北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新年防衛論集二〇二四【3】陸上防衛のグランドデザインをどのように考えるのか-諸職種連合編成部隊と大型師団

2024-01-02 20:24:01 | 北大路機関特別企画
■グランドデザイン
 ミサイル時代への転換を進める防衛力についてですが日本はどのような"戦争"といいますか最悪の場合での"防衛"を考えてゆくべきなのかについて。

 陸上防衛のグランドデザインをどのように考えるのか。現在、陸上自衛隊は特科の時代を迎えつつある、具体的には島嶼部防衛用極超音速滑空弾大隊の創設や、地対艦ミサイル部隊の大幅な射程延伸、これにより首都圏近郊の部隊が北京さえ射程に含むこととなる、こうした意味での改編です。しかし従来型防衛力はどうあるべきか。

 陸上自衛隊が全てミサイル部隊へ転換することは考えにくいのです。実際問題、地対艦ミサイル連隊についても能力向上は示されているが普通科連隊を改編するような動きはありません。一方で、普通科連隊を主体とした基盤的防衛力は既に過去のものとなりました、動的防衛力や統合機動防衛力や多次元機動防衛力整備がこれに当たる。

 即応機動連隊や水陸機動連隊が続々と改編や新編されることとなりましたが、問題はこの機動連隊改編が将来の防衛力整備に合致しているのか、ということともに、この疑問符を陸上自衛隊自身が有しているからこそ、全ての普通科連隊を機動連隊へ改編することに踏み切れず、結果的に中途半端な防衛力となっていまいました。

 広域師団、わたしは2005年以降、連綿と自衛隊の師団を大型化し、それはもちろん師団数が減ることに直結するのですけれども、重厚な防衛力を提示してきました。ただ、近年は即応機動連隊を基点に、この広域師団を構成する基幹部隊について、即応機動連隊型の部隊が基本編成として必要であるとの持論を展開してきました。

 装甲機動旅団と航空機動旅団、この即応機動連隊型の編成を提示する前には、陸上自衛隊の編成を二つの旅団、真駒内の第11旅団型の戦車大隊をもち普通科連隊が一定程度装甲車を持つ編成に特科隊を有する編成と、相馬原の第12旅団型のヘリコプター隊を持ち、軽量だが空輸に対応した装備で揃えた普通科連隊を基幹とする。

 第11旅団型の編成と第12旅団型の編成部隊で師団を構成すべき、という持論を即応機動連隊新編までは考えていたのですが、第15即応機動連隊の新編行事に際して、続々と公道を渡り式典会場に集結する機動戦闘車と、そして先に入場を終えて長い車列を組んでいる装輪装甲車に驚かされ、諸兵科連合編成に着目するようになる。

 諸職種連合編成部隊はアメリカなどが諸兵科連合編成を定着させ、中国が追随し合成旅団という編成を採用しています。いわば、米中とあわせ世界の主流を構成しているように見えますし、考えればロシアのBTG大隊戦術群の編成も、砲兵偏重ではありますがこの諸兵科連合編成であり、世界の趨勢をなぞっているように思う。

 しかし、これがどのような経緯により構成されたのかを理解しなければ、外側の輪郭だけ模倣しても必要な能力はえられません。アメリカの諸兵科連合編成は、自己完結型の旅団、機甲旅団戦闘団とストライカー旅団戦闘団と歩兵旅団戦闘団を編成し、師団の隷下に置く編成です。この独立旅団方式は中国も模倣しました。

 重型合成旅団、中型合成旅団、軽型合成旅団、と。中国とアメリカの違いはアメリカが指揮階梯に師団を置いていますが、中国の場合は集団軍が階梯として置かれている。ただ、双方の編成は似ていますが、目的は異なります、アメリカの旅団戦闘団は師団内での部隊運用ローテーションを念頭としていました、師団ではなく。

 旅団戦闘団を自己完結型のミニ師団のように位置づける。その目的は、海外派遣の増大です。アメリカは旅団戦闘団を、特にストライカー旅団の時代には、イラクとアフガニスタンに韓国、最前線を複数抱えていました。そして、一個師団をまるまる派遣しますと、ローテーションが組めず長期的な任務が対応できません。

 第1騎兵師団をイラクに、第82空挺師団をアフガンに、第2歩兵師団を韓国に、これは一例なのですが、こう設定した場合、隷下の3個旅団戦闘団は、4ヶ月のサイクルでローテーションしますと、一周まわれば一年経つ、次の年は、第1機甲師団をイラクに、第101空挺師団をアフガンに、第3機械化歩兵師団を韓国に、と。

 中国の合成旅団編成は、その背景が謎です。一見してアメリカをまねたように思える、ドイツやフランスは必要に応じて戦闘団を組みますので機能別編成旅団を二つの巨大師団隷下においている編成です。第1機甲師団と第3機甲師団、第1装甲師団と第10装甲師団、という方式で。NATOは即座に戦闘団を組む練度がある故だ。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新年防衛論集二〇二四【2】防衛へのコストと集団安全保障-一国平和主義を具現化するにはコストが掛かる

2024-01-02 07:00:45 | 北大路機関特別企画
■現実と危機感の共有
 昭和生まれの平成育ち世代教育を受けた身としては平和憲法は何よりも大事という価値観が有る故に有事の際は憲法に殉じて本土決戦を戦う悲壮なリアリズムを培ったものでしたが、今はどうやら違うらしい。

 一国平和主義を具現化するにはコストが掛かる、パクスアメリカーナやパクスブリタニカのような覇権国による平和の希求というならば論理は通るのですが、現行憲法は覇権国へ上り詰めることを想定したものではありませんし、なにより高度経済成長時代が1973年で途切れて既に昨年で半世紀、昔の憧憬を今用いるべきではない。

 防衛力はこうした視点で、一国のみにおいて自己完結する防衛力、かつてのイギリスの二国標準主義のような、周辺国が一斉に軍事行動を起こした場合でも対応できる防衛力を整備するにはコストがかかり、そのコストは周辺国の国防拡張によりますます増大、これを国民が支払うという理解の共有ができていません。

 集団的自衛権公使の問題や防衛装備品の海外供与などの問題、憲法の視点からは限りなくグレーゾーン、と可否を示すことも少々難しく、最高裁のいうところの、民主国家で政治が決めたんだから仕方ないよね、という統治行為論で解釈を積み重ねるにしても限界がきているのではないかとおもうのですが、さて。

 集団安全保障は、一例として1949年のNATO北大西洋条約機構成立を顧みれば、これは欧州が次の大戦、東西対立を背景とした第三次世界大戦の危機に際して、安全保障の枠組みにアメリカを引き込むことを念頭とし、アメリカが第二次世界大戦前のモンロードクトリンへ回帰することを阻み、陣営に組み込んだかたち。

 モンロードクトリン、西半球は難攻不落という理念で孤立主義を進めていたため、アメリカは日本が当時アメリカ保護領であったフィリピンにでも侵攻しないかぎり第二次世界大戦についても静観、義勇兵や武器援助は行いつつ、介入を避ける方針でした。もっとも、戦艦部隊を前進させた真珠湾へ攻撃がありましたが。

 防衛へのコストというものを念頭に考えますと、まさに戦後草創期の欧州と日本が、日本の場合はまだ懸念する規模の戦争が始まっていないという前提があり、これは僥倖でもあるのですが、背景に共通性がある。ただ、国民と政治の危機感の共有という点では、始まっていないために情報の多寡、が少なくないという。

 中国の軍事力、というアメリカ国防総省議会報告が毎年中国の軍事力を詳細に分析しています。情報の多寡、といいますとこういうこと。冷戦時代にはソ連の軍事力、という議会報告がありましたが。無料公開されていましてPDF文書をダウンロードすることで閲覧できるのですが、英文ですので読む気が必要となります。

 危機感の共有、各国の調査資料を、冷戦時代は防衛庁がミリタリーバランスを邦訳して、三千円程度で書店に並べられていましたが、こう、必要な文書を邦訳する中立的な機関、ウィキペディアのような編集が自由化されていないが権威ある翻訳の機関があれば、もうすこしこうした危機感は共有できるのでしょうか。

 クライシス、を危機と訳す日本語ですがもともとクライシスという単語はギリシャ語の"切れている"というものでして、安全保障は危機にさらされると言うよりは語源をさかのぼるならば、破綻にさらされている、と訳すべきなのかもしれない。しかしその上で、切れてしまってからでは、これはもう遅いのですよね。

 ロシアウクライナ戦争を筆頭に危機管理を思い浮かべる方もいるのかもしれませんが、前述の通り、中国軍の近代化の度合いは、ソ連崩壊から軍事力を立て直せたようで立て直せていなかったロシアとは根本的に異次元で、毎週駆逐艦が沈み数ヶ月に一回は巡洋艦が多数傷つき沈むとともに毎年空母が数隻沈む状況が起き得る。

 太平洋戦争型の戦争、中国海軍にはこうした規模の、つまりかつての日本海軍、そのポテンシャルに比肩するものを既に整備していると言い得る。こうした状況に置いて、日本の憲法が国民に享受させる権利、いや表現が難しいのならば、いまの生活を続ける権利、こういうものをどう確保するのかについて考えねばなりません。

 費用は掛かるけれども一国平和主義を通すのか、この費用というのは、結果的に現行憲法は本土決戦を指していますので人命と財産をも含む、若しくはどうやるのかはさておき、過労死直前と公害無視の施策ででも経済発展を再開し遮二無二世界第二位の経済大国を目指すのか、集団安全保障か、と選択肢が並ぶのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする