、おおすみ型輸送艦を所管する輸送隊の隷下編入という現在の変革の前にもう既に大きな変革、掃海任務に両用作戦能力の統合という、両用作戦に必要な指揮機能の統合が行われたばかりなのです。

 FFMからFFGへ、もがみ型護衛艦について驚いたのは海上自衛隊部内の一部に武装が不十分という声が挙がっていることを側聞した点です。掃海艇の後継という部分をふまえれば20mm機関砲とせいぜい鮫よけ散弾銃が武装であった時代と比較しますと充分であるようにみえたのですが、はつゆき型護衛艦後継には不十分だという。

 はつゆき型護衛艦、満載排水量4000t少々の護衛艦に予備弾つきのアスロックとハープーンにシースパローを搭載し哨戒ヘリコプターも搭載、駆逐艦初雪を含めた特型駆逐艦も驚くほどの重武装といえる護衛艦でしたから、考えてみれば基準排水量2900tとFFMは3900t、もっと重武装、という声は確かにあり得るのでしょうか。

 もがみ型は22隻が量産される計画で、当初から全て同型艦となるのではなくバッチ1とバッチ2に改良されるとはいわれていました、そして2022年防衛力整備計画により護衛艦隊以外の護衛艦枠が24隻まで拡充していますが、どうもFFG多機能護衛艦からFFH防空フリゲイトへ、基準排水量で言えば4800tに拡大され重武装化する。

 えのしま型掃海艇建造は継続され、ひらど型掃海艦の増強も行われるのですが、今後自衛隊の掃海能力方向性をどう展開させるのかについて、議論があるという。具体的には、オーガニック方式が現実的なのか、という急速な掃海任務方式変更による課題というものです。掃海艇は護衛艦とは別枠で確保すべきではないか、と。

 パワープロジェクションというものを日本全体で考えてゆく必要がある。これは2023年という昨年一年間で邦人救出任務を二度も実施したほか、おそらく政治資金問題で機能不随となっている岸田政権でなければ安保法を適用したであろうアラビア海とインド洋における日本船舶への攻撃事案の発生、こうしたことが昨年は多かった点は記憶せねばならない。

 パワープロジェクション、戦力投射とも訳されまして実際ここではパワープロジェクションシップという単語を戦力投射艦と訳しているのですが、要するに遠隔地へパワー、自衛隊でもほかの法執行機関でも、こうしたものを展開させる能力です。輸送艦やヘリコプター搭載護衛艦、いろいろ考えられるものですが手段はどんなものでも。

 憲法の問題はどうするのか。こういう指摘はあるのでしょうけれども、まあ、なんとか解釈改憲で邦人保護や邦人救出と紛争拡大阻止を含む予防外交は対応できると考えます。もちろん、拡大阻止のなかでも中東戦争規模の有事に戦車部隊を派遣するのは議論余地があるかもしれませんが、PKO協力法でも実施できるものは多いといえる。

 新しい88艦隊、としましてF-35運用能力をもつヘリコプター搭載護衛艦を遊弋させるという選択肢も、もちろん考えられるのですが、必要ならば自衛隊を緊急展開させる様々な枠組みを構築してゆく必要があります。もちろん、いくだけならば空挺団の即応性など頼れる部隊は多いですけれども、持続的に、と考えるとそれは厳しい点もあるでしょう。

 交代要員の問題もありますし、最初の火消しとその後の監視任務などを考えますと、軽装備の普通科部隊や輸送機の増強と、現在検討されている輸送艦と補給艦の統合化したオランダ海軍が計画しカナダなども建造しているような戦力投射艦も選択肢でしょう。とにもかくにも、防衛力整備とともに防衛以外の邦人保護という新課題を突き付けられている。

 潜水艦など、もちろん日本周辺地域において従来型の専守防衛、これにはトマホーク運用能力を持つ潜水艦による余裕のない厳しい戦いも含め、想定する必要はあるのですが、同時に本土防衛とは分けて、極めて遠隔地における日本の経済活動、資源の無いわが国を維持するための努力をどう支えるか、という点に自衛隊運用は二分化を求められるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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新年防衛論集二〇二四【7】日本型DMO分散型ドクトリンの模索-プレゼンスオペレーションと新しい88艦隊

2024-01-06 14:11:44 | 北大路機関特別企画
■日本とアフリカの関係
 F-35Bの航空自衛隊配備がいよいよ開始されるという間近の防衛力強化を前に、しかし突き付けられている安全保障上の問題はこの防衛力整備さえ辛うじて間に合うのかという厳しいものです。

 新しい88艦隊、要するにヘリコプター搭載護衛艦とイージス艦に2隻の汎用護衛艦という、現在の護衛隊半分の編成を共通編成として、一つの作戦単位を分散運用できるよう整備する。この概念は、そんな人員がどこにあるのか、と海上自衛隊の現状をしる方からは反論を受けるのですが、現状体制で任務が遂行可能か、と。

 いずも、かが。現在海上自衛隊がF-35B運用能力を付与しようとしているのはこの2隻なのですが、このままでは、インド太平洋とこの2隻に任務が集中する、すると現状では一回出航したら半年近く帰れない任務航海が毎年数回と重なることになる、そんな状況で人員を集められるのか、という。過剰勤務そのものを危惧する。

 任務は増大する、しかし人員を増やせないというならばどこかに破綻が待っているわけで、任務を減らすことができない以上、人員を増やす覚悟のほうを固めなければ成りません、それは同時に前回に示したイエメン情勢を含め、自衛隊の活動領域を広げざるを得ない状況も傍らに考える必要があるのだから。そう、アフリカです。

 日本のこれからの発展を考えた場合、結局のところ人口増加の続くアフリカ地域との協力関係を強化する必要があるのですが、アフリカ開発会議、幾度も行われた会議においてアフリカ諸国首脳や産業界と官僚に民間団体の方々までもが異口同音に示すのは、日本人は何故直接アフリカに来ないのか、ということ。

 自己責任論。わたしのもっとも嫌う表現なのですが、日本のアフリカ進出を妨げているのは現行憲法とともに自己責任論があるように思うのです。自己責任論というのは、イラクにおいて発生した邦人人質事件に際して、日本国内で支持された、外務省が行くなと行っている地域への入国で事件に巻き込まれた際のもの。

 イラクの邦人人質事件は、最初の事例はニュージーランド留学中の若者が見聞を広めるため、という理由で、物見遊山というか好奇心もあったのだろうか、イラクに入国し武装勢力に拘束、そして残念な結果を迎えたというものでした。自称民間軍事会社をこさえて同様の結果になった方がいて、なぜかわたしが心配されたことも。

 アルジェリアガスプラント邦人襲撃事件、ただ上記の自己責任論に強い違和感を感じたのは、物見遊山ではなく業務のために中東アフリカ地域で職務に就いていた同胞に対しても同様の発言が向けられたことでした、これは根本から異なる議論として考えられるべきではないか。この状況は多少改善されつつも、今も続く。

 アフリカへ日本人は何故こないのか、その理由は自己責任論として危険な地域に出国した場合の命の保障がないためにほか成りません。いや、過激な平和主義者の話として、日本人として自衛隊を海外派遣させる方便につかわれないように、自分のことは自分でやるのが当然、と邦人救出への反対論があったのを覚えている。

 沖縄戦の集団自決論を21世紀に振り回すような平和主義者の論理をまじめに聞いていると、いのちより平和が大事と自決の強要を迫られそうな危機感があるのですが、この通り、日本の活力、いや存続というべきなのかもしれない、このためのアフリカ地域での活動を考える上では、この地域の邦人保護がなにより重要です。

 プレゼンスオペレーションとして新しい88艦隊の1個護衛隊を可能な範囲においてインド太平洋地域に遊弋、具体的にはインド洋とアラビア海、この海域に遊弋させる必要があります。可能であればF-35Bを搭載して、基本的にはSH-60YとV-22を搭載して。また必要面からはAH-64Eか艦載型MQ-9のような航空機も導入して。

 イージス艦は今年導入が正式契約となったトマホークミサイル運用能力付与により一定の打撃力を有することとなりますので、情勢次第によっては単独行動も可能ですし、ヘリコプター搭載護衛艦から物資のヴァートレップ輸送を受ける前提で、護衛隊を編成する護衛艦が500km程度離隔して任務に当たることも可能でしょう。

 海賊対処と邦人救出と船団護衛、ヘリコプター搭載護衛艦に陸上自衛隊の1個小隊程度の人員を便乗させることができれば合間に各国との親善訓練も可能です。これくらいの安全確保の体制が常態と出来て初めて、日本の経済活動の範囲を必要な範囲まで広げられるのではないか、こう考えますと、海上防衛力は重要です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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新年防衛論集二〇二四【6】新しい88艦隊を越えて-想定以上の緊迫化中東アフリカ地域の安全保障を睨む対応

2024-01-06 07:00:44 | 北大路機関特別企画
■DMO分散型ドクトリン
 2023年の中東アフリカ情勢激変と変化と共に波及した我が国安全保障への影響は邦人救出やタンカー攻撃など予想以上の緊迫感を齎す事となりました。

 海上防衛力について。一つの理想図は、永らく提示していますように、"新しい88艦隊"へ護衛艦隊を改編することです。現在、護衛艦隊を構成する護衛隊群は4個、この護衛隊群は2個護衛隊より成り、DDHヘリコプター搭載護衛艦を中枢とする編成の護衛隊とDDGイージス艦を中枢とする編成の護衛隊より編成されています。

 新しい88艦隊、というのは、護衛隊の編成を全て、ヘリコプター搭載護衛艦、イージス艦、汎用護衛艦2隻、以上4隻に編成統一するという提案です。ヘリコプター搭載護衛艦を要するに4隻増強すべき、という試案で、ヘリコプター搭載護衛艦は現在全通飛行甲板型、航空隊を収容できるため、護衛隊が航空隊を運用できる。

 作戦単位を増やさなければならない、我が国周辺では中国が新空母福建を建造中で最終的に航空母艦だけで4隻、更に075型強襲揚陸艦を5隻は建造するものと見られ、我が国では平時にあっては一個護衛隊群を即応体制におくほかは、重整備入渠の護衛隊群と整備明けの護衛隊群に准高練度状態へ訓練中の護衛隊群という体制だ。

 専守防衛の我が国にあって、整備間隔などを有事に対応させる主導権は相手側にあり、必然的に一つの護衛隊群だけが初動を担うことになるのです。すると、新しい88艦隊というものは、二つの海域に一定規模の部隊を展開させることが可能となり、護衛隊に航空隊を統合運用し、二つの隊で群、任務群を編成できるわけです。

 F-35B戦闘機、2024年より新田原基地へ配備が開始される予定です。これは航空自衛隊が所管することになりますが、おそらくシーレーン防衛はじめ、我が国の海上防衛には不可欠の存在となります。それは卓越した空戦性能はもちろんですが、ステルス性とEO/DASはじめ情報収集能力が総じて高く、戦域情報優位を得る決定打だ。

 ひゅうが型護衛艦、現在自衛隊は護衛艦いずも型の、いずも、かが、のみにF-35B運用能力を付与しようとしていますが、2隻では即応体制維持さえできません。一方で、空母打撃群を構成するわけではないのだから飛行隊規模の12機を搭載する必然性は必ずしもなく、故に若干小型の護衛艦ひゅうが型にも搭載を検討すべきです。

 一方、2022年のイエメン沖弾道ミサイル事案は驚かされました。護衛艦あけぼの、に向け弾道弾が発射され、命中こそしませんでしたが自衛隊初の弾道ミサイル攻撃がアフリカ沖で発生するとは。そしてこの問題は、護衛隊も分散運用されているという現実を示したことにほかなりません。ただ、現在、分散という単語は面倒ですが。

 DMO分散型海軍ドクトリン、分散という単語には現在アメリカが進める、かならずしも2000年代初頭のような空間優位を保てない状況における運用構想、その実は既に2007年頃に模索されていたものなのですけれども、そうしたDMOの概念と重ねて考えさせられるかもしれません、ただ、本項目で示している概念は少しことなる。

 中国海軍が055型防空駆逐艦の量産を一段落させたことで、054B型フリゲイトの量産を漸く軌道に載せた、この日本版の分散という概念は中国で言うところの054B型のような位置づけが必要になってきているのではないか、ということです。055型は誰でもわかる航空母艦直衛艦ですが、054Bは哨戒任務などにも対応する艦だ。

 新しい88艦隊、この構想を示した際に一つの選択肢として可能性を示したのは、既に実施されているプレゼンスオペレーション、つまり日本から遠く離れた海域でのプレゼンスを発揮するための遊弋任務です。プレゼンスオペレーションは安倍政権時代の産物ですが、この実施は菅政権と岸田政権、あのコロナ禍下でも継続した。

 プレゼンスオペレーションの枠内に、中東アフリカ地域の安全保障を睨む対応を含めるべきなのかという視点が、今後必要となりうる。いや、あけぼの弾道ミサイル攻撃事案が発生するまでは、海賊対処は機関砲と無人機があれば充分、哨戒艦が完成したならば、そちらに移管できる任務ではないかと高をくくっていたのです。

 2023年の一年間は異常な一年間であった、元首相が暗殺されロシアウクライナ戦争が勃発した2022年も異常であったし、COVID-19の2020年とアフガニスタン崩壊の2021年も相応でしたが、2023年は中東アフリカの邦人輸送だけで2回、そして今回の弾道ミサイル事案、中東アフリカ地域への注力を再認識せねばなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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