北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

中国の中東アフリカ(ジブチ・南スーダン)進出強化とアメリカトランプ政権下の軍事空白地域

2017-08-21 21:41:00 | 国際・政治
■グローバルな視点が重要
 今回掲載する内容は先月末に紹介予定のものを諸般の事情で本日ご紹介することとなったものです。

 今月内閣改造前、沖縄県の東シナ海ガス田開発をめぐって中国側が新たに移動式の掘削船を停船させて、何らかの作業を行っていることを確認したとして抗議する姿勢を明確としました。この海域では2008年に日中政府が一方的開発を行わない合意を行いましたが、中国側は現段階、沖縄と中国の日中排他的経済水域境界線中国側に限定し開発を進めている。

 外務省は、極めて遺憾であり外交ルートを通じて直ちに抗議を行った、としています。朝鮮半島の緊張と共に忘れられがちですが、我が国安全保障上の脅威は二方面作戦を同時並行で求められています。朝鮮半島の核開発問題では中国の外交協力が不可欠ですが、その協力と並行し、我が国領域と資源への不当な圧力が加えられる事があってはなりません。

 しかし、我が国は平和憲法に依拠した専守防衛を国是とする防衛政策を採っており、中国の軍事圧力を南西諸島へ掛かるものに対して特に注視し、続いて我が国シーレーンが通る南シナ海での中国の動向に注視されがちですが、中国が現在世界で生じている幾つかの軍事的空白地域へ地域安定を目的とした進出を強化しており、グローバルな視点が重要で、視野を広げる必要があります。

 中国海洋進出ですが、中国がかねてより進めていた中東ジブチでの海外拠点建設が警備は初の恒久的な軍基地という位置づけでしたが、確認されているだけで三重態勢警備の要塞化とも呼べる状態まで拡張、基地は広さ約2万3000平方メートルの地下空間も備え、当初予想よりはるかに規模の大きな施設建設を行っていたとして、各国の注目を集めています。また、アフリカ地域では自衛隊が撤収した南スーダンPKOへ中国軍は地域安定化部隊活動開始とともに機械化部隊装備を増強しました。

 ジブチは長く、フランスの保護領でしたが、フランス軍が長く駐留していた第13准旅団を移転した後に、中国が入ったという構図でした。ジブチにはフランス軍の舞台や米軍基地があるほか、自衛隊も海賊対処任務へ航空部隊を展開させています。しかしこの新しい中国軍基地の規模はかなり大規模なものとなりそうです。一旦施設を建設する事をジブチ政府が了承しているものの、中国の中東地域における米軍を牽制できる規模の基地の建設を想定していたかは未知数です。

 一方、中東地域全般を見ますとイエメン内戦を巡るサウジアラビアとイランの対立が激しさを増しており、これに関連し、イランとの天然ガス田開発を行うカタールが中東諸国から一斉に外交関係の遮断を突き付けられ、地域安定化への大国の関与が重要度を増しています。中東ではアメリカがオバマ政権時代に撤退に転じ、トランプ政権も踏襲している。

 中東は安定化への関与を必要としています。先々月26日、スカッドミサイルがイエメンからサウジアラビアへ発射されました、930kmを飛翔しサウジ紅海沿岸のヤンブー石油関連施設へ命中したとの事で、火災が発生、当局は当初事故による火災と発表していましたがイランがイエメンへ供与した弾道ミサイルスカッドが使用されたものと考えられています、大量破壊兵器拡散防止措置が徹底されていない故の問題が一つ表面化したものと云えましょう。

 冷戦時代は勿論、ポスト冷戦期の従来のアメリカであれば、ブッシュ政権であれ、クリントン政権であれ、中東での不安定要素はアメリカを中心にその波及を阻止する努力が行われてきました。これは世界の最重要石油産出地域である中東地域の安定を主導する事で間接的に世界の経済的安定等、地域安定の地球規模の波及を回避する視点からの施策でした。

 しかし、オバマ政権時代に政権公約に長期化したイラクからの撤収とアフガニスタン派遣の完了を掲げ、更に1991年の湾岸戦争後に実施された中東地域での米軍駐留を併せて縮小した為、中東に軍事空白が生じました。米軍駐留縮小は米軍基地施設へ依存したNATO加盟国の駐留をも縮小させました。地域の不安定要素が無くなったためにという平和故の縮小ではなく内政上必要になったからという政治的な要素に基づく撤収は不安定化要素です。

 トランプ政権誕生は、オバマ政権の実績と施策へのアメリカ世論の反発を支持として大統領選に勝利した背景から一見、偉大なアメリカの復活を周辺地域への軍事的安定の付与という施策への転換を期待させるものでしたが、大統領選での施策は戦前の孤立主義への回帰を示唆するものであり、大統領就任後多少方向性は修正されつつも、例えばアメリカの環太平洋地域での影響度を高めるTPPやNAFTAからの脱退やEUとの距離感など、孤立主義的な政策としての幾つかの骨幹政策は不変です。

 中国の軍事力展開強化は、アメリカの後退を受けての地域不安定要素に強力な軍事力を前方展開させる事で、安定化を提供させる、いわば国際公共材への軍事力の提供というものですが、併せて当然自国の権益保護の強化等の施策を展開しています。アフリカ地域への進出はジブチのほか、南スーダンへの派遣強化等同時並行され、今後も継続されましょう。すると、安全保障上の懸念事項となる前に、これら地域と日本の協力関係を模索する必要が大きくなるやもしれません。

 注意したいのは、中国の軍事力は平時における地域安定という範疇では必ずしも派遣先との対立を生むものではなく、しかし、同時並行で他国領域を占領し人工島建設による海洋閉塞化を実施している同じ国が世界規模での展開を行っている事でもあり、潜在的不安要素となっている訳です。勿論安易に、地域安定化へ日本も積極的に海外派遣を、という視点を提示する訳ではありませんが、中東アフリカ地域の事情と中国の長期戦略の部分的一致が現状に反映されている、という事を理解すると、全体が分かりやすくなります。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【日曜特集】横須賀地方隊伊勢湾展示訓練2010【2】伊勢湾を往く艦隊(2010-08-21)

2017-08-20 20:02:37 | 海上自衛隊 催事
■しらね&ひゅうが伊勢湾を往く
 伊勢湾展示訓練2010、前回の出港から伊勢湾を堂々航行する様子を紹介しましょう。

 自衛艦旗と新鋭ひゅうが。:伊勢湾展示訓練2010、この年は海上自衛隊にも転換の年でした。横浜では建造が進むヘリコプター搭載護衛艦いせ公試が始まり、あきづき型護衛艦が19DDとして進水式を間近に控えていました。そしてヘリコプター搭載護衛艦はるな除籍の翌年に当たる年でした。

 ひゅうが、と伊勢湾を往くタンカー、海上交通が本当に多い海域でした。:ヘリコプター搭載護衛艦はるな除籍と共に同日、横浜にてヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが、が竣工し、海上自衛隊には全通飛行甲板型護衛艦の時代が始まります。そして、新護衛艦ひゅうが、横須賀へ配備、ヘリコプター搭載護衛艦しらね、が舞鶴へ転出しています。

 自衛艦旗と時機が合う瞬間を。:ひゅうが、しらね、揃って伊勢湾展示訓練へ参加する事となりまして、伊勢湾へは新旧ヘリコプター搭載護衛艦が洋上に揃う事となりましたが、しらね舞鶴転出後、新護衛艦いずも竣工とともにこの、ひゅうが、も後継へ舞鶴基地へ転出したのはこの五年後の話しです。

 掃海艦つしま、と護衛艦ひゅうが。:自衛艦の出港は曳船により岸壁から一定距離まで引き出した上で周辺の船舶へ干渉しない距離をとったことを確認すると同時に推進機を作動させ出港します、このあたり、側面へ移動できるフェリーや客船になれてしまいますとどうしても時間がかかるように見えます。

 ヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが、は今日でこそヘリコプター搭載護衛艦最古参ですが、当時は最新鋭、横浜で護衛艦いせ建造中でした。:出港に時間が掛かっているようですが、基本的に同じ速力で航行するだけの商船と水上戦闘艦は推進装置に相違点があるため致し方ありません、推進器を作動させる際に留意点は曳船と係留索が確実に収容されているかを確認することで、怠ると推進器にまきこみ一発です。

 しらね、遠景に掃海母艦うらが、等みえる。:出港時に係留索を引き込めば一発で航行不能となりかねません、しかし、この間は曳船が周辺に待機します、これは出港の際に推進能力を発揮できない艦艇へ不測の事態が発生した瞬間に即座に制動をかけられるよう待機しているもので、この情景入港でも御馴染み。

 真夏で洋上には薄らと靄がかっていて水平線が見えにくい。:この時点では曳船は艦艇と文字通り離れていても一体、といえるのかもしれません。ここではじめてラッパ用意の号令が出され、艦長は出港できると判断した瞬間に出港用意の命令が発令される訳です。この頃見学者は当方含めのんびり他の艦艇を撮っている最中です。

 四日市の石油化学工場背景に掃海艦つしま、がゆく。:出港用意の命令、その瞬間に出港ラッパ吹奏を信号員が命令し出港ラッパが響きわたるわけです。出港、街で暮らす我々にはこの瞬間から日常を非日常に転換します、市街地では船といえば湯船ていど、京都タワー大浴場の湯船や市役所の初音湯の湯船も素晴らしい。

 水平線上に見えるのは護衛艦しらゆき。:しかし、基本船といえば湯船ではなくお船、自衛艦の出港、出港よーいッ、この号令がスピーカーから響きわたりますと、気分も高揚します、足元が大型の護衛案でも小型の掃海艇でも中型の多用途支援艦でもしっかりと揺れて動いている、エンジンの鼓動もつたわる。

 ひゅうが、と共に水平線上に警戒船の輸送艇2号がみえる。:一番離せッ!、舷離せッ!、舷離せッ!、曳船使用終わり曳船ありがとうッ!、曳船舷離せッ!、推進器使用行うッ!、出港よーいッ、両舷推進用意ッ!、出港ーッ、甲板員作業完了ッ!、一連の流れとともに港湾の他の船舶位置に留意しつつ海へと出港するわけです。

 潜水艦の合流だ、海の忍者は突然現れる。:潮の香りが徐々に外有無に向かうとともに薄れ、しかし足元の機関鼓動は海風や期待と共に徐々高まる中で忘れかけますが、単純な出港とはいえ自衛艦の出港は”いくさぶね”としての商船との構造の違いもありまして様々な作業が同時並行して行われているようです。

 警戒船の特務艇はしだて。:伊勢湾ですが、我が国でも有数の航行船舶が多い難所です。伊勢湾沿岸には名古屋という京浜地区や京阪神地区につづく日本第三の大都市が広がるとともに四日市と松阪にかけ沿岸部は石油化学工場やコンビナートが広がり、タンカーや大型船舶に貨物船の往来が多い。

 警戒船の試験艦くりはま、今日では除籍された海上自衛隊各種装備開発の立役者はこの日も支援任務です。:海上交通量は多いのですが伊良湖水道という限られた狭水道を航行しなければなりません。制限速力は12ノットと定められていまして、海上保安庁による航路管制を受けています。そしてこの伊良湖水道には朝日礁とコズカミ礁という岩礁地帯がありますので、要注意だ

 潜水艦おやしお、おやしお型潜水艦の一番艦だ。:航路管制を受けない小型船舶の急な出現や海上交通法制を無視する遊漁船などをいち早く発見し、回避しなければ座礁や衝突という事故に繋がりかねません、岩礁のほかにも丸山出シという小島があり、狭水道と岩礁や小島、好漁場を構成し漁船の航行も多いのです。

 護衛艦しらね、舞鶴に転籍した後長くドック入りしていまして、当方が動いている様子を見たのは伊勢湾という。:この海域を通行するには愛知県と三重県の三半島と地形を確実に把握し航行することが求められます、三半島、これは渥美半島と知多半島に志摩半島です、1989年の映画”ゴジラvsビオランテ”、本海域へ自衛隊がゴジラ迎撃へ集結しますのでご記憶の方もいるでしょう。

 ひゅうが艦上にSH-60が見えまして城国はUH-60が飛行していますね。:若狭湾原子力発電所集積地域を最終確保地点として移動するゴジラへ防衛庁は伊勢湾から名古屋に上陸すると想定されたゴジラの進路にたいし、伊勢湾へ護衛艦隊を集結させ志摩知多渥美の三半島に陸上部隊を結集して一挙に撃退しようとしまして、その描写がある。

 UH-60J救難ヘリコプターの飛行です。:相模湾での観艦式の映像や富士総合火力演習での映像が流用され、富士総合火力演習へ足を運ばれた方はにやりとしてしまいそうな自衛隊描写、しかし、逆に水中聴音により艦隊動向を知ったゴジラが大阪湾に上陸され、防衛計画が破綻するという描写がありましたね。

 しらね、画像補正を強めてみました、2010年当時には現在ほどいいレンズを当方が揃えていませんでしたので、腕の問題と機材の問題を補正技術で対応してみた。:志摩半島といいますと、平成ガメラシリーズの選外、自衛隊が出なかったので逆にリアリティがないとされつつ、名古屋でのロケシーンには参加し思い出になった人も多いという“ガメラ 小さな勇者たち”でも志摩半島が舞台として出ました、展示訓練は此処で行う。

 当時はEOS-40Dに70-300mmのIS装置付ズームレンズを使用していました。:さて、志摩半島と知多半島に渥美半島ですが、志摩半島には鳥羽と石鏡灯台があり、その北方に離島神島があります、知多半島には主要な灯台ではなく羽豆岬と蒲郡沖の佐久島が陸上の特徴ある地形となります、航海を行うには様々なランドマークを叩きこむとのこと。

 ひゅうが、が単縦陣へ合流します。:煙突や特徴ある建物や寺社仏閣渥美半島は北部に立馬埼灯台がありますが加えて渥美半島太平洋側には大山三角点が陸上の目標物として航行することが出来ますので、ここから伊良湖水道の正確な位置を算出して航行します。事故防止にはこれほど見張りが重要、と。

 しらね、も単縦陣へ合流します。:GPSを使えば確実ではあるのですがGPSは有事の際に妨害を受ける可能性がありますし、なによりも海上交通量がおおいのですから民間用GPSの脆弱性、そしてなにより海上自衛官は船乗りとしての資質、地形から位置を把握して航行しなければ一人前ではありません。

 潜水案おやしお、が続く。:GPSに頼った航行というものは、外洋を航行する際には必要ですが、乗員の方に聞いてみますとGPS頼りというのは、恰も簡単な漢字を書くにも一々辞書字引を検索して一文字一文字書いているようで、スマートではない、という表現でした。なるほど、それは分かる。

 単縦陣で伊勢湾を航行する艦隊、当方乗艦の多用途支援艦えんしゅう、は後ろの方でした。:しかし、伊勢湾の入り口にあたる伊良湖水道は地図で見れば広く見えて航行が容易のように錯覚するのですが、海図をみるとすごく狭い、水道の中央部分に朝日礁とコズカミ礁と丸山出シという水深の浅い岩礁が三角に固まっていてこの中央部を通らなければならない。

 こうして伊勢湾を往く艦隊は合流し、いよいよ展示訓練の観閲式へ臨むこととなります。:海上衝突予防法という、海上での船舶同士の衝突を避けるための法整備がありまして、これは国際条約として世界中の海洋において用いられる一種の国際慣習法となっていますが、我が国には海上交通安全法というより厳しい法律があります、地域限定の法律ですが、ね。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【くらま】日本DDH物語 《第二一回》RF-86戦術偵察機の海上自衛隊配備に関する研究

2017-08-19 21:45:38 | 先端軍事テクノロジー
■ジェット戦闘機運用基盤
 戦後初の主力戦闘機として導入されたF-86セイバー戦闘機、開発国アメリカでは空母艦載機型FJ-2フューリーという派生型がありました。

 RF-86偵察機、F-86の偵察機型ですが、その導入に関する研究が過去海上自衛隊にはありました。更にこのジェット機導入計画はそのままF-4導入計画等数多の海上自衛隊航空機導入計画下の研究へと発展してゆく事となります。RF-86偵察機は航空自衛隊が主力戦闘機として運用していた昼間戦闘機の偵察型で、機首の6門の12.7mm機銃に代え偵察カメラを搭載した構造です。

 第二次防衛力整備計画時の研究の一環としてRF-86の海上自衛隊導入が模索され、概ね20機程度を導入した場合を想定し研究されたとのこと。保有していれば運用幅が広がる、という範疇のもので、RF-86は航空自衛隊も運用していましたが、当時航空自衛隊は航空偵察を陸上目標に限定しており、洋上の艦隊偵察などを想定していませんでした。この為当時の海上自衛隊はP-2V対潜哨戒機を索敵に用いる他なかったのです。

 高速の偵察機が必要である、この視点は大型のP-2Vがソ連艦隊を偵察した場合、遠距離で発見され艦対空ミサイルによる迎撃を受ける可能性があり、当時のレーダー偵察能力では艦種、例えば巡洋艦部隊か、日本本土へ上陸の脅威を及ぼす水陸両用戦部隊なのかは判別できず、写真が不可欠です。この為、高速で飛行できるRF-86の必要性へ着目したもの。

 潜水艦に対する高速偵察能力というものも重要な要素です。P-2V対潜哨戒機では潜水艦を高高度から発見した場合でも低空に降下に時間を要し、目標の潜水艦が潜航してしまいます、が、RF-86ならば、なにしろ元がジェット戦闘機ですので高速で急降下し撮影できる、という。しかしこの研究には空母艦載機戦闘機要員養成という視点は無かったでしょうか。

 海上自衛隊が航空母艦を導入するためには空母艦載機が不可欠となります。一方、海上自衛隊は創設以来多数の航空機を運用しており中には艦載機もありました。海上自衛隊草創期、アメリカ海軍の空母艦載機アベンジャー攻撃機派生型の対潜哨戒機として索敵型のTBM-3Wが10機と攻撃型のTBM-3Sの10機を受領し、1961年まで訓練用に用いました。

 S-2艦載対潜哨戒機を近海防衛用に導入すると共に同時期には海上自衛隊でもS-2対潜哨戒機を搭載可能な対潜空母の検討があったのはこれまでに紹介したとおりです。しかし、航空母艦の任務として忘れてはならないのが防空任務への戦闘機を搭載しての艦隊防空です。他方海上自衛隊には永らくジェット機の運用実績等が無く、ジェット戦闘機運用基盤や戦闘機運用能力もありません。

 ジェット機を海上自衛隊が初めて装備したのは1987年の訓練支援機U-36A導入でした。これはビジネスジェット機リアジェット35を標的曳航などにも通るべく改修したもので、標的曳航能力に加え翼端にミサイルシーカーやチャフ散布装置等を搭載し自薦的訓練が可能です。海上自衛隊は従来、P-2J対潜哨戒機派生型を訓練支援に用いてきましたが、現代海戦のミサイル攻撃などを実戦環境で再現するには高速の航空機が必要、として導入に至ったもの。

 しかし、U-36はあくまでビジネスジェットであり、その操縦特性はP-2V哨戒機のような大型航空機と変わりません。また、現在の海上自衛隊航空部隊練習機や航空教育訓練体系を見た場合でも戦闘機のような高速高機動の航空機搭乗員を練成できる機種はありません。この部分では、RF-86を導入し運用基盤を構築していたらば、次段階に進めた事でしょう。

 さて、このRF-86偵察機の研究ですが、結局実現しませんでした。その最大の理由はRF-86に洋上偵察能力が無い点です。潜水艦へ急降下し偵察という能力はある種説得力はありますが、洋上偵察のための航法装置が限られ、加えて航空自衛隊では昼間戦闘機と呼称された通り、レーダーによる全天候飛行能力も持たないRF-86の洋上運用は非現実的でした。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

平成二十九年度八月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2017.08.19/08.20)

2017-08-18 20:07:28 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 今週末も先週末に引き続き、お盆期間という事で自衛隊関連行事はありません。

 ミサイル防衛任務に当たる中四国派遣部隊とイージス艦や南西諸島警戒部隊、対領空侵犯措置任務部隊等に休みはありませんが。一方、昨日岩国航空基地にて南極観測支援任務訓練に当っていたCH-101が横転、本日東富士演習場にて富士総合火力演習準備の訓練に当っていたAH-1Sが不時着、負傷者が出ておりお盆の時期でも訓練が続く様子を垣間見ました。

 今週末の自衛隊行事無し、という週末にはゆんわりと部屋に山積された書籍を書架に戻しつつ過ごしたいものですが、最寄りの駐屯地やちょっと離れた駐屯地界隈の名所旧跡を散策してみるというのはどうでしょうか、勿論戦車や装甲車が走り回っているという状況は、ゴジラか中国軍が上陸し防衛出動でも掛からない限りありませんが、名所旧跡は多い。

 富士駐屯地へはここ9年間の毎年富士学校祭へ通っているのですが、今年初めて富士浅間神社や須走宿場街を散策する事が出来ました。富士登山信仰の登山口として歴史の長いこの街ですが、駐屯地祭に撮影へと赴くのみで完結していたものの、少し行動範囲を広げてみますと発見するものは多いのです、勿論、富士駐屯地界隈は当方からは少し遠いですが。

 阪急沿線の駐屯地として名高い千僧駐屯地や伊丹駐屯地は間近のJR伊丹駅前に有名な伊丹城/有岡城の城址公園が実質タクシー乗り場ですがありますし、中部方面隊管内最大の戦車部隊駐屯地である今津駐屯地から湖北地方を散策しますと湖上の鳥居の白鬚神社や高嶋七ヵ寺の青蓮山酒波寺はじめ寺社仏閣が数多並び趣ある歴史と出会う事が出来るでしょう。

 自衛隊関連行事、雨天が予報される際には防滴器具を充分に携行したならば、カメラを雨滴から機能を保護し、撮影を続行する事が出来ます。陸上自衛隊行事の観閲行進などは、雨天の方が迫力の増した写真を撮影出来、逆に軍事専門誌の写真を見ますと、雨天という事で迫力ある写真を全部投げて装備品展示のみの写真掲載等、やる気のない特集もあった。

 迫力ある観閲行進の写真を撮影しつつ、しかし帰路に濡れたままというのは厳しい所で、周辺の銭湯を探したくなるところですが、全くない場合はどうするか。稀にあるのはホテルの大浴場等が有料で温浴施設を開放している場合です。日帰り温泉、というような看板ではなく、十人も入れば満杯になりそうな入浴施設も有料で開放されている所があります。

 風呂の有難さというものは、どれだけ体温を失って意気消沈心身虚脱准低体温症玉砕目前、という状況だったとしても、湯に浸かれば気力回復士気高揚食欲挽回激辛注文、と気分を一新できます。最悪下着等着換えは現地コンビニや雑貨店でも買えますし、駐屯地祭ならば売店で買うという手もある。濡れた時は入浴施設を丹念に探してみるのはどうでしょう。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭


今週末の自衛隊関連行事は無し

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【京都幕間旅情】五山送り火,京都御所より如意ヶ岳は大文字送り火照らす模様を静かに眺む

2017-08-17 22:40:05 | 写真
■京都御所,如意ヶ岳の大文字
 今夏も暦の季節よりも行事で暦を思い出す風情、五山送り火が昨晩執り行われました、今夜はEOS-M3にて撮影しましたその模様をお伝えしましょう。

 八月十六日、京都五山送り火として幽玄な焔の送り火が宵の口の都を仄かに照らします。護摩の木を焚いた灯りは遠く静かに、しかし確とした光の道を夜空に届かせるのですが、送る側としても五山の送り火は季節の移ろいとして、心に残る立地から見届けたいもの。

 京都御所から、本年は五山送り火を見上げる事としました。お上が送り火を親しめるようにと如意ヶ岳に送り火を焚いたといいますので、ある意味では原点回帰といえるかもしれません。流石に清涼殿前は開放されていませんが、御所の風景と大文字を写してみました。

 如意ヶ岳の大文字を水盆に映して呑むと無病息災、と言われるところですが風情ある京都御所には如意ヶ岳の大文字しか眺める事が出来ません。昔は左大文字や妙法が眺められたとも聞くのですが、建物の高層化の影響でしょうか。しかし京都御所という立地が風情だ。

 五山送り火ですが、如意ヶ岳の大文字が象徴として名高いところですが、大文字送り火とともに、妙法、舟型、鳥居、左大文字と併せて五山の送り火です。ゆったりと見上げたいものの、護摩木を焚いた送り火ですので、お盆の送り火とおなじように照らす時間は短い。

 実は今年、何処から眺めようかといろいろ思案した結果の京都御所でした。試案というのも昨日今日の思案ではなく、丸々一年間五山を見上げる度に、さてお盆は何処から見上げようか、と辻々道々車窓に歩道に航空写真にと五山誤算合算試算と考え続けた結果です。

 洛中から望見する送り火は大文字のほうですが、洛北の北山よりもそのさらに北へ妙法と舟形が並び、鳥居は嵐山へ、大文字は銀閣寺から見上げ、左大文字は金閣寺から見上げるという立地でして、五山を一度に見上げることは神ならぬ人の身、不可能だったりします。

 京都市内からどうにか五山送り火を、穴場について考えるのですが、有名なのは船岡山、あの大徳寺や今宮神社にほどちかい織田信長を祀る社殿の丘から望見する。鳥居は見えませんが左大文字にちかく大文字を遠くながめ、妙法も遠く微かに舟形も眺める事ができる。

 北大路駅から鴨川にかけての散歩道から金閣寺までは標高差が30mちかくあり、考えてみれば船岡山に上ることで標高差は50mと大きくなりますので、高い建物にのぼり眺めるよりは、千本北大路の交差点界隈から眺めた方がみえるかもしれませんが、電線が、邪魔だ。

 嵐山も有名な場所で、嵐山そのものが有名であるとともに大堰川を少し保津峡の方へ歩みを進めるならば、渡月橋の向こう側に大文字が浮かび、そして灯籠流しの浮かぶ灯火がもう一つ幽玄な情景を醸し出します。また渡月橋から見上げる法輪寺も人に勧められました。

 灯籠の焔灯とともにすばらしいとの話ですが、年々混雑が凄く、という話を聞きますとなかなかこの数kmの先を目指すことができない。混雑ぶりは凄いと聞きますと、混雑如何は人の主観的な要素で決まるものなのですが、人口密度的には実際どの程度なのか気になる。

 京都御所から五山送り火を、と考えましたのは、実のところ京都御所は如意ヶ岳のみを見上げる立地ですのでそれ程混まないということ、次に一杯やるのに便利な立地、京都御所からよく見えるよう如意ヶ岳に大文字を描いたという歴史に浸る充実感から選んだのです。

 撮影よりも送り火を黙って見上げよう、という風情と併せ、いや実際には時間が無くて三脚を用意できなかった為ですが、手持ち撮影で送り火に低性能EOS-M3やEOS-7Dmark2高性能機種を構えますと夜空も晴れ渡り送り火の風情と共に歴史と伝統を感じられました。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新たな護衛艦企画提案契約に三菱重工案採用,建造費500億円&基準排水量3500t船体型

2017-08-16 20:05:35 | 先端軍事テクノロジー
■新たな護衛艦,20隻以上量産へ
 新たな護衛艦という海上自衛隊の将来護衛艦、かつてコンパクト護衛艦と呼称されていました新型艦、どうやら護衛艦むらさめ型に準じた規模の艦艇となるようです。

 コンパクト護衛艦、来年度予算概算要求発表が近い中、海上自衛隊の現在計画を進めている最新型の将来護衛艦の概要が徐々に形となってきました。基準排水量3900tという比較的大型の護衛艦であり、全長は130m程度、最大速力30ノット以上を発揮しガスタービンとディーゼルエンジンを併用するCODAG方式を採用、建造費を500億円程度に抑える。

 三菱重工が提案した以上の通りの案が企画提案契約において最良と判断されました。この企画提案契約とは、防衛産業各社が防衛省の“新たな護衛艦”の公募に対し提案し防衛装備庁等が実現可能性と技術的評価の視点から検証するというもので、ジャパンマリンユナイテッド、三井造船、三菱重工が提案書を提出、三菱重工提出案が最良と判断されました。

 コンパクト護衛艦はステルス船体と塔型マストを採用し、索敵装置に光学複合センサー及び多機能レーダーを搭載する他、VDS可変深度ソナーやTASS曳航パッシヴソナーに加え機雷戦ソナーを搭載すると構想で、従来の護衛艦としての戦闘に加え機雷戦能力を有し、艦尾にUUV水中無人機USV水上無人機も搭載、簡易型機雷敷設装置も装備するという。簡易型機雷敷設装置というのが凄い。

 将来護衛艦としての打撃力も強力で沿岸用小型護衛艦というよりは艦隊護衛艦の水準です。ヘリコプターを搭載する他、艦砲に62口径5インチ単装砲を搭載し、艦砲と艦橋の間に垂直発射装置VLSを配置、対艦ミサイル発射装置を上部構造物内に収容し水上打撃力を確保、水上発射管として短魚雷運用能力も有します。個艦防空能力としてSeaRAM対艦ミサイル防御装置を搭載、極めて重武装の護衛艦といえます。

 3900tという基準排水量は、大きいなあ、というのが正直な印象でしたが、装備と能力を考えれば無理をしない設計の収斂と云えましょう。アメリカ海軍の沿海域戦闘艦の1.5倍以上、小型護衛艦として建造された護衛艦あぶくま型の二倍近くあり、艦隊護衛艦として12隻が大量建造された護衛艦はつゆき型の2900tや、その拡大改良型である護衛艦あさぎり型の3500tをも上回り、恐らく満載排水量では5000tから5300tという大型水上戦闘艦となるでしょう。ただ、むらさめ型、たかなみ型等よりは小型です、横須賀基地で満載で8000t以上あるアーレイバーク級ミサイル駆逐艦や海上自衛隊の護衛艦を見慣れた目にはコンパクト、という印象ですね。

 むらさめ型護衛艦は基準排水量4400t、たかなみ型護衛艦は基準排水量4600t、あきづき型護衛艦、あさひ型護衛艦が基準排水量5000tで護衛艦は年々大型化してきました。これら最新護衛艦と比較したならばコンパクトではありますが、世界的に視た場合はかなりの大型水上艦で、中国の江凱II型が満載排水量4050t、韓国の仁川級が満載排水量3200tです。

 搭載武器は海上自衛隊の護衛艦としては、水上打撃力と対潜戦闘能力は同程度、対空戦闘能力はCIWS機関砲も2基を搭載しSeaRAMを搭載しますが、短SAM等僚艦防護が可能な射程のある艦対空ミサイルは搭載されない可能性が高く、その分はイージス艦とのデータリンクにより射程370kmというSM-6ミサイルの支援を受けるという事なのでしょう。

 無人機の運用能力を重視している点はこれまで無かった発想です。艦尾部分にUUV水中無人機と哨戒や機雷戦を支援するUSV水上無人機も搭載し、掃海艇の能力を一部補完すると共に護衛艦一隻で広範囲の警戒監視能力を付与させる発想で、島嶼部警備から海賊対処任務等も可能となります。また、格納庫は多機能空間として災害派遣にも寄与しましょう、恐らく飛行甲板の直下に洋上へスロープで接続する区画があり、水上無人機や水中無人機を降ろす事も機雷を降ろす事も出来るという構造が想像される。

 500億円で建造するという構想で、欧州の大型水上戦闘艦が軒並み800億円以上を要するのに対しコスト重視を図りました。ただ、たかなみ型護衛艦の建造費が650億円でしたので、小型化と大胆な大量発注により建造費を抑えるのでしょう。海上自衛隊は新型艦を20隻から25隻程度量産する計画で、耐用年数を越え延命する旧型艦を置き換える構想です。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鎮魂:8.15/終戦記念日,我が国戦没者三五〇万という事実を前に不戦と平和の未来を考える

2017-08-15 23:00:07 | 北大路機関特別企画
■鎮魂:8.15/終戦記念日
 本日は終戦記念日です、戦火と戦禍に倒れた世界の戦没者全ての冥福を祈りましょう。

 本日八月十五日は第二次世界大戦、太平洋戦争が終わった日です。1941年12月8日の真珠湾攻撃にて戦端を開いた我が国とアメリカの全面衝突は1937年の盧溝橋事件より続く日中戦争、アメリカと共に戦端を開いたイギリスオランダとの戦争を経て1945年8月15日、日本は連合国に対し敗戦と停戦の条件である連合国ポツダム宣言の受諾を宣言しました。

 戦死者、実に350万、太平洋戦争と日中戦争を併せればこの数字です。五年間の太平洋とアジア地域での戦闘により戦死者と文民被害を含め我が国だけで350万もの人命が失われていますが、350万という数字は途方もない数である事に気付かされるでしょう。3.11東日本大震災犠牲者でも犠牲者15893名と行方不明者2553名の合計18446名です。即ち単純計算ではありますが東日本大震災の190倍です。これほどの人命、考えさせられるという一言ではすまない。

 太平洋戦争での戦死者犠牲者の数が驚くべき点は、あの東日本大震災と同じ犠牲者が毎週一回、開戦から終戦まで継続的に生じた場合に等しい。想像力を必要とする規模の戦死者と犠牲者ですが、世界が連合国と枢軸国に分かれ文字通りの世界大戦を展開し、世界全体の死者数は更に多く、独ソ戦にて激戦を繰り広げたソ連などは2660万もの死者がでました。

 第二次世界大戦と共に人類の英知は国際連合という形での一つの国際公序の方向性を示す国際機構を諸国民諸政府の賛同と参画を以て実現し、その役割と位置づけへは国際公序と世界秩序という二つの同床異夢により紆余曲折を経つつ、少なくとも第二次世界大戦に続く第三次世界大戦の勃発だけは回避し、多々問題を抱えつつ、その世界を維持させている。

 350万という膨大な人命を喪失した我が国は、敗戦と共に連合国占領下に置かれ、その後に戦争放棄を祈念した平和憲法を制定し、憲法上の軍事力を放棄し、憲法上平和国家として今日まで繁栄を謳歌しています。ただ、昨今の国際情勢の激変、北朝鮮核開発と弾道ミサイル実験の強化や我が国南西諸島への軍事圧力の増大という情勢には不安を禁じ得ません。

 東西冷戦構造が第二次世界大戦の終戦とともに醸成され、その後の朝鮮戦争に伴う我が国への波及の危機やキューバミサイル危機に伴う全面核戦争の危機等、戦後世界史を俯瞰すれば幾つかの危惧すべき情勢が並ぶことは事実です。しかしそれを踏まえつつ、上掲の我が国周辺情勢の他、中国海洋進出、東欧ウクライナ危機等、風雲急との印象が拭えません。すると、不戦と平和の未来を考える場合、不戦はそのまま平和に直結するのかという疑問に当たるでしょう。

 不戦の誓いという表現で我が国は国家の自然権としての自衛権さえも一部自制する形で防衛政策を展開してきました。専守防衛政策はその具現化というものですが、昨今強く認識させられるのは専守防衛とは世界平和への協力を放棄し、国家の試算である軍事力をも国際協力へ投じる事を回避するという施策ですが、これでは次の戦争を回避する事は難しい。

 専守防衛という施策についても、世界中がこれを国際好悪として実行しなければ地域の軍事不均衡の要因として逆に戦争を誘発しかねません。終戦記念日という事で凄惨な沖縄戦等、国土を戦場として戦う施策の難しさを突き付けている最中、敢えて次の戦争も発生まで戦争回避の手段を制限し、しかも開戦即本土決戦として、同胞国民が暮らす国土を戦場と化すまで必要な手段を行わないという、一種平和主義が目的ではなく戦争に続くとも平和を手段としている。

 正しいと思う施策とは、難しいものです。先の大戦が全ての陣営参戦国に個々の正義を突き付け、結果拡大しましたが、同時にその戦争を経て国際公序を示す基幹として国連という機構に世界は到達しました。この国連が討議し国際公序の将来性を示す今のところ唯一の正統性と正当性を有する国際機構であり、その施策をもう少し平和国家日本が支援できる施策へ、一国平和主義から世界平和主義へ、転換しなければ次の戦争を防ぐことは難しいのではないか、と考えてしまいます。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朝鮮半島有事回避研究:台湾海峡1996ミサイル危機に学ぶグアム八月ミサイル危機の解決法

2017-08-14 20:00:14 | 国際・政治
■歴史に学ぶ戦争回避の施策
 日本海へイージス艦、中国四国地方にミサイル迎撃部隊を展開させ、我が国の迎撃態勢は可能な範囲で完了しました、これ以上は軍事力での圧力が必要であり祈るような平和的手段以外、現行憲法施政下では出来ません。

 1996年台湾海峡ミサイル危機、今回進行しているグアム八月ミサイル危機は21年前の台湾海峡における緊張以来の極東地域における緊迫した状況といえるでしょう。ただ、1996年台湾海峡ミサイル危機は、中国人民解放軍の台湾攻撃という台湾海峡有事が一歩手前まで迫った文字通りの“危機”でしたが、結果は人命が失われる事はありませんでした。

 グアム八月ミサイル危機は現在進行中の事案ですが、現在のところ北朝鮮は火星12型弾道ミサイル四発の発射宣言として検討している段階と発表し、グアム周辺へのミサイル攻撃は行われていません。そこで、今回の危機が核戦争に直結する朝鮮半島有事に発展させない選択肢を、1996年台湾海峡ミサイル危機という歴史から学びとれる点はないでしょうか。

 1996年台湾海峡ミサイル危機は、1995年7月7日に中国人民解放軍の弾道ミサイル部隊である第二砲兵が台湾海峡の台湾領澎湖諸島沖において弾道ミサイル実験を行うと、新華社通信を通じ発表した事で突発しました。背景には台湾の中華民国台北政権が国家元首たる総統を初の民主選挙により選ぶと発表、台湾独立民意が反映される事を警戒した為です。

 台湾は中華民国台北政府であり、国民党南京政府統治時代の中国において1927年に端を発した中国共産党による革命運動と鎮圧する国民党政権の国共内戦の結果、途中に日中戦争を挟み一時は共闘した国民党と共産党の内戦を経て、1955年に国民党が大陸側最後の橋頭堡たる大陳島を台湾島へ撤退し、台北へ臨時政府を移し、現在のところ維持されています。

 一つの中国、と中華人民共和国は繰り返し主張していますが、これは台湾の中華民国政府が国是として“大陸反攻”を掲げ、台湾島において兵力を再編成しいつかは中国大陸を共産主義勢力より奪還する、という立場を示している為、結果的に形而的内戦状態が継続しており、中国は一つであるとの認識を、同床異夢でありつつ、北京と台北が共有している。

 第二砲兵が台湾海峡へ弾道ミサイルを撃ち込む決定に至ったのは、当時の中華民国総統が台湾出身の李登輝氏であった為です。中華民国第二代総統蒋経国氏が病没する際、当時台北市長であった李登輝氏を次期国民党党首に指名しましたが、当時は戒厳令が長く続き民主政権への移行を果たせていません。そこで信を問おうとしたのが中国を警戒させました。

 東風15型弾道ミサイル部隊を第二砲兵は台湾海峡に面する福建省へ移動させます。民主選挙を台湾が行う場合、一つの中国を堅持するならば中国大陸でも選挙を行う必要があります。国民党は中国大陸撤退の際に大陸全土の国民戸籍書類を移動させており、北京が同意すれば不可能ではありませんが、実行したならば共産党への民主化要求に繋がりかねない。

 中華民国総統選挙は結果的に台湾島を中心として中華民国国内に限定し選挙を行うほかありませんが、これでは大陸反攻という国是を放棄し、専守防衛という事実上の台湾独立宣言に繋がりかねません。民主選挙を阻止する事を主眼として、中国国家主席江沢民氏は台湾海峡へのミサイル実験、警戒範囲設定により事実上の台湾海峡閉鎖を目指したのでした。

 江沢民主席はアメリカがこの問題へ関与しないと前提していました。アメリカは1972年のニクソン訪中に伴う米中国交正常化により台湾より米軍が撤収、1975年のヴェトナム戦争終結によりヴェトナム全域より撤退、1991年のピナトゥボ火山噴火に伴いフィリピン撤収、残るは在日米軍と朝鮮半島有事に備える在韓米軍の他はグアムまで下がっていた為です。

 1995年8月15日に第二砲兵は最初の弾道ミサイルを台湾海峡へ発射、複数を同時着弾させる飽和攻撃演習を含め多数の弾道ミサイル部隊を展開させました。1995年11月には弾道ミサイル演習に加え水陸両用部隊を含めた三軍統合演習に発展、事態を重く見た中華民国政府は領域である中国大陸沿岸部離島の住民疎開を開始、戦争の可能性が高まりました。

 アメリカのクリントン大統領は、中国人民解放軍の行動を台湾島嶼部への侵攻準備に着手したと判断、即座に予防外交を展開すると共に中国軍の軍事行動が台湾上陸へ発展する事を強い決断で阻止する方針を発表しました。弾道ミサイルにより台湾海峡上空は国際航空航路が迂回し飛行しており商船も航行の自由を阻害され、台湾海峡封鎖危機という状況だ。

 中華民国総統選挙は1996年3月23日に予定され、アメリカは中国による台湾海峡へのミサイル演習を中止するよう粘り強く呼びかけ続けましたが、中国政府は新たに3月8日より演習を実施するとして台湾北部基隆沖25マイルと台湾南部高雄沖25マイルを新たに演習海域に指定しました。クリントン大統領はこの決定で中国が一線を越えたと判断します。

 空母インディペンデンスを中心とする第5空母任務群は母港横須賀を出港し太平洋をフィリピン海へ、台湾海峡へと展開します。同時に原子力空母ニミッツを中心とする第7空母任務群も台湾海峡へ展開、2個空母航空団と巡洋艦やミサイル駆逐艦、駆逐艦やミサイルフリゲイト等数十隻の艦艇を台湾海峡へ遊弋させ、海峡封鎖を許さない姿勢を誇示しました。

 中国空軍はJ-8戦闘機等を福建省に集結させ、アメリカ艦隊への威圧を図りますが、F-14戦闘機は射程150kmのフェニックスミサイルによりJ-8戦闘機の攻撃力を遥かに上回り、J-8戦闘機は追い回される形でアメリカ空母を視認する事さえ出来ず、衛星放送のCNNやAFP通信とロイター通信配信画像によりアメリカ艦隊の陣容を把握する事しか出来ません。

 第5空母任務群と第7空母任務群が台湾海峡に遊弋している中、台湾北部基隆沖25マイルと台湾南部高雄沖25マイルへ東風15号弾道ミサイルを連続発射する事は、中国軍とアメリカ海軍の全面戦争に発展する危険性を孕みます。それで中国海軍と中国空軍が総力を挙げアメリカ空母二隻を撃沈できないか、江沢民の問いに対し軍は不可能と回答しました。

 張連忠海軍司令員は中国海軍の総力を挙げれば海軍は台湾海峡に面する南海艦隊のみならず全ての主要艦艇を失い制海権を完全に喪失し、空軍も保有する戦力は2000機以上あるが旧式機主体、千機近くの戦闘機を同時管制する能力は無いばかりでなく、空軍の半数を喪失する可能性があり、実行すれば次のアメリカとの戦闘に対応出来ない、と伝えたという。

 結果的に中国軍はミサイル演習を中止しました。圧倒的な力を誇示されては、万一の場合に取り返しがつかない為です。中華民国総統選挙は1996年3月23日に行われ、李登輝総統が当選しました。ニミッツとインディペンデンスは戦闘を行う事なく海峡を去りました。中国の李鵬首相は同年11月、モスクワを訪問し海空軍強化へロシアの協力を要請しました。

 さて、グアム八月ミサイル危機を目の前にして21年前の1996年台湾海峡ミサイル危機が戦闘に至ることなく終息した歴史を見ますと、空母展開は平和的手段とは言えぬものの、より平和的ではないミサイル演習を封じ込め、21年後の今日に至るも台湾海峡の平和と安定を継承させました。力への決断は、平和的ではないものの、戦争を回避させたようです。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グアム狙う北朝鮮火星12弾道弾,観光地グアム国際空港年間発着旅客機37000便に迫る危険

2017-08-13 20:04:39 | 防衛・安全保障
■グアム八月ミサイル危機の影響
 北朝鮮がグアムへ新型中距離弾道弾火星12型を4発発射するとの声明を発表し、グアム八月ミサイル危機が勃発し四日が経ちました。グアムは在留邦人と渡航者も多数います。

 グアムへ北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合、グアム島の邦人保護を真剣に検討しなければなりません。グアム島の在留邦人は領事館届出者で4400名、更に年間75万の邦人観光客が訪れています。日帰り旅行地ではない為、訪問者の多くが数日間滞在します。グアム島内を照準するものでは現時点で無いとの事ですが、その緊張度は確実に増すでしょう。しかし、即座の脅威として、周辺海域へミサイルを照準するという事は飛行する旅客機へ危険が及ぶ事を意味する事を忘れてはなりません。

 グアム島はマリアナ諸島にあるアメリカ準州で、太平洋戦争では日本陸軍が上陸し占領しましたが、激戦の末19000名の戦死者を出し敗北に追い込まれた後、アメリカ陸軍航空隊の一大拠点となり、サイパン島と共に日本本土への戦略爆撃拠点となりました。そして戦略航空拠点として、東西冷戦下の朝鮮戦争やヴェトナム戦争等で機能し、今日に至ります。

 アンダーセン空軍基地はグアム島の象徴的な軍事施設で、北朝鮮がグアムに照準を合わせ恫喝を行うのはこの基地への牽制が大きなものです。アンダーセン基地は3500m滑走路2本を有する飛行場施設、第36航空団が展開しています。第36航空団は9000名を以て基地管理任務に当りますが、ロシアや中国からの距離が大きく戦闘機部隊等は常駐していません。しかし、第28爆撃航空団や第7爆撃航空団、第53航空団のB-1B戦略爆撃機がローテーションで常時展開し警戒する。

 北朝鮮の火星12型ミサイル発射計画に際し、最も懸念されるのは国際航空航路へのミサイル着弾による安全性の問題と観光業への打撃です。グアムは太平洋上の離島である為、基本、旅客機でなければ行く事が出来ません。続いて水深の深いアプラ港はクルーズ船寄港地として人気です。何れにせよ火星12型ミサイルの着弾想定海域を通る必要があるのです。

 グアム国際空港は3000m級滑走路2本を有する空の玄関口で、毎年37000便の旅客機が乗り入れ発着しています。サイパン等マリアナ諸島とを結ぶ小型旅客機以外にはワイドボディの緒方旅客機も多く乗り入れていまして、24時間空港でありユナイテッド航空や日本航空、大韓航空やチャイナエアライン等の毎日100便以上が発着している計算となる。ミサイル発射情報に応じ旅客機は空中退避かサイパン国際空港や自衛隊南鳥島飛行場へ退避しなければなりません。

 南洋の楽園として国際観光の一大拠点というグアム、アメリカ準州であるグアム島、その面積は549㎢となっていまして、グアム島の面積は沖縄本島の1206㎢の半分以下、対馬の696㎢よりも狭く、瀬戸内海最大の離島である淡路島の592㎢とほぼ同じ大きさです。日本からはハワイよりも近く、治安も安定し英語圏である為、ハワイと並び人気観光地です。

 グアム島の人口は16万2000名ですが年間観光客数は150万名を越えています。離島であり人口も限られる事から工業開発等は殆ど無く、連邦政府補助金と米軍施設関連公共事業に依存するほか、独自の産業として1990年代から強化しているのが、上掲の観光業です。夏休みのお盆の時期という事で日本からグアムへ旅行に行かれる方も多い時期ですが、こうした日本からの観光需要に加え、近年は中国や韓国からの観光客が急激に増大しているところ。

 観光業への悪影響はグアムに打撃を与え、ミサイル発射に伴う長期間の航空航路影響の可能性は看過できぬ問題です。弾道ミサイル発射に伴う旅客機への影響ですが、先日の北海道沖へのミサイル着弾に際し、東京発パリ行エールフランス機旅客機がミサイル弾道の数分前を飛行していたことが判明し、民間航空航路へのミサイル脅威が強く指摘されました。

 エールフランスやKLMオランダ航空は北朝鮮周辺空域の飛行回避経路を画定、これにより国際航空航路の所要時間は概ね10分から15分の飛行時間延長を余儀なくされています。また、先日の北朝鮮ミサイル事案に際してはロフテッド軌道による長い飛行時間中、スカイマーク等国内線旅客機が長時間離陸を見合わせていた事も報じられ影響は大きいのです。紛争への巻き添えといえば、ウクライナ東部紛争で撃墜されたマレーシア航空等の悲劇を思い出すところで、こうした悲劇の危険性は看過できません。

 日本が求められるグアムミサイル危機への対応は何か、SM-3により発射直後の弾道ミサイルを北朝鮮近海から撃墜する事でも、F-2支援戦闘機により北朝鮮周辺へのJDAM誘導爆弾を搭載しての示威飛行でも、アメリカの弾道ミサイル防護に当るイージス艦への給油支援でも無いでしょう。一番日本に求められるのはグアム周辺の旅客機保護ではないか、と。

 自衛隊はグアム周辺に硫黄島航空基地と南鳥島飛行場を有しています。ミサイル警報が発令されると同時にグアム国際空港への着陸中の旅客機は着陸を中断する必要があります。火星12弾道ミサイルと、グアムに配備されているアメリカの弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイルTHAADによる迎撃の可能性が高まる為で、特にグアム近海ではなくグアムへラカする経路を採っているとレーダーにより標定判断された場合には迎撃が行われましょう。THAADは対弾道弾専用であり旅客機を五照準する可能性はありませんが、破片の危険性はあります。この為に着陸を一旦中止し退避せねばならない。

 硫黄島航空基地と南鳥島飛行場はグアムに近い飛行場です。マリアナ諸島にはグアム国際空港に加え、サイパン国際空港やテニアン国際空港、ロタ国際空港があります。しかしグアムとサイパンは200kmあり距離を感じるものの、サイパンとの弾道弾経路の重複という問題があり、これら自衛隊飛行場への旅客機大量緊急着陸の受け入れ準備が必要でしょう。

 南鳥島飛行場と硫黄島航空基地は一定の離隔距離があり、これだけ距離があれば、弾道ミサイルが再突入に失敗し、弾頭部分に併せミサイル本体部分が爆散した場合でもその破片被害から免れます。こうして安全性を確保出来る二つの飛行場は自衛隊が管理しており、これまで旅客機緊急着陸を受け入れた事例が多くあります。グアムへの旅客機の経路変更や引き返す場合には、日本本土の空港や大陸の空港施設まで器材トラブルや燃料不足等状況にて、代替飛行場として機能すると考える。

 北朝鮮のミサイル発射自粛を第一に期待したいところです。現段階ではミサイル発射命令は政権より出されておらず、北朝鮮戦略ミサイル軍が検討している事を北朝鮮メディアが繰り返し報じている段階です。発射中止は北朝鮮がアメリカの発射中止圧力に屈する構図を北朝鮮国内へ印象付ける事となりますが、発射さえ行わねば、まだ引き返す事は可能だ。

 国連経済制裁の緩和は、今回北朝鮮がグアムへのミサイル発射を宣言させた最大の要因でしょう。しかし、ミサイルでグアムを恫喝した場合でも、経済制裁解除は北朝鮮のミサイル開発と核開発を停止させなければ不可能です。そしてミサイル開発能力を誇示しアメリカより譲歩を引き出す事が開発の主眼ですが、日本海のみにミサイル発射を限定していた場合、肝心のアメリカへ圧力を掛けられない事が自明である以上、いつかはグアム方面や太平洋上へ弾道ミサイル実験を行う必要が生じる。

 経済制裁に北朝鮮が耐えきるか、ミサイル開発を停止させるか、という重要な分岐点に到達している北朝鮮ですが、此処は引き返せない。先日のミサイル実験により、北海道から弾道ミサイルの落下が見える程の近距離に落下した事で、国連加盟国大半の態度硬化を招き、現在の経済制裁は、既に引き返せないところまで到達した結果と云わざるを得ません。

 更なる経済制裁は中朝国境完全閉鎖、国境橋梁封鎖による物理的閉鎖措置ですが、現時点であれば中国政府は人道上物資搬送を含め中朝国境閉鎖へは踏み切らないでしょう。しかし、今回の経済制裁へ中国が賛同した異例の状況は北朝鮮を驚かせたことでしょうが、今回のグアムへのミサイル発射計画に対し、中国側は冷静を呼び掛けるだけで事実上の静観の姿勢を採っています。一方で、グアムへミサイルを発射したらば、グアムは前述の通り中国人観光客の渡航が多く、グアムへミサイル発射は中国の青島沖や台湾海峡方向へ発射した場合に準じて反発を招く。

 グアムは軍事基地であると同時に国際観光地です。民間航空航路へのミサイル脅威の影響という最大の要因は此処にありますが、この点は沖縄やハワイ、ニューカレドニアと同じですが、その背景には工業地や天然資源の無い離島に観光地としての空港や道路網等インフラを整備するには軍事基地という公共投資があって大きく前進するためといえます。こうした観光地、世界中の人々が散策する地域への平時のミサイル発射予告は、常軌を逸していると云わざるを得ないでしょう。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ペトリオットPAC-3部隊中国四国地方展開完了,グアム八月ミサイル危機へ破壊措置命令

2017-08-12 22:20:00 | 防衛・安全保障
■中国四国地方4駐屯地へ展開
 北朝鮮のグアムへのミサイル発射宣言に伴い、航空自衛隊が動きました、陸上自衛隊駐屯地への展開を実施したのです。

 グアムへの北朝鮮火星12型ミサイル発射宣言にともなうグアム八月ミサイル危機にたいし、自衛隊は飛行経路として北朝鮮が指定した島根県、広島県、高知県、以上に加え恐らく上空を経由するであろう愛媛県へのミサイル防衛部隊の展開を開始しました。島根県の陸上自衛隊出雲駐屯地、広島県の海田市駐屯地、愛媛県の松山駐屯地、高知県の高知駐屯地、です。

 2012年、北朝鮮が沖縄県先島諸島上空を経由しフィリピン沖へミサイル実験を行った際には、陸上自衛隊と航空自衛隊は沖縄救援隊を編成し、宮古島と石垣島、下地島へミサイル迎撃部隊と衛生部隊を派遣しました。この沖縄救援隊派遣時には、沖縄は本州から陸路で展開することができないため、海上自衛隊輸送艦の支援を受けての派遣となりました。今回は陸路で結ばれた地域への展開であった為、迅速に展開できたかたち。

 ミサイルの破片落下、可能性としてはミサイル燃料に用いられる化学化合物に有毒性があり、一部でも人口密集地域へ落下した場合は広範囲が汚染される可能性があるのです。このため、自衛隊では航空自衛隊が破片を高高度で爆砕するペトリオットミサイルPAC-3部隊を派遣し、陸上自衛隊が衛生部隊と化学防護部隊を派遣しています。PAC-3は射程が15kmから20kmと大きくなく、配置の駐屯地から場合によっては迎撃が不可能となる場合がありますが、今回配置されている自衛隊駐屯地をみてみましょう。

 海田市駐屯地は中国地方と山陰地方を防衛警備管区とする第13旅団の司令部が置かれている駐屯地で、広島市中心部まで9km、原爆ドームを含め弾道ミサイル攻撃から防衛が可能です。また広島県呉市、海上自衛隊呉基地までの距離も12kmで、弾道ミサイル迎撃範囲に含みます。呉基地の第4護衛隊群はイージス艦を運用していますが、イージス艦ちょうかい母港は佐世保となっています。一方、広島市に隣接する山口県岩国市の日米航空部隊拠点である岩国基地はPAC-3の射程圏外です。

 出雲駐屯地は、出雲大社の出雲市内にあり第13偵察隊が駐屯、先日サマーフェスタが行われたばかりです。松江市まで27km、米子市まで55kmあり、山陰地方の主要都市から距離があります。山陰地方には第8普通科連隊の駐屯する米子駐屯地や第17普通科連隊の駐屯する山口駐屯地がありますが、今回出雲駐屯地へPAC-3が配備された背景には、ミサイルの飛翔経路から万一の落下の可能性がある進路として出雲駐屯地が選ばれたのでしょう。

 松山駐屯地は第14特科隊などが駐屯しています。松山市は四国最大の都市で、松山駐屯地も松山市内の南梅本町に位置しており、松山市中心部まで8kmの距離にあり、伊予市などへも迎撃範囲に含みます。駐屯地には第14旅団隷下の第14高射特科中隊も駐屯していますが、陸上自衛隊の野戦部隊として部隊を攻撃する巡航ミサイルや航空機に備えるもので、弾道ミサイルの迎撃能力はありません。

 高知駐屯地は第50普通科連隊が駐屯しており、高知市ではなく香南市にあります。沿岸部ではなくやや高台にあり、高知空港まで8kmの位置にあります。高知市中心部までは約19kmで、PAC-3であれば高度によっては迎撃できる限度の距離です。このほか、高知駐屯地からの迎撃範囲には安芸市などが含まれます。高知県にはこの他航空自衛隊土佐清水分屯基地がありますが、こちらは更に人口密集地から遠い立地に在る通信施設です。

 中国四国地方へ展開したペトリオットミサイルPAC-3は岐阜基地の第4高射群から高射隊が今回派遣されています。高射隊は昨夜2000時頃に岐阜基地を進発、高速道路などを通行し今朝までに、海田市駐屯地、出雲駐屯地、松山駐屯地、高知駐屯地へ到着しました。陸上自衛隊の駐屯地へ展開するため、給食や休息施設などは陸上自衛隊駐屯地業務隊の支援が受けられますし、警備などにも第13旅団と第14旅団の支援を受けることができるでしょう。

 第4高射群より4個の射撃中隊を派遣した事で、現在は中部地方と京阪神地区のミサイル防衛部隊に深刻な空白が生じています。航空自衛隊には6個高射群24個高射隊のペトリオットミサイル部隊があり、射程100kmのPAC-2ミサイルにより低空から高高度までの航空機や巡航ミサイルに、射程15kmのPAC-3により宇宙空間から落下する弾道ミサイルへ警戒していますが、高射隊には5機の発射機があるのみで、PAC-3を運用するM-902発射機はうち2機、残る3基はPAC-2を運用するM-901発射機です。

 洋上には海上自衛隊イージス艦が展開し、PAC-3よりも射程の大きなSM-3ミサイルが防備に当たっています。SM-3は射程1300km、最大射高500kmというミサイル迎撃ミサイルで、放物線を描いて宇宙空間から落達する弾道ミサイルの放物線の頂点部分を中心に迎撃するミサイルです。イージス艦が展開しているのは日本海で、防衛省はSM-3で最初の迎撃を行い、可能性として撃ち漏らした場合に人口密集地域へ到達する前にPAC-3にて迎撃を行うとのこと。

 ミサイル迎撃は、日本へ落下する可能性がある場合を除き実施しません。故に自衛隊が迎撃を行う事は先制攻撃ではなく、特にPAC-3であれば射程内に入ってきた時点で既に着弾まで数秒前の段階です。特に射程の大きなSM-3でも500kmまでの中間段階の迎撃を行うもので、PAC-3については人口密集地に落下する直前に破壊力のある弾頭や燃料タンクなどを高高度にて爆砕、破片は落下しますが爆発し地上へ被害が及ぶことを阻止するものです。

 懸念するのは、北朝鮮が在日米軍基地や日本国内へミサイル攻撃を奇襲的に掛ける事です。北朝鮮は過去にも韓国内へ一方的に砲撃を仕掛ける事案が度々ありました、経済制裁への報復やアメリカの同盟国、国連加盟国や第二次世界大戦での朝鮮半島北部での被害への報復等、口実は説得力を度外視したならば幾らでもあるのです、この場合は日本国内へのミサイル攻撃という可能性を真剣に警戒しなければなりません。

 万一の際には国民保護法に基づくミサイル攻撃警報が自治体防災無線とテレビや携帯電話への一斉メールにより通達されます。ミサイルは核弾頭を搭載したものでなければ、直撃した場合でも半径200m以内の屋外にでている人員への致命的殺傷力が想定されますが、それ以上離れていたならば被害は極限できます、伏せるだけでも生存率は若干高まりますが、側溝に潜りこめば数十cmの違いですが爆風と破片の直撃を避けられるため、生存率は非常に高くなるのです。

 広島原爆投下の事例から、爆心地でも地下施設に待避したならば生存確率は十分あり、実際、爆心地近くの相生橋などは倒壊を免れました。ミサイル警報に接した場合には、落下地域に近い場合、慌てず住宅ならば浴室など構造が頑丈な設備に、マンションであれば地下駐車場や機械室など構造上頑丈な施設、商業施設ならば地下階や地下道、地下鉄など。車道であれば可能な限りトンネル内、ビル間の隘路など爆風が通りにくい場所に待避することで生存確率を大幅にあげることが可能です。

 爆発が近傍で発生した場合には、北朝鮮は先日マレーシアでのテロに使用したように、大量のVXガスなど神経ガスを装備しているため、対比するかどうかの情報が重要となります。地下室など気密性の高い場所に避難した場合を除き、滞留する地域の留まるよりは、NHKニュースなどの情報を的確に得て、落ち着いた行動を執る事が必要でしょう。退避さえしたならば、助けの手は必ず差し伸べられます、それまでに個々人で出来る措置を執る事が重要といえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする