数式での計算をするのがいわば私どもにとって商売ということで、鉛筆を数式の計算に使うのが学生時代からの習性となっていた。そして電動の鉛筆けづり器が長い間私には欠かせなかった。
というのはボールペンで計算をしていたら、数式の計算の修正に困るからである。鉛筆ならゴムで消せば、修正がすぐにできる。日本製のシャープペンシルは線が細くて使い物にならないとこぼしたら、「線の太いシャ-プペンシルもありますよ」と技官のOさんが教えてくれた。
それ以来、シャープペンシルを使うようになり、電動の鉛筆けづり器とおさらばした。いま使っているのは日本製のシャープペンシルではなくて、ドイツ製のFaber-Castelというシャープペンシルである。芯の直径が0.7mmと日本製のよりも太く、これでそれまで鉛筆と縁が切れなかったのが、縁が切れた。
計算といえば、岐阜大学にいた、 K 君などは数式の計算を万年筆でしており、計算をまちがえたときにはナイフでその箇所をけづって修正していた。もっともこの K 君はとても体力のある人であり、めったに計算違いをしないという、いわゆる計算の達者な人であった。
徹夜で計算をしていたのに翌日けろっとした顔で大学に顔を出すという、とても体力のある人であり、彼のやる計算などは私のようなすぐに体が疲れるものには真似がとうていできない。
彼は大学院修士課程のときの研究のテーマとして、高階スピンの問題をとりあつかったので、スピンが3/2とかスピン2とか、はたまた、スピン3とかの場の量子化に関心があった。スーパーグラヴィティの理論では高階スピンの場が必要なるだろうというのが彼の言い分であった。
いまでは、くり込み可能な量子場としてはスピン0, 1/2, 1に限られるという話だが、彼はそんなことをあまり気にしなかったのではなかったろうか。しかし、その頑健でたたいても死なないと思われた、彼が心臓の病で亡くなったのは、とても惜しまれることであった。
シャープペンシルのことを書くつもりであったが、いつものように話がはずれてしまった。