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NATOはウクライナを如何に迎え入れるか【1】NATO外相会談経てストルテンベルクNATO事務総長発言

2023-05-20 20:03:14 | 国際・政治
■これが欧州の総意か?
 ゼレンスキー大統領訪日と共に広島で開催中のG7主要七カ国首脳会議がウクライナを議題としてます。

 NATOはウクライナ戦争後のウクライナ安全保障にどのようにアプローチするのか。NATOのストルテンベルク事務総長は、4月5日に行われたNATO外相会合に際し、その記者会見の場でNATO全体の立場としたうえでウクライナについて現時点での加盟申請受付については言及せず、将来的にNATOへ加盟させる可能性について示唆しました。

 ウクライナが仮に2022年の時点でNATOに加盟していた場合、ロシアのウクライナ侵攻によりNATO条約第五条が発動し、第三次世界大戦が勃発していたところでした。具体的には加盟国一国への攻撃がNATO全体への攻撃とされる条文があり、NATOは自動的に参戦します、また加盟していたならば即応戦闘群が駐留していた可能性も高いのです。

 全面戦争、特に今回の事態はフォークランド戦争やアメリカ同時多発テロのような限定戦争ではなく緒戦の段階で首都キエフを狙う全面戦争となっています。この場合、NATOの欧州連合軍最高司令部は、どの程度策源地攻撃を見込むかは別として、即応戦闘群支援にアメリカ、イギリスやフランスとドイツイタリア軍を増強展開していたのは必至でした。

 抑止力の観点からは、第三次世界大戦も辞さない厳しい姿勢で相手の侵略を抑止する、政治的選択肢から外したうえで外交交渉という選択肢を強いるという理解があるのですが、一方で相手がこれを軽視したうえで開戦となっていた場合は、戦場でロシア軍とアメリカ軍が戦闘となっていた確実な状況があり、これは現在以上に厳しい状況だったでしょう。

 ストルテンベルク事務総長の発言は、現在のロシア軍侵攻が仮にひと段落したと仮定したうえで、おそらく現在の朝鮮半島南北軍事境界線のような状況、大量の兵力が対峙する状況を予見したうえで、NATOに加盟させ、再度戦闘が再発しない状況、NATOによる抑止力を行使したい、と認識があるのかもしれません。これは欧州の立場なのかもしれない。

 欧州の立場というものは幾つかの段階に分けて考えるべきですが、一つは“ウクライナ支援疲れ”というもの。つまり“次にロシア軍が戦力を立て直してウクライナへ侵攻した際に2022年と同じ規模のウクライナ支援を行う余地がない”という認識に依拠し、今度は戦争が起きないようにNATOがロシア軍に備え強力な抑止力を提示する、というものです。

 ウクライナのNATO加盟可能性示唆、ストルテンベルク事務総長の発言は“いつまでに”という期限を区切ったものではなく、その上で“ウクライナが独立国であり民主主義国である必要”を合わせて提示しています。これはロシア占領下のウクライナが亡命政権などを樹立しても加盟申請ができないことを意味しているのでしょう。しかしそれだけなのか。

 フランスは第二次世界大戦中にドゴール亡命政権がフランスの国家継承を宣言し、連合国に参加しています。ストルテンベルク事務総長の発言は、ウクライナが今後劣勢となった場合を想定、これは東部バフムト攻防戦でさえ苦戦するロシア軍には想像が難しいのですが、頑張ってキエフ攻略に進み、この場合に亡命政権ができても加盟不能、という認識か。

 亡命政権という視点はもう少し突飛すぎるかもしれませんが、民主主義制度の定着をストルテンベルク事務総長が明示した背景にはもう一つ、現在のウクライナでは汚職の問題があり、コメディアン出身のゼレンスキー大統領も汚職撲滅を掲げしがらみのないことを理由に支持を集めている、言い換えれば現在の制度ではまだ汚職が残っている、とも。

 民主主義制度の定着、その定義に汚職対策を含めているのであれば、即座にはウクライナがNATOに加盟できない理由であり、特に現在は戦時内閣を組織し議会制を停止した体制での戦闘を行っている、戦時国家状態であることから、現在の戦闘をひと段落しロシアとの停戦交渉を妥結させたうえで国内改革を行うまで加盟申請はできない、とも受け取れる。

 モラトリアム的ではあるけれども、本音としては今の段階で介入した場合、NATOのF-35はモスクワ上空を乱舞することで一気にウクライナ戦争の方をつけることができるものの、それは全面核戦争の懸念に直結するゆえにNATOとしてはウクライナ加盟を現段階で行わせることは出来ない、その為に理由付けを行い加盟申請を実質拒否している、構図か。

 集団安全保障機構であるNATO,そしてもう一つはウクライナ政府が堅持し国民の支持を集めるクリミア奪還と東部二州占領地奪還の問題です、NATO加盟各国の懸念には仮に停戦した場合で上記地域がロシア占領下のままの場合、ウクライナがこの地域の奪還を行うことを懸念し、その為にNATOに加盟させ行動を制限させる意図があるのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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